ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第48帖 早蕨 / 第13場面

桜のころの二条院訪問

あらすじ・人物・読み方

桜の盛り、薫は二条院を訪れる。中の君との対面が許され、二人は大君のいた日々を思い出して語り合う。

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花盛りのころ、二条院の桜を御覧になると、主人のいない山荘がまず思いやられなさるので、「気兼ねなく散るのだろうか」などと、独り言を言い余って、宮のお側に参上なさった。

こちらにばかりお住まいになって、たいそうよく住み馴れていらっしゃるので、「安心なことだ」と拝見するものの、例によって、どうかと思われる心が添うのは、妙なことであるよ。けれども、本当のお気持ちは、とても心強く安心なことだとお思い申し上げなさるのであった。

何やかやとお話を申し上げなさって、夕方、宮は宮中へ参内なさろうとして、お車の用意をさせて、お供の人びとが大勢集まって来たりなどしたので、お出になって、対の御方へ参上なさった。

山里の様子とはうって変わって、御簾の中で奥ゆかしく暮らして、かわいらしい童女の透影がほのかに見えるのを介して、ご挨拶申し上げなさると、お褥を差し出して、昔の事情を知っている人なのであろう、出て来てお返事を申し上げる。

「朝夕の隔てもなくお訪ねできそうに存じられます近さですが、特に用事もなくてお邪魔するのも、かえってなれなれしいという非難を受けようかと、遠慮しておりましたところ、世の中が変わってしまった気ばかりがしますよ。お庭先の梢も霞を隔てて見えますので、胸に満ちることが多くございます」と申し上げて、物思いに耽っていらっしゃる様子が、お気の毒なのを、

「おっしゃるとおり、生きていらしたら、何の気兼ねもなく行き来して、お互いに花の色や鳥の声を、季節折々につけては、少し心ゆくまで過ごすことができた世の中を」などと、お思い出しなさるにつけて、一途に引き籠もって生活していらした心細さよりも、ひたすら悲しく、残念なことが、いっそう募るのであった。

底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第48冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。