ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第51帖 浮舟 / 第24場面

最後の文と鐘の音

あらすじ・人物・読み方

浮舟は母への返事に歌を託し、誦経の巻数に最期の歌を書き付け、世を捨てる夜を迎える。

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浮舟・第24場面0 / 39
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右近は、言い切った旨を言っているところに、君は、ますます思い乱れることが多くて臥せっていらっしゃるところに、入って来て、あった様子を語るのに、お返事もなさらないが、枕がだんだん浮いてくるのを、

一方ではどう見るだろう、とはばかられる。明朝も、不思議だろう目元を思うと、当てもなく臥している。物儚げに帯などをして経を読む。「親に先立つ罪をお消しください」とだけ思う。

あった絵を取り出して見て、お描きになった手つき、顔の匂いなどが、向かい申し上げたように覚えるので、昨夜、一言さえ申し上げられずに終わったのは、やはり今一段と優って、大変だと思う。

「あの、心のどかな様子で見よう、と行く末の遠いことをおっしゃり通す人も、どうお思いになるだろう」と気の毒だ。辛い様子に言いなす人もいるだろうこそ、思いやり恥ずかしいけれど、「心浅く、怪しからず人笑いになるのを、お聞かせ申し上げるよりは」などと思い続けて、

嘆きあぐねて身を捨てるとしても、亡き後に浮名を流すようなことになるのを思うのです。親もたいそう恋しく、いつもは、特に思い出さない弟妹の醜いのも、恋しい。宮の上をお思い出し申し上げるのにも、すべて今一度見たい人が多い。

人は皆、それぞれ物染めに急ぎ、あれこれと言うけれど、耳にも入らず、夜になれば、人に見つけられず、出て行くべき方を思い設けながら、寝られないままに、気分も悪く、皆違っている。

明けたならば、川の方を見やりながら、羊の歩みよりもほど遠くない心地がする。宮は、大変なことどもをおっしゃっている。今さらに、人が見ようと思うと、このお返事をさえ、思うままにも書かない。

せめて殻だけでも憂き世の中に留めなければ、どこを墓とあなたも恨むでしょう。とだけ書いて出した。「あの殿にも、今際の様子を見せ申し上げたいけれど、あちこちに書き置いて、離れないお仲なので、ついにお聞き合わせになることは、たいそう辛いだろう。

すべて、どうなったのだろうと、誰にも気がかりなままで終わってしまうだろう」と思い返す。京から、母のお文を持って来た。「寝た夜の夢に、たいそう騒がしくお見えになりましたので、誦経を所々させなどしておりましたのを、そのまま、その夢の後、寝られなかったせいでしょうか、ただ今、昼寝をしております夢に、

人が忌むということが、お見えになりましたので、驚きながら差し上げます。よくお慎みなさい。人離れたお住まいで、時々立ち寄らせなさる人のご縁もたいそう恐ろしく、悩ましいようにしていらっしゃる折しも、夢がこのようなのを、万事に思いなさる。

参って来ていただきたいのを、少将の方が、やはり、たいそう心許なげに、物の怪らしく患っておりますので、片時も立ち去ること、と大変に言われております。

その近くの寺にもお誦経させなさい」と言って、その料の物、文などを書き添えて、持って来た。限りと思う命のほどを知らず、こんなに言い続けておいでのも、たいそう悲しいと思う。

寺へ人を遣わした間、お返事を書く。言いたいことが多いけれど、はばかられて、ただ、

後の世でまた会い見ることを思ってください。この世の夢に心を惑わせないで。誦経の鐘が風に乗って聞こえて来るのを、つくづくと聞き臥していらっしゃる。

鐘の音の絶える響きに泣き声を添えて、私の世は尽きたとあなたに伝えてください。巻数を持って来たのに書き付けて、「今宵は、帰れない」と言うと、物の枝に結び付けて置いた。乳母が、

「不思議に、心走りがするな。夢も騒がしい、とおっしゃっていました。宿直人、よく控えよ」と言わせるのを、苦しいと聞き臥していらっしゃる。

「物をお聞きにならない、たいそう不思議だ。お湯漬けを」など万事に言うのを、「賢しがるようだけれど、たいそう醜く老い成って、私がなければ、どこにいるのだろう」と思いやりなさるのも、たいそうあわれだ。

「世の中に生き果てられない様子を、ほのめかして言おう」などとお思いになると、まず驚かされて先立つ涙を、包みなさって、物も言えない。

右近が、ほど近く臥すと言って、「こんなにばかり物をお思いになると、物思う人の魂は、抜け出るものなので、夢も騒がしいのでしょう。どちらとお思い定まって、どうにかこうにか、おいでになりましょう」

と少し嘆く。萎れた衣を顔に押し当てて、臥していらっしゃる、という。

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底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第51冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。