第48帖 早蕨 / 第7場面
紅梅をめぐる贈答
あらすじ・人物・読み方
御前近くの紅梅の香に、鴬の声も昔を誘う。中の君がかすかに口ずさんだ歌に薫が応え、二人は涙を隠して別れる。
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御前近くの紅梅が、色も香も懐かしいので、鴬でさえ見過ごしがたそうに鳴いて渡るようなので、まして「春や昔の」と心を惑わしなさるどうしのお話に、折からしみじみと心を打つのである。風がさっと吹き入ってくると、花の香も客人のお匂いも、橘ではないが、昔が思い出されるよすがである。「所在ない気の紛らわしにも、世の辛さの慰めにも、心をとめて賞美なさったものを」などと、胸に余りなさるので、見る人もいなくなり、嵐に吹き乱れる山里に、昔を思い出させる花の香がしています。言うともなくかすかに、とぎれとぎれに聞こえるのを、懐かしそうにちょっと口ずさんで、
かつて袖を触れた梅は変わらぬ匂いのままですが、根ごと移ってしまうこの邸は、よそのものになってしまうのでしょうか。堪えきれない涙を体裁よく拭い隠して、言葉数多くもなく、「またやはり、このようにして、何事もお話し申し上げるのがよいでしょう」などと、申し上げおいてお立ちになった。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第48冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。