第48帖 早蕨 / 第4場面
匂宮、京へ迎えることを語る
あらすじ・人物・読み方
夜更けまで語り合う二人。匂宮は中の君を京へ迎える相談をし、薫は後見を引き受ける。薫は亡き大君への悔いを胸に、移転の支度を用意させる。
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こまごまとしたお話になってからは、あの山里の御事を、まずはどうしているかと、宮はお尋ね申し上げなさる。中納言も、亡くなった方のことが諦めきれず悲しいことを、その当時から今日まで思いの絶えないことを、折々に、悲しくも風流にも、泣いたり笑ったりというように申し上げなさると、ましてあれほど色っぽく涙もろいご性癖は、人のお身の上のことでさえ、袖をしぼるほどになって、話しがいがあるようにお答えなさっているようである。
空の様子もまた、なるほど心を知っているかのように霞んでいる。夜になって、烈しく吹き出した風の様子はまだ冬らしくてまことに寒そうで、大殿油も消えかかり、闇は頼りない様子だが、互いに話をやめることもできず、尽きないお話を心ゆくまで話しきれないで、夜もたいそう更けてしまった。
世にも稀な二人の仲のよさを、「さあ、そうはいっても、とてもそんなばかりではなかったでしょう」と、隠し事があるようにお尋ねになるのは、理不尽なご性癖のせいであろう。そうは言っても、物事をよくお分かりになって、悲しい心の中も晴れるように、一方では慰め、また悲しみを忘れさせ、いろいろとお語らいになる、そのご様子の魅力に引かれ申して、なるほど、心に余るほど鬱積していたことがらを少しずつお話し申し上げなさるのは、この上なく胸の晴れる気がなさる。
宮も、あの方を近々お移し申そうとすることについて、ご相談申し上げなさるのを、「まことに嬉しいことでございます。心ならずも、自分の過失と存じておりました。諦めきれない故人の縁者を、また他に尋ねるべき人もございませんので、後見一般としては、どのようなことでもお世話申し上げるべき方と存じておりますが、もし不都合とお思いになりましょうか」
と言って、あの、「他人とお思いになるな」とお譲りになったお心のほども、少しはお話し申し上げなさるが、岩瀬の森の呼子鳥のようだった夜のことは、話されずにいた。心の中では、「このように慰めがたい形見にも、なるほど、おっしゃったとおり、このようにお世話申し上げるべきであった」と、悔しさがしだいにまさってゆくが、今は甲斐のないことなので、「常にこうばかり思っていたら、あってはならない心も出てくるかもしれない。誰にとってもつまらなく、馬鹿らしいことだろう」と思い離れる。「それにしても、お移りになるにしても、本当にご後見申し上げる人は、ほかに誰がいようか」とお思いになるので、お引越しの準備も用意おさせになる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第48冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。