第49帖 宿木 / 第7場面
朝顔の贈答
表示と音声の設定
現代語で読む
などと〔思いながら〕、いつもより、そのまま眠らず夜を明かしなさった朝に、霧のかかる垣根から、花が色々と趣深く見え渡る中に、朝顔がはかなげに混じっているのを、やはり特に目が留まるお気持ちがなさる。「明ける間咲いて」とかいう〔古歌のように〕、無常な世になぞらえるのが、気の毒なようだ。
格子も上げたまま、とてもかりそめに横になりながらばかり夜を明かしなさったので、この花が開くほどをも、ただ一人だけご覧になっていた。
〔薫は〕人を召して、
「北の院に参るのに、大げさでない車を出させよ」
とおっしゃると、
「宮〔匂宮〕は、昨日から宮中においでだそうです。昨夜、御車は〔供を〕連れて帰ってございました」
と申し上げる。
「それはよい、あの対の御方〔中の君〕がお悩みだというのを、お見舞い申し上げよう。今日は宮中に参るべき日なので、日が高くならないうちに」
とおっしゃって、御装束をなさる。お出ましになるままに、〔庭に〕降りて花の中に混じっておいでの様子は、わざと艶っぽく色めいてもお振る舞いにならないのに、不思議と、ただちらりと見るだけでも優美で恥ずかしげで、たいそう風情を見せる色好みたちになぞらえようもなく、自然と趣深くお見えになった。朝顔を引き寄せなさると、露がひどくこぼれる。
今朝の間の色を賞でようか、置く露が消えないでかかっている花を、見ながら〔思う〕。
はかないことだ」
と独り言を言って、〔朝顔を〕折ってお持ちになった。女郎花は、見過ごしてお出かけになった。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第49冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像(IIIF)と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。