ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第47帖 総角 / 第8場面

弁のたばかりと中の君の部屋

あらすじ・人物・読み方

弁の計らいで、薫は誤って中の君の部屋に導かれる。人違いと知りながら、薫はそのまま夜を語り明かす。

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現代語で読む

客人〔薫〕は、このように表立って、あれこれの人に口を入れさせず、「ひそかに、いつあったこととも分からないように扱ってこそ」と思い始めなさったことなので、

「お許しくださらなければ、いつもいつも、こうして過ごしましょう」

とお思いになりおっしゃるのを、この老いた人〔弁〕が、それぞれ語って、表立ってひそひそ話し、そうは言うものの、深くない様子に、老いてひがんでいるのか、気の毒に見える。

姫宮〔大君〕は、お悩みになって、弁が参ったときに仰る。

「長年も、人とは違うご心寄せだとばかりおっしゃり続けたのを聞き置き、今となっては、万事残りなく頼り申し上げて、不思議なほど打ち解けてしまったのに、思っていたのと違う様子のご心づかいが混じって、恨みなさるらしいのは理不尽です。世間で人並みでありたい身であれば、このようなおことも、どうして離れて考えたりするでしょうか。

けれども、昔から〔世を〕思い離れ始めた心なので、たいそう苦しいのです。この君〔中の君〕の盛りを過ぎなさるのも残念です。本当に、このような住まいも、ただこのご縁のために手狭にばかり思われるのを、本当に昔をお思い申し上げるお志なら、同じこととしてお思いになってください。身を分けた〔姉妹の〕心のうちはすべて譲って、拝見する心地がするはずです。やはり、このようにうまくお伝えください」

と、恥ずかしがりながらも、あるべき様子をおっしゃり続けると、〔弁は〕たいそうしみじみと拝見する。

「そのようにこそ、前々もご様子を拝見すれば、たいそうよく申し上げさせるけれど、そうは思い改めなさるはずもなく、兵部卿宮〔匂宮〕のご恨みが、深さが増すらしいので、またそちらの方へ、たいそうよく後見申し上げよう、と〔薫は〕おっしゃいます。それも思う通りのおことです。お二方ともいらっしゃって、特に、たいそう心を尽くして大切にお世話申し上げなさるのに、どうして、このように世に得難いおことが、重なりなさらないことがあるでしょうか。

恐れ多いけれど、このようにたいそう頼りなさそうなご様子を拝見すると、どうなりお果てになるかと、心配で悲しくばかり拝見するのに、後のお心は分かりにくいけれど、美しくめでたいご宿命でいらっしゃるのだと、やっと思い申し上げます。

亡き宮のご遺言を違えまいとお思いになる点はもっともですが、それは、ふさわしい人がいらっしゃらず、身分ほどでないことがあるのではないかとお思いになって、お戒め申し上げなさったらしいのです。

この殿〔薫〕が、そのような心づかいをなさったなら、一人の方を安心して見置き申し上げて、どれほど嬉しかっただろうと、〔宮は〕折々におっしゃせなさったのに。身分身分に応じて、思う人に先立たれなさった人は、高い人も低い人も、思いがけなく、あってはならない様子でさまよう類でさえ多くございますようです。

それはみな例のことのようですから、非難して言う人もございません。まして、これほど、特に作り出したいほど立派な人のご様子に、志深く得難いようにおっしゃるのを、無理に遠ざけなさって、お思い置いたように、修行の本意を遂げなさるとしても、そうだからといって雲や霞をどうなさるというのでしょうか」

などと、すべて言葉多く申し続けると、〔大君は〕たいそう憎く好ましくないと思って、横になってお休みになった。

中の宮も、わけもなく気の毒なご様子だなあと、拝見なさって、一緒にいつものようにお休みになった。〔大君は〕心配で、どのようにしよう、とお思いになるが、わざとらしく、閉じこもってお隠れになるような物の陰さえないお住まいなので、しなやかで趣のあるお召し物を、上に引いて着せ申し上げなさって、まだ様子が暑いほどなので、少し転がって退いてお休みになった。

弁は、〔大君が〕おっしゃった様子を客人〔薫〕にお伝えする。「どうして、あれほどまで世を厭い離れようとなさるのでしょうか。聖のようでいらっしゃった〔八の宮〕のそばで、無常なものと悟っていらっしゃるからでしょうか」と〔薫が〕お思いになると、ますます自分の心が通うように感じられ、賢しらだって憎くも思われない。

