ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

無名草子 / 第5場面

とりかへばやと歌物語

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とりかへばやと歌物語をもとにした創作画
あらすじ・人物・読み方

とりかへばや物語(女中納言・四の君の贈答、今とりかへばやへの賞賛)を評し、伊勢物語(業平の歌)、大和物語ほかの歌物語、落窪物語、松浦宮などへ論を広げ、伊勢・大和は実話かと問う。

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無名草子・第5場面0 / 16
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物にした人の、初めの、身の負う様も素性こそ捩けばみうたてけれ。何の数になるまじき御言し歯の罵りなどだに、とても口惜しい。物語にとって居るじとした身の負う様は、とても歌でありかし。また岩に生える松人もおらじと言える女こそ、去る方にて、かからぬなど言えば、また、取り替えばこそは、続きも悪く、物恐ろしく夥しい消した物様、中々とても珍らしくこそ思い寄りためれ。思わずに哀れな事どもぞ覚める。歌こそ良けれ。四の君こそすばらしい。あらまほしく良い人であります。また内侍の上の、男になって後の人柄こそ良い。また奥になって、この人々の子供などが多く、若く公家・殿上人・内の御物がすばらしく留まって、殿上に御股一つ添えて、物語の沙汰などしたことこそ、御間の品定めなど思い出され、とても珍らしく、おかしと言いつべきに、真似び背けて全く傍ら痛しとも言いつべし。女中納言こそとてもすばらしくて、もとより許して子を生んだ事など。また月ごとの病がとても汚い。四の君の母中将が法師になったのが、とても哀れです。雪の押しに蓑を着た事などよ。女中納言の死に入り蘇る程こそ、夥しく恐ろしい。鏡を持て来て、万の事を暗からず見た程、真実らしからぬ事どもが、とても恐ろしいまでこそありますと言えば、また隠れ蓑こそ愛らしい事にとって、見所があるべき物の、あまりに去らでありぬべき事が多く、言葉遣いがひどく古めかしく、歌などの悪ければでしょうか。人手に言われる取り替えばやには格別の外に押されて、今ほど見る人の少ない物であります。哀れにも珍らしくも、さ(次ページへ)。まままま見所がありぬべき事に思い寄って、無下にさせる事もない事こそ口惜しい。今とりかへばやとて言いたい物、今の世に出来たように、今隠れ蓑という物をし出だす人がありましょうか。今の世には、見所があってし出る人もありましょう。無下にこの頃ようよう見ましたのは、古き物どもよりは、中々心あってこそ見るとこそ。皆とても見所少なくあります。古代にし古めかしいのはごわり。言葉遣い・歌などはさせる事なくあるのは、万葉集などの風情に見え及びませんでしょう。など只今聞こえた今とりかへばやなどの、本に優りある様子よ。何事も物真似は、必ず元には劣る業であるのに、これはとても憎からずおかしくこそあめれ。言葉遣い・歌なども惜しくもなし。夥しく恐ろしい所などもなかめり。本には女中納言の有様がとても憎いのに、これは何事もとても良くこそあれ。かかる様になる歌で、けしからぬ筋には覚えず、またに去るべき物の報いなどにてぞあらむと推測されて、かかる身の有様をすばらしく口惜しく。内侍の上もとても良い。中納言が女になり、子を生む程の有様も、内侍の上が男になる程も、これはとても良くこそあれ。本のは元の人々が皆死に来た程、とても真実らしからず。これは互いに元の人になり替わりて出で来たなど、かかる事を思い寄る末ならば、かくこそすべかりけれとこそ見ゆれ。四の君ぞこれは憎い。上はとても阿呆どかにらうたげにて。(次ページへ)

春の夜も見る我からがの月なれば、心尽くしの影となったことだ。と詠むのも何事のいかなるべきと思って、さばかり実直に分ける心もない人を持ちながら、心尽くしに思うだろうと思うだに、穏やかならぬ心の程が相応しくないのを。上に着る小夜の衣の袖よりも、人言わぬをばただにやは着て。と詠んだことこそとても可愛い。また宮の宰相こそとても心をくれたれ。さしも深く物を覚えずば、など入り来ぬ隈なき色好めかしさを好まるる。女中納言を取り込めて今はいかならむともと、心安く思い侮る程、まずとても悪い。さばかりになった身をさしも持て窶して、去る目覚ましい目を見ておるべしと、何事を思うべきか。またその後、正しい男になって出で交じらわむを、女なる四の君だにありし、それとも思わぬはとこそ詠みたるに、今朝やかにさしも向かい見る見るおらぬ人ども、とても紐も解かぬ程、無下に言う甲斐なし。まずこの人のみの有様を思わむにも、かの冷泉殿の内侍の上の貧しさ、月々しく引き引きみて書くべくもあらざりし気色を、思い合せよかしと言えば、またそれも様ごとに、吉野の中の君が婿に取られて、さばかりの恨みの残りたりと思い知られで、惚け老い来るなどこそ、すばらしく心を取りすれなど言います。また心高きこそ春宮の禅師など、今の世にとっては古い物であります。また殊に言葉遣いなどは古めかしく、歌など悪くありますが、とても名高い物であります。その人と亡き物の、身の余るばかりの幸いを書き現そうとした物こそ、されどさばかり思い召された春宮には候(次ページへ)。なさいません。内の大臣の分かる心が多いのに、契りを結んだ程こそ心が病ましい。さて春宮の御位の末に娘を参らせて、その便りに、ただ夢ばかり、立ちながら行き合って、互いに堰きかねて、立別れさせなさる程こそ、とても哀れに悲しい。お桜は、初めはとても哀れに、末は心憎く覚えて、見もてゆく程に、雲手が子を堀河殿の生んだぞかしと言う程、無下に定まって打つ涙など、無下にただありに。言葉遣いも古めかしいけれど、大将に透かされた集めて、自足さしの少将が、女房の装束・菊の色々なのを見て。色々の花を折っては見えるけれど、一人菊には甲斐がなかった。と言えるのを思い詰めて、女御に参り后に立ちなさり、めでたい折に同じ色々を着て、左衛門督という人がありし少将に。菊の花、甲斐ある物をもあったのを、さしもどうして言い下しけむ。と言ったことこそられしけれ。また若宮の生まれなさった御祝いの使いにて、この少将が参ったのに、大将が主人の方で御祝いを取り次ぐのに、見終わって微笑むのもおかしい。させる事なき物語ながら、かたき打ちたるがそぞろにうれしい。今様の物語にとっては、御間の軽も事しからず、しめやかに艶ある所などはないけれど、言葉遣いなども世継ぎをすばらしく真似びて、知れただかなる様である。物語の程よりは哀れにもあり。一条院の西の対に、権中納言(次ページへ)。三位中将が住みなさるのに、蔵人少将が内の御使いに急いで見ると、おのおの住みなさる様こそ、取り取りにすばらしい。中にも権中納言が琵琶を忍びやかに去らべつつ、「従冥入於冥、永不聞仏名」を口ずさみなさる程こそすばらしい。按察大納言の上の死の程こそ哀れです。また交侍従内侍こそとても心深く好もしい。大納言が山へ上る様に、その玉という童に会った程こそ、すばらしく哀れです。さて出家なさった後、大宮が雪の降るのを見て、「我がこの本は埋もれぬらむ」と眺めなさった折しも、大将が降る雪を打ち払って参りなさる程。この宮の御方にて若君の大将を果てて、斎宮をば母と思いなさったのを、関白殿が乱れがわしい事やど打ち笑ってなさる物から、涙の零れた事などとても哀れです。大将が袖に零を押し当ててゐなさるのは、道理であるやなど言う人がいれば、またこの大納言の北の方の亡きことこそ、とても口惜しい。様では覚えず風見むこそ、今少し哀れも勝ります。また中宮の無下に何事も思いなさらないことこそ、大納言も心踊りして口惜しい。同じ心に打ち靡き、心を交わし、文の返事などこそせざらめ、御心の内にはとても哀れと思いなさるべきです。また関白殿・大将殿などの、おのおの清き北の方を持っていると言いながら、自ずから散る心なく、上の御腹方たちの、さばかり美しいのを塵ばかりも思いかけないことこそ、無下に騒々しい。中宮の御懺の御祈りの仏の多さとぞ惑わしからね。まだ何事よりも権大納言の即身成仏と(次ページへ)。

ぞ繰り返し口惜しい。法師になった哀れみな覚めて、寝覚の、中の君の空地にも劣らない程の口惜しさなど言います。人末葉の露、御間の軽もと人手に申すめれど、言葉遣いなども無下にただありにぞ思われる。皇太后宮の御振る舞い・心様こそ、繰り返しめでたい。すべてそのあたり、