ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

第50帖 東屋 / 第10場面

薫の訪問

あらすじ・人物・読み方

薫が二条院の中の君を訪ねる。浮舟の様子を聞いた薫は、亡き大君の形代への思いをほのめかし、涙ぐむ。

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東屋・第10場面0 / 18
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容貌も心様も、憎めないほど可愛らしい。物恥じも仰々しくなく、様子は子供めいているものから、角がなく、近くお仕えする人々にも、ひどくよく隠れていらっしゃった。物など言ったのも、昔の人の御様子に、不思議なまでお思い申し上げてであるよ。あの人形を求めなさる人にお見せ申し上げたいと、うち思い出しなさる折しも、「大将殿がお参りになる」と、人が申し上げると、例の、御几帳を引き繕って、心遣いする。この客人の母君は、

「さあ、お見申し上げよう。ほのかにお見申し上げた人の、素晴らしいものに聞こえるらしいけれど、宮の御様子には、並びなさるまい」と言うと、御前にお仕えする人々は、「いや、決めかねます」と申し上げ合っていた。

「どれほどだろう人か、宮を消し申し上げよう」など言うほどに、「今ぞ、車からお降りになるそう」と聞くほど、かしましいまで追い騒いで、すぐにもお見えにならない。待たれなさるほどに、歩み入りなさる様子を見ると、実に、ああ素晴らしい、風情があるとも見えずながら、艶やかで、上品に清げであるよ。すずろに見え苦しく恥ずかしくて、額髪なども引き繕われて、心恥ずかしげに、用意多く、際もない様子をなさっている。内裏からお参りになったのだろう、御前どもの気配が大勢して、

「昨夜、后の宮がお悩みになる様子を承って参りましたところ、宮たちがお仕えなさらなかったので、気の毒にお見申し上げて、宮の御代わりに今までお仕えしていました。今朝もひどく、怠ってお参りなさったのを、合わなく、御過ちに推し量り申し上げさせて」と申し上げなさると、「実に、おろそかでなく、思いやり深い御用意で」とばかり、応え申し上げなさる。宮は内裏にお泊まりになったのを見置いて、ただならずいらっしゃったらしい。

例の、物語をひどく懐かしげに申し上げなさる。事に触れて、ただ昔の忘れがたく、世の中が物憂くなり増す様子を、露わには言いなさらないで、かすめ愁えなさる。「そうも、どうしてか、世を経て心に離れずのみはあろう。やはり、浅からず言い始めたことの筋なので、名残がなかろうかと」など、見なしなさるけれど、人の御様子は明らかなものなので、見てゆくままに、あはれな御心様を、岩木でなければ、お思い知る。怨み申し上げなさることも多いので、ひどくわりなくうち嘆いて、このような御心を止める禊をさせ申し上げたくお思いになるのだろうか、あの人形を仰せ出して、

「ひどく忍んで、このあたりに」と、ほのめかし申し上げなさるのを、彼女も並の心地はせず、見たくなってしまったけれど、突然にふと移る心地はまたしない。「いや。その本尊、願いが満ちていらっしゃるべくはこそ、尊かろう。時々、心が病めば、かえって山水も濁ってしまうだろう」

と仰ると、果て果ては、「情けない御聖心や」と、ほのかにお笑いになるのも、風情があって聞こえる。「さあ、それでは、伝え果てさせなさい。この御逃れ言葉こそ、思い出せば忌まわしく」と仰っても、また涙ぐんだ。

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底本:北村季吟編『湖月抄』延宝元年[1673]刊・国立国会図書館蔵 本別3-1 第50冊。本文画像:所蔵機関の公開資料。延宝元年(1673)刊『湖月抄』の大字本文を原画像とOCRで照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補い、反復符を展開しています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。