「それなら、物越しなどでも、今はあってはならないこととお思いになっているのでしょう。今夜だけ、〔大君が〕お休みになっているあたりにでも、忍んで工夫してくれ」

と〔薫が〕おっしゃると、〔弁は〕心得て、人々を早く静まらせるなど、心を知り合った者同士で工夫を考える。

夜が少し更けた頃、風の音が荒々しく吹き、頼りない様子の蔀などはひしひしと鳴る音に紛れて、「〔大君が〕人が忍んでいらっしゃる気配に気づくことはあるまい」と思って、そっと〔薫を〕導き入れる。

同じ所に〔姫君が〕お休みになっているのを気がかりに思うが、いつものことなので、「別々にとも、どう申し上げられよう。ご様子も、間違いなくお見分けになるだろう」と思っていたところ、〔大君は〕うとうともなさらなかったので、ふと聞きつけて、そっと起き出された。とても早く這うようにしてお隠れになった。

何の心配もなく眠っていらっしゃる〔中の君〕を、とても気の毒に、どうしたことかと胸が潰れる思いで、共に隠れたいと思うが、そうも引き返せず、震えながら見ていらっしゃると、ほのかな灯火のもと、袿姿で、とても馴れた様子に几帳の帷子を引き上げて〔薫が〕入るのを、ひどく気の毒に思い、「〔中の君は〕どうお思いになるだろう」と思いながら、〔大君は〕粗末な壁の面に屏風を立てた後ろの、居心地の悪そうな所に座っていらっしゃった。

「想像だけでも、つらいとお思いになっていたのに、まして、どんなに思いがけないこととして疎んじなさるだろう」と、とても心苦しい上に、まったく頼りになる後見もなく、落ちぶれて残る身の悲しさを思い続けるにつけ、これが最後と山へ登って行かれた夕べの〔八の宮の〕ご様子などが、ちょうど今のことのように感じられ、ひどく恋しく悲しくお思いになる。

中納言〔薫〕は、独り臥している〔姫君〕を、待ち受けていたのかとうれしく、心ときめかせるが、だんだんそうではないのだと見る。「今少し美しく可愛らしい様子が勝っているかな」と感じられる。

あっけにとられて当惑している様子が、「なるほど、〔私の〕心も知らなかったのだ」と見えるので、とても気の毒でもあり、また翻って、隠れていらっしゃるだろう〔大君の〕つらさが、心から心憂く妬ましいので、この人をも他人のようには思い放つことはできないだろうけれど、やはり本来の願いと違うのは残念で、

「突然で軽率だったともお思いにならないでください。この一事は、なおそのままにして、結局、前世の因縁から逃れられなければ、こちら向きになるのも、どうして他人のようにするでしょうか」

と思い直して、いつものように、趣があり親しみのある様子で語らって夜を明かされた。

老いた女房たちは、〔何か〕しでかしたと〔大君を〕思って、

「中の宮は、どこにいらっしゃるのだろう。不思議なことだな」

と、探し合っている。

「そうはいっても、何かわけがあるのだろう」

などと言う。

「だいたいいつも、お見受けすると皺が伸びる心地がして、素晴らしく心惹かれて見ていたいご容貌やご様子なのに、どうして、あんなに遠ざかってお申し上げなさるのだろう。何か、これは世の人が言うらしい、恐ろしい神が、お憑き申し上げているのだろう」

と、歯はすき、愛嬌なく言い立てる女がいる。また、

「ああ、縁起でもない。何の物がお憑きになるものか。ただ、人里離れてお育ちになっているらしいので、こういうことにも、ふさわしくおもてなし申し上げる人もなくいらっしゃるので、きまり悪くお思いになるからこそ。今自然にお見受けして慣れなされば、お思い申し上げるようになるでしょう」

などと語らって、

「早く打ち解けて、思うようでいらっしゃればよい」

と言いながら眠って、いびきなど、そばで聞くのが辛い者もある。

逢う人ゆえでもない秋の夜だが、ほどもなく明けてしまった心地がして、どちらとも分けようもなく優美なご様子を、人に言われてではなく飽きない心地で、

「互いに思い合いなさい。とても心憂く情けないあの人のご様子を、見習いなさるなよ」

などと、後々を約束して出ていらっしゃる。自分ながら不思議で夢のように感じられるが、やはり冷たいあの人のご様子を、もう一度見届けようという心に、思いを抑えながら、いつものように、出て臥していらっしゃった。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第47冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。