ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第50帖 東屋 / 第5場面

婚儀の夜

あらすじ・人物・読み方

仲人の取り持ちで婚儀が決まり、約束の夕暮れに少将が通い始める。北の方は浮舟の身の上を案じ、守は実の娘への縁談と受け取って騒ぎ立てる。

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東屋・第5場面0 / 12
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「さて、あの北の方には、このようにもしたか。心ざし深く思い始めていらっしゃるのに、取り違えたら、ひがひがしくねじけたように取りなす人もあろう。いやはや」とお思いになってためらっているのを、

「何か。北の方も、あの姫君を、ひどく貴いものに思い大事にお育て申し上げていらっしゃるのでした。ただ真ん中のこの守の娘で、年も大人びていらっしゃるのを、心苦しいことに思って、そちらにとお向け申し上げられたのでした」と聞こえる。「月ごろは、またとなく世の常でなく大事に育てると言ってきたものの、突然にこう言うのもどうだろうかと思うけれど、やはり、一通りは辛いと思われ、人には少し非難されても、長生きして頼もしいことを」と、ひどく賢い君で、思い取っていらっしゃったので、日をさえ取り替えないで、約束した夕暮れに、通い始めなさった。

北の方は、人知れず急ぎ立って、人々の装束をさせ、調度などを立派になさる。御方をも、髪を洗わせ、取り繕って見ると、少将などというほどの人に見せるのも、惜しくもったいない様子を、「ああ。親に知られ申し上げてお育ちなさったなら、お亡くなりになったけれども、大将殿の仰るような様子に、大それていても、どうして思い立たなかっただろう。けれど、内々ではこう思っても、他の評判は、守の子とも思い分けず、また、実を尋ね知る人も、かえって貶め思うだろうことが悲しい」など、思い続ける。

「どうしよう。盛りを過ぎなさるのも情けない。卑しくなく、無難なほどの人が、このように熱心に仰るらしいのを」など、心一つに思い定めるのも、仲人がこのように言うのが上手で素晴らしいので、女はなおさら騙されているのだろうか。明日明後日と思えば、心慌ただしく忙しいのに、こちらでも心のどかにいられず、そわそわ歩くのに、守が外から入って来て、長々と、滞るところもなく言い続けて、

「私を思い隔てて、吾子の懸想人を奪おうとなさったとは、大それて心幼いこと。立派な御娘を、お用いなさる君たちはいないだろう。卑しく異様な、何某らの娘を、卑しくも尋ね仰るらしい。賢く思い企てられたけれど、まったく本意なしといって、他ざまへ思いなりなさるはずなので、同じことならと思って、それでは御心と、許し申した」など、不思議に奥がなく、人の思うところも知らない人で、言い散らして座っていた。

北の方は、呆れて物も言えず、しばらく思うのに、心の憂さを書き連ね、涙も落ちないほど思い続けられて、そっと立った。

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底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第50冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。