ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第54帖 夢浮橋 / 第2場面

僧都の語る浮舟の消息

あらすじ・人物・読み方

僧都は、宇治の院で行き倒れていた若い女を助け、京へ連れ帰り、小野の母尼のもとで出家させた経緯を語る。薫は、それが浮舟に違いないと悟り、涙をこらえきれない。

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夢浮橋・第2場面0 / 13
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「あちらにいる尼たちが、初瀬〔大和の長谷寺〕に願をかけており、参詣して帰る道に、宇治の院という所に泊まっておりましたところ、母の尼の持病が急に起こって、ひどく苦しんでいると知らせに、人が参上してきましたので、〔私が〕出向きましたところ、まず不思議なことがございまして」

と小声で話して、

「親の死にかけているのはさし置いて、〔人々が〕介抱し嘆いておりました。このお方も、お亡くなりの様子ながら、さすがに息は通っていらしたので、昔物語に、魂殿〔死者を置く建物〕に置いたという人の例を思い出して、そのようなことかと、珍しがりまして、弟子たちの中に効験のある者どもを呼び寄せては、代わる代わる加持させたりしておりました。

私は、惜しむほどの年齢でもございませんが、母が旅先で病が重いのを助けて、念仏をも心乱れず唱えさせようと、仏を念じ申しておりました間に、そのお方の様子を、詳しくも拝見せずにおりました。事の次第を推し量りますと、天狗や木霊のような物が、欺いて連れて参ったのでしょうか、と受け取りました。

助けて、京へお連れ申し上げた後も、三月ほどは亡き人のようにしていらしたのを、私の妹で、故衛門督の北の方でございましたのが、尼になっておりますが、一人だけ持っていた娘を失って後、月日は多く隔たりましたけれど、悲しみに堪えず嘆き思っておりますところに、同じ年頃と見えるお方が、このように容姿たいそう美しく清らかなのを見出し申し上げて、観音のお授けと喜び思い、このお方を粗末にし申し上げまいと、思い惑い焦がれて、泣く泣く切々なことどもを申されましたので。

後には、あの坂本に自ら下りまして、護身〔の祈祷〕など仕りましたところ、ようやく生き返って人におなりでしたけれど、『やはり、この取り憑いた物が、身から離れない心地がします。この悪い物の妨げを逃れて、来世のことを思いたい』など、悲しげにおっしゃることどもがございましたので、法師としては、お勧めも申すべきことかと思い、本当に出家させ申し上げてしまったのでございます。

いったい、お知りおきになるべきこととは、どうして知らずに悟っておりましょう。珍しいことの次第でもあるので、世間の噂にもなりそうでしたけれど、評判が立って、面倒なことにもなろうかと、この老人どもがあれこれ申して、この数か月、音沙汰なくしておりました」

と〔僧都が〕申し上げなさると、

「そうであったか」と、かねて仄かに聞いて、ここまでも尋ね出しなさったことではあるけれど、「まったく亡き人と思い果てていた人が、それでは、本当に生きているのか」とお思いになるにつけ、夢のような心地で驚きあきれて、包みきれず涙ぐみなさってしまったのを、僧都がきまり悪そうにしているのに、「これほどまで〔涙が〕見えることだろうか〔いや、見えるはずもない〕」と思い返して、素知らぬふうを装いなさるけれど、「このようにお思いだったことを、この世には亡き人と同じようにしてしまったことだ」と、過ちを犯した心地がして、罪深いので、

「悪い物に取り憑かれなさったのも、そうなるはずの前世の因縁でしょう。思うに、高貴な家の子でいらしたでしょうに、どのような過ちで、ここまで落ちぶれなさったのでしょう」

と、〔薫が〕お尋ね申し上げなさると、

「少しは王家の流れなどと言うべき筋の方でしたでしょう。こちらでも、もともとわざわざ思い当たったことでもございません。儚いなりゆきで見つけ始めてはおりましたけれど、また、たいそうそこまで落ちぶれるはずの身分とは思いませんでした。珍しく、跡もなく消え失せてしまったので、身を投げたのかなど、さまざまに疑いが多くて、確かなことは、聞くことができませんでした。

罪を軽くしておけば、それでよいと安心して、私自身は思い定めてしまったのを、母である人が、たいそう恋い悲しんでいるようなので、このように聞き出したと、告げ知らせたくはございますけれど、数か月お隠しになってきた本意に違うように、騒がしくなりましょう。親子の仲の思いは絶えず、悲しみに堪えかねて、訪ねて来たりなどいたしましょう」

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底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第54冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。