第6帖 末摘花 / 第13場面
年末の贈り物
あらすじ・人物・読み方
宮中に参った大輔の命婦が、姫君からの贈り物を源氏へ届ける。
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現代語で読む
年も暮れた。宮中のご宿直所にいらっしゃるところへ、大輔の命婦が参った。お髪を櫛ですいたりする折には、恋めいたところもなく、気楽な相手ではあるものの、やはり冗談をおっしゃる、
などして、いつもお使いになっているので、お召しのない時でも、申し上げる用のある折には、参上するのだった。「妙なことがございますのを、申し上げませんのもおかしくて、思案に暮れまして」と、ほほ笑んで、最後まで申し上げないのを、「何のことだ。私には隠すことはないだろうと思っているよ」とおっしゃると、「どうして隠しなどいたしましょう。自分の困り事なら、恐れ多くてもまず申し上げます。これは、とても申し上げにくいのでございまして」と、ひどくもったいぶるので、〔源氏は〕いつもの気取りだと、お憎みになる。
「あちらの宮からのお手紙でございます」と言って、取り出した。「それなら、なおさら隠しておくべきことだろうか」と言って、お取りになるのにも、〔命婦は〕胸がつぶれる。陸奥国の、厚ぼったい紙に、香りだけは、深くたきしめていらっしゃる。〔文字は〕実にみごとに書き切ってある。歌も、
あなたのお心がつれないので、この唐衣の袂は、こうして涙にぬれ続けるばかりです。
〔源氏が〕腑に落ちず、首をかしげていらっしゃると、包みに入った衣箱の、重々しく古風な物を、〔命婦は〕置いて、前へ押し出した。「これを、どうして気恥ずかしく思わずにおられましょう。けれども、元日のお召し物にと、わざわざ〔お作りになった〕ようですのを、きまりの悪い思いをさせるように、持ち帰ることはできません。私一人でしまい込んでしまうのも、あの方のお心に背くことでしょうから、ご覧に入れてからこそ〔と思いまして〕」と、
申し上げると、「しまい込まれていたなら、つらかっただろう。袖を巻いて乾かしてくれる人もいない私には、たいそううれしいご好意だ」とおっしゃって、格別に何もおっしゃれない。
それにしても、あきれた言葉遣いだ、これこそが、ご自分自身のお言葉のすべてなのだろう、侍従が取り繕っているはずだが、また、筆の後ろを持って教える先生もいないのだろう、と、どうしようもなくお思いになる。〔姫君が〕心を尽くして詠み出されたであろうことをお考えになると、これも、まったく恐れ入るというものだな、と、ほほ笑んでご覧になるのを、命婦は顔を赤らめてお見上げ申し上げる。
今様色の、許し難いほど、つやがなく古めかしい直衣で、裏も表も同じように色の濃い、いかにもありきたりな、端の部分が見えている。あきれたことだとお思いになって、この手紙を広げたまま、端に、気まぐれに書き散らしていらっしゃるのを、〔命婦が〕横目に見ると、
心の引かれる色でもないのに、どうしてこの末摘花を、袖に触れさせてしまったのだろう。
「色の濃い花と見たけれど」などと、書き散らして汚される。〔命婦は〕花〔鼻〕をとがめるのを、やはり何かわけがあるのだろうと、思い合わせる。その折の月明かりなどを、
気の毒に思うものの、おかしく思えてくる。「紅の、ひと花染めの衣、薄くても、ひのよや〔この部分の語義未詳〕」と、〔源氏が〕たいそう慣れた様子で独り言をおっしゃるのを、〔命婦は〕よい歌ではないけれど、せめてこのくらいの、ひと通りのものでもあったなら、と、つくづく残念に思う。あの方の身分がお気の毒なので、
名を明かすのは、やはりためらわれる。「人々が参りますから、取り隠しましょうか。こんなことは、人のすることなのだろうか」と、ため息をつかれる。どうしてお見せ申したのだろう、私まで思いやりがないように見える、と、〔命婦は〕たいそう恥ずかしくて、そっと退出した。
翌日、〔命婦が〕帝のおそばに仕えていると、〔源氏は〕台盤所をおのぞきになって、「さあ、昨日のお返事だ。妙に、思慮のあるふりをし過ぎてしまった」と言って、〔手紙を〕お投げになる。女房たちは、何事だろうと、知りたがる。「ただ、梅の花の色のことだ。『三笠の山の乙女をば捨てて』」と、気ままに歌って、お出になってしまわれたのを、命婦は、やはりとてもおもしろいと思う。
〔事情を〕知らない女房たちは、「どうしたのです、その独り笑いは」と、口々にとがめる。「いいえ、寒い霜の朝に、掻練り〔紅色の練り絹〕を好む花の色合いが、お見えになったのでしょうか。お口ずさみの歌が、たいそうおもしろくて」と言うと、「無理なお言いようですね。この中には、華やかに色づいた花もないようです。左近の命婦や、肥後の采女でも交じっていたのでしょうか」などと、わけもわからず言い合っている。
〔命婦が〕お返事をお届け申し上げると、宮の邸では、女房が集まって見る。
会えない夜を隔てる間柄の袖に、衣を重ねて、いっそう身にしみて思えというのでしょうか。
白い紙に、さっと書き流していらっしゃるのが、かえって趣深い。大晦日の夕方、あの衣箱に、〔源氏〕ご自身のためにと人がお贈り申し上げた、お召し物一そろい、葡萄染めの織物のお召し物と、また、山吹色か何かの色の物を、命婦がお届け申し上げた。
先の色合いを、悪いとご覧になったのだろうかと、自然に思い知られるけれど、「あれはあれで、紅色が重厚だったのにね。それでも、引けは取るまい」と、年配の女房たちは品定めをする。お歌も、こちらからのは道理が通っていて、
しっかりしている、お返事は、ただおもしろい趣向なのだ、などと、口々に言う。姫君も、並々ならぬ思いで作り上げられたことなので、何かに書き留めて、大事に置いていらっしゃったのだった。
底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第6冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。