源氏物語 第48帖
早蕨 さわらび
あらすじ
大君を失い宇治に一人残された中の君のもとに、喪の明ける春が来る。山の阿闍梨の初蕨の歌に始まり、匂宮の強い望みで中の君は二条院へ移る。薫は失われた日々を思い、弁の尼は宇治に残る。移転をめぐる人々の心が静かに交錯する帖。
この帖の人物
場面 第1–5場面
第1場面宇治の新春、阿闍梨の初蕨大君を失った宇治に春が巡る。中の君は姉のいない日々を夢のように過ごす。山の阿闍梨から、例年のように蕨や土筆が歌とともに届けられる。第2場面中の君、阿闍梨への返歌中の君は「峰の早蕨」の返歌を阿闍梨に送る。面痩せした中の君は亡き大君にますます似て見える。匂宮は中の君を京の二条院へ迎える決意を固める。第3場面薫、匂宮を訪ねる正月下旬、薫は匂宮を訪れる。梅の下枝を携えた薫に、匂宮は梅の歌を贈り、二人は戯れの贈答を交わす。第4場面匂宮、京へ迎えることを語る夜更けまで語り合う二人。匂宮は中の君を京へ迎える相談をし、薫は後見を引き受ける。薫は亡き大君への悔いを胸に、移転の支度を用意させる。第5場面服喪の明ける宇治宇治では移転の支度が進むが、中の君は宇治を荒らして去る心細さに沈む。二月朔日が近づき、喪服を脱ぐ日も迫る。
場面 第6–10場面
第6場面出立前日、薫の宇治訪問出立を明日に控え、薫は早朝に宇治を訪れる。障子越しに中の君と対面し、近い将来の行き来を約束しながらも、胸の内では悔いが募る。第7場面紅梅をめぐる贈答御前近くの紅梅の香に、鴬の声も昔を誘う。中の君がかすかに口ずさんだ歌に薫が応え、二人は涙を隠して別れる。第8場面弁の尼との対面薫は移転の始末を定め、尼となった弁をしいて召し出す。弁は大君に殉じなかった命の辛さを涙ながらに訴え、薫は慰める。第9場面弁の尼と中の君の別れ弁は宇治に留まる決意を中の君に語る。海人の歌の贈答ののち、中の君は姉の調度を弁に残し、別れを惜しむ。第10場面宇治を出発二月七日、中の君は宇治を発つ。車中の大輔の君と老女房の歌に中の君は世の無常を思い、月明かりの山路を京へ向かう。
場面 第11–14場面
第11場面二条院への到着中君は二条院に到着し、匂宮自らの出迎えを受ける。その夜、三条の宮にいた薫は供人の報告に、嬉しさと嫉妬の入り混じった思いに沈む。第12場面六の君の裳着と夕霧の思案夕霧は六の君の裳着を二十日過ぎに行う。中納言を婿にと打診するが、薫の返事はそっけなく、夕霧は恨みながらも強くは勧められない。第13場面桜のころの二条院訪問桜の盛り、薫は二条院を訪れる。中の君との対面が許され、二人は大君のいた日々を思い出して語り合う。第14場面匂宮の疑心女房たちは薫への遠慮のない待遇を勧めるが、中君はためらう。参内する匂宮は薫に言葉をかけ、中君の「疑はしき下の心」という返しに、薫は苦い思いを抱く。
出典・底本
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第48冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。