第47帖 総角 / 第9場面
紅葉の歌と尽きぬ思い
あらすじ・人物・読み方
薫は大君への思いの冷めないことを思い知る。紅葉の枝に寄せた贈答を交わし、やがて匂宮への橋渡しを思い立つ。
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現代語で読む
弁が参って、
「とても不思議なことに、中の宮は、どこにいらっしゃるのでしょう」
と言うのを、とても恥ずかしく思いもかけないお心地で、「どういうことだったのだろう」と思いながら臥していらっしゃった。昨日おっしゃったことを思い出して、姫宮〔大君〕を情けないとお思い申し上げる。
明けた光につれて、壁の中のこおろぎのように〔大君が〕這い出ていらっしゃった。お思いになるだろうことがとても気の毒なので、互いに物も言われない。
「心惹かれる様子もなく、心憂くもあることだ。今から後も、心が緩むはずもない世の中であるのに」
と思い乱れていらっしゃった。
弁はあちらに参って、驚くほどだった〔大君の〕ご心の強さを聞き表して、「あまりに深く、人が憎くなることだ」と、気の毒に思いぼんやりしていた。
「これまでのつらさは、まだ残りがある心地がして、あれこれ思い慰めてきたが、今夜は、本当に恥ずかしく、身も投げてしまいたい心地がする。捨てがたく落としてお残しになった〔父宮の〕心苦しさを思い申し上げる点では、また、一途に、身をも思い捨てることはできないだろう。大げさな筋合いは、どちらにも思い申し上げまい。憂いもつらさも、それぞれお忘れになるはずもない。
宮などが、恥ずかしげもなくお申し上げになるらしいのを、同じことなら気高く、と思う点では格別でいらっしゃるのだろう、と理解し終わったので、とてももっともなことに恥ずかしくて。また参って、人々にお目にかかることも妬ましいのです。よし、このように愚かしい身の上を、他の人にさえ漏らしなさるな」
と、恨み言を残して、いつもより急いで出ていらっしゃった。「誰のおためも気の毒に」と、ささやき合っている。
姫君も、「どうしたことだろう、もし疎かな心でいらっしゃったら」と、胸が潰れて心苦しいので、すべて、調子に合わない人々の賢しらを、憎いとお思いになる。あれこれお思いになるところに、お手紙がある。いつもよりうれしいとお思いになるのも、一方では不思議だ。秋の様子も知らない顔で、青い枝の、片方の枝がとても濃く紅葉しているのを、
同じ枝を分けて染めた山姫に、どちらが深い色かと尋ねたい
あれほど恨んだ様子も、言葉少なにそぎ落として、押し包んでいらっしゃるのを、「とりとめなくあしらって終わりにするつもりらしい」とご覧になるのも、心騒いで見る。
やかましく、「お返事を」と言うので、「〔中の君が〕お申し上げなさい」と譲るのも、嫌に思われて、やはり書きにくく思い乱れていらっしゃる。
山姫が染める心は分からないが、移っていく方が深い色になるのだろう
何でもないように書いていらっしゃるのが、趣深く見えたので、やはり恨み終わることはできないと感じられる。
「身を分けるように、〔妹へ〕譲ろうとなさる様子は、たびたび見えたが、承知しないのに困って、工夫なさったらしい。その甲斐もなく、このように冷たくされるのも気の毒で、情けのない者と思われて、ますます初めの思いが叶いにくくなるのだろうか。
あれこれ言い伝えなどするらしい老い人の思うところも軽々しく、とにかく心を染めたことさえ悔しく、これほどの世の中を思い捨てようという心に、自分でも叶わなかったと、人に悪く思い知られるのを、まして、並の好色者の真似をして、同じあたりを繰り返し漕ぎ巡るのは、とても人の笑いものになる棚なし小舟のようであるだろう」
などと、一晩中思い明かしていらっしゃって、まだ有明の空も趣深い頃に、兵部卿宮のお方へ参っていらっしゃる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第47冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。