第51帖 浮舟 / 第9場面
二条院の思案
あらすじ・人物・読み方
帰京した匂宮は、中の君への後ろめたさを抱えながら浮舟への思いを募らせる。訪れた薫とは、宇治の姫のことで歌を交わして心を探り合う。
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この五位二人が、お馬の口元に控えていた。賢い山越えを出て、それぞれ馬に乗る。汀の氷を踏み鳴らす馬の足音まで、心細く物悲しい。
昔もこの道でばかり、このような山踏みはなさったので、「不思議だった里の契りだな」とお思いになる。二条の院にお着きになって、女君のたいそう心苦しかったお物隠しも辛いので、心安い方で大殿籠もりになったところ、お休みになれず、たいそう寂しいのに、物思いが増すので、
心弱く対にお渡りになった。何の心もなく、たいそう清らかでいらっしゃる。「珍しく趣があるとご覧になった人よりも、またこちらはなお稀な様子をしていらっしゃるな」とご覧になりながら、たいそうよく似ているのをお思い出しになるのも、胸が塞がるので、
ひどく物思いなさった様子で、御帳に入って大殿籠もりになる。女君も連れて入って申し上げなさって、「気分がたいそう悪い。どうなるのだろうかと、心細くもある。
私は、大変にあわれと見置き申し上げても、お有様はたいそう早く変わってしまうでしょう。人の本意は、必ず叶うものだから」とおっしゃる。「とんでもないことをも、真面目にまでおっしゃるな」と思って、
「このように聞きにくいことが漏れて聞こえたら、どのように申し上げたのかと、人もお思い寄りなさるのが、驚くばかりだ。心苦しい身には、とりとめないこともたいそう苦しく」
と言って、背きなさった。宮も、真面目になりなさって、「本当に辛いと思い申し上げることもあるのは、どうお思いになるべきか。私は、おためには並々でない人間でしょうか。
人も、稀だなどと、非難するまではある。やはり、人には格別に思い落としなさるようです。誰もそうあるべきだと、理屈では分かるのを、隔てなさるお心の深いのが、たいそう心苦しい」
とおっしゃるのにも、「宿世が並々でなくて、尋ね寄ったのだ」とお思い出すと、涙ぐまれる。真面目なのを、「気の毒に、どのようなことをお聞きになったのだろう」と驚かれるのに、ご返事申し上げる言葉もない。
「儚い様子で見初めなさったのに、何事も軽く推し量りなさるのでしょう。とりとめない人を案内として、その心寄せを思い知り始めたりした過ちばかりに、評判の劣る身です」とお思い続けるのも、万事悲しくて、ますます可愛らしいお気配である。
「あの人を見つけたことは、しばらく知らせ申し上げまい」とお思いになると、「別の様子に思わせて恨みなさるのを、ただこの大将のことを真面目におっしゃる」とお思いになると、
「人が虚言を確かなように申し上げたのではないか」などとお思いになる。あるかないかを聞かない間は、お会い申し上げるのも恥ずかしい。内裏から大宮のお手紙があるのに、驚きなさって、なお心の解けないお様子で、あちらにお渡りになった。
「昨日の気がかりなこと。悩ましくお思いになったそうだが、よければ参りなさい。久しくもなっているのを」などのように申し上げなさるので、騒がれ申し上げるのも苦しいけれど、本当にお気分も悪くなったようで、その日は参りなさらなかった。
上達部などが、大勢参りなさっても、御簾のうちで暮らしなさる。夕方、右大将が参られた。「こちらに」と言って、打ち解けながら対面なさった。
「悩ましいようでいらっしゃいます、とございましたので、宮にもたいそう気がかりにお思い召して。どのようなお悩みですか」と申し上げなさる。見るからに、お心騒ぎがますます増すので、言葉少なくして、「聖ぶると言いながら、格別だった山伏心だな。
それほどあわれな人を、そのまま置いて、心のどかに月日を待ちかねさせているよ」とお思いになる。いつもは、さほどでもないことの機会にさえ、私は真面目な人ともてなし名乗りなさるのを、ねたがりなさって、万事におっしゃり破るのを、こんなことを見現したのを、どうおっしゃるだろう。
けれども、そのような戯れ言も口になさらず、たいそう苦しそうに見えなさるので、「不便なことだな。大げさでないお気分の、さすがに日数が経つのは、たいそう悪いことです。お風邪をよくお治しなさい」
などと、真面目に申し上げ置いてお出になった。「恥ずかしい人だな。私の有様を、どう思い比べたのだろう」など、様々なことにつけても、ただこの人を、時の間も忘れずお思い出しになる。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第51冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。