第52帖 蜻蛉 / 第8場面
橘の贈答
あらすじ・人物・読み方
二条院で薫は橘を折って匂宮に歌を贈り、宮の返歌を受ける。中の君は二人の深い思いを知る。
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後の仕度なども、ひどく儚くしていたのを、「宮にもどうお聞きになるのだろう」と、痛々しくあえなく、「母のなおなおしくて、兄弟あるはなど、そのような人は言うことがあるのを思って、事を削ぐのだろうよ」など、心好きなく思われる。
心もとなさも限りないのを、あった様子も自ら聞きたいと思われるけれど、「長籠もりしなさるのも便が悪い。行きと行きして立ち帰ろうも心苦しい」など、思い煩う。
月が立って、「今日ぞ渡ろう」と思い出でなさる日の夕暮、ひどく物あはれだ。御前近くの橘の香の懐かしいのに、ほととぎすが二声ほど鳴いて渡る。「宿に通えば」と独りごちますのも飽かず、北の宮〔匂宮〕に、ここにお渡りの日だったので、橘を折らせて申し上げなさる。
忍び泣く音に、君も泣いているのだろうか。甲斐もないことだが、死出の田長に心が通うならば。
宮は、女君の御様子がひどくよく似ているのを、あはれと思いなさって、二所を眺めなさる折だった。「様子ある文だな」と御覧になって、
橘の薫るあたりでは、ほととぎすは心してこそ鳴くべきであるよ。
煩わしい」
と書きなさる。
女君は、この事の様子は、皆見知りなさっていた。「あはれに浅ましい儚さの、さまざまにつけて心深い中に、我一人物思い知らないで、今まで長らえているのだろうか。それもいつまで」と心細く思われる。宮も、隠れない物から、隔てなさるのもひどく心苦しいので、あった様子など、少しは取り直しつつ語り申し上げなさる。
「お隠しになったのが辛かった」
など、泣きみ笑いみ申し上げなさるのにも、他の人よりは睦ましくあはれだ。仰々しく厳しくて、例ならぬ御事の様子も、驚き惑いなさる所では、御訪らいの人が繁く、父大臣、兄の君たち隙ないのも、ひどくうるさいのに、ここはひどく心安くて、懐かしくぞ思われなさるのだった。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第52冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。