野宮 / 第3場面
長月七日の榊の故事
あらすじ・人物・読み方
女は、長月七日に源氏が野宮を詣で、榊の枝を垣の内に挿した折、御息所が「神垣はしるしの杉もなき物を」と詠んだ故事を語る。僧と女の掛け合いで、荒れた野宮の秋が描かれる。
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野宮・第3場面0 / 6
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シテ「光源氏がこの所にお詣でなさったのは、長月七日の、今日に当たる日でした。その時、少しばかりお持ちになった榊の枝を、斎垣の内へ挿してお置きになると、御息所は取りあえず『神垣には標の杉もないのに、どう間違えて折った榊でしょうか』とお詠みになったのも、今日のことです。」
ワキ「まことに面白い言葉の綾ですね。今お持ちの榊の枝も、昔と変わらぬ色ですね。」
シテ「昔と変わらぬ色というのは、榊だけが常磐の陰にあってのこと。」ワキ「杜の下道は秋が暮れて。」シテ「紅葉は散りそめ。」ワキ「浅茅の原も、地は裏枯れて、草葉に荒れる野の宮よ。その長月七日の日も、今日に巡ってまいりました。はかないことよ小柴垣、まことに仮初めのお住まい。今も火焼屋は幽かに、光はわが思いの内にある色が外にも見えるのでしょうか。ああ寂しい宮所、ああ寂しい、この宮所よ。」
底本:謡曲二百番:四流対照 下巻 芳賀矢一訂(金港堂書籍、明治42年)。本文画像:所蔵機関の公開資料。
明治42年(1909)芳賀矢一訂『謡曲二百番:四流対照』下巻(金港堂書籍)所収「野宮」(観世流)の本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像と照合した独自編集本文です。底本の主文(観世流)の字句を残し、他流の異文符は本文に含めていません。発音の読みと独自訳を添えています。