ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第51帖 浮舟 / 第1場面

匂宮の執心

あらすじ・人物・読み方

二条院の匂宮は、宇治の中の君と睦まじく暮らしながらも、かつて垣間見た浮舟の面影を忘れられず、年の初めから思いに沈む。

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浮舟・第1場面0 / 31
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宮は、なお、あのほのかに見た夕べのことをお忘れになる時がない。「仰々しいほどではなかったが、人柄が真面目で趣もあったな」と、たいそう浮気なご性分の宮は、「惜しいまま終わってしまったことだ」とねたましく思われるままに、女君(中の君)をも、

「こんなつまらないことのために、むやみに、こういう方面で私を憎んでいらっしゃったのだ。思いがけずつらい」と、恥をかかせ恨み言をおっしゃる折々は、たいそう苦しくて、「ありのままにお話ししようか」とお思いになるが、

「高貴な方としてはお扱いなさらないだろうけれど、浅からぬ方面で、心を留めて人が隠し置いている人を、騒ぎ立てずに申し出たとしても、

そのまま聞き流しなさるようなご気性でもなさそうだ。仕える女房の中でも、少しでも評判の者を言い寄ろうとお思い立ちになったからには、あるまじき里まで探させなさるご様子の、よくないご本性であるところ、それほど月日が経って、

お思い詰めていらっしゃる方面では、まして必ず見苦しい騒ぎをお取り出しになるだろう。他から伝え聞きなさったら、どうなさるだろう。どちらの方面にとっても気の毒なことではあっても、防ぎようのある方のご気性ではないので、他人からよりは聞きにくいなどとばかり思われるのだろう。

どうなっても、私の落ち度で台無しにはすまい」と思い返されながらも、気の毒に思いながら申し出ることができず、別の方面でふさわしくも、上手く言いなすこともできず、押し込めて恨みがましくしている、世間並みの人になっておられた。

あの人(薫)は、比べようもなくゆったりとお考えになっていて、「待ち遠しいと思っているだろう」と、心苦しく思いやりながらも、窮屈な身のほどで、しかるべき機会がなくて、

そのように通いなさる道ではないので、神が諌めるよりも始末が悪い。しかし、「今はたいそうよくもてなそうと思う。山里の慰めと思い定めていた心があるので、少し日数が経ちそうな用事を作り出して、ゆっくりと行って会おう。

そして、しばらくは人に知られない住まいとして、だんだんそうした方面に、あの人の心をのどかに落ち着かせ、私のためにも、人の非難がないよう、並々であるのがよいだろう。

急に、誰なのか、いつからか、などと聞き咎められるのも、騒がしくて、初めの心に違うだろう。また、宮の御方(女二の宮)が聞いてお思いになることも、もとの所をはっきりと引き離して、昔を忘れた顔をするのは、たいそう本意でない」

などとお思い鎮めるのも、いつもの、ゆったりし過ぎた心からなのだろう。移すはずの場所をお心に決めて、ひそかに造らせなさった。少し暇のないようにもおなりになったけれど、宮の御方(女二の宮)には、なお怠りなく心を寄せお仕えすることは同じようである。

お世話する人も不思議なほどに思うけれど、世の中をだんだんお知りになり、人の様子を見聞きなさるままに、「これこそ本当に昔を忘れない心の長さの、

名残まで浅くない例のようだ」と、しみじみ思うことも少なくない。年長になられるままに、人柄も評判も、様子が格別でいらっしゃるので、宮(匂宮)のご心があまり頼もしくない時々は、

「思いがけない宿世だな。故姫君(大君)がお定めになったままでもなく、こんなに物思いをすべき方に縁を持ち始めてしまったよ」とお思いになる折々が多くある。しかし、対面なさることは難しい。

年月もあまりに昔を隔ててゆき、内々のご心を深く知らない人は、並々のただの人こそ、それほどの縁故を尋ねた親しみをも忘れないのがふさわしいけれど、なまじ、こう限りある身分では、

例と違った有様も、はばかられるので、宮が絶えずお疑いになるのも、ますます苦しく憚られながら、自然と疎遠な様子になってゆくのを、そうはいっても絶えず、

同じ心がお変わりにならないのだった。宮も、浮気なご本性には、見ていて嫌な節も混じるけれど、若君がたいそう可愛らしくお育ちになるままに、「他にはこんな人も出てこないのではないか」と、大切なものにお思いになって、

打ち解けて懐かしい方面では、人にまさってもてなしなさるので、以前よりは少し物思いが静まってお過ごしになる。

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底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第51冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。