野宮 / 第2場面
女の登場と問答
あらすじ・人物・読み方
女(六条御息所の霊)が現れ、次第・サシで身の衰えを嘆く。僧の問いに、女は古斎宮に立たれた方の仮に移る野宮だと答え、御神事の妨げになるからと帰るよう促す。
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シテの次第「花に馴れ親しんだ野の宮よ、その花も、秋より後はどうなることでしょうか。」
サシ「折しも物寂しい秋が暮れてゆき、なおも折り重なる袖の露に、身も砕けるような夕まぐれ。心の色はおのずと千草の花に移ろいて、衰えてゆく身の習いであることよ。」
地の歌「人は知らないでしょう、今も日ごとに昔の跡へ立ち帰り、野の宮の森の木枯らしに秋が深まり、身に沁む色も消え返って、思えば昔を何と忍ぶ草の衣。来たこともない仮の世に行き帰ることこそ、恨めしいことです。」
ワキの言葉「私がこの森の陰にいて、昔を思い、心を澄ましております折に、いかにも熱心そうな女性が一人、忽然とお越しなさいましたが、どのような方でいらっしゃいますか。」
シテの言葉「どのような者かとお尋ねになりますが、そなたこそお尋ね申すべきでしょう。これは古の斎宮に立たれたお方の、仮に移る野宮です。けれどもその後はこのことも絶えてしまいましたが、長月七日の今日はまた、昔を思う年ごとに、人は知らなくとも宮どころを清め、御神事を行う所で、行方も知れない御用があるのです。お越しになるのは憚りがあります。早く早くお帰りください。」
ワキ「いや、それは構いません。わが身の行く末も定めなき、世を捨てた者の一人です。それにしても、ここは古びた跡を今日も日ごとに、昔をお思いになる。その謂れはどのようなことでしょうか。」
底本:謡曲二百番:四流対照 下巻 芳賀矢一訂(金港堂書籍、明治42年)。本文画像:所蔵機関の公開資料。
明治42年(1909)芳賀矢一訂『謡曲二百番:四流対照』下巻(金港堂書籍)所収「野宮」(観世流)の本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像と照合した独自編集本文です。底本の主文(観世流)の字句を残し、他流の異文符は本文に含めていません。発音の読みと独自訳を添えています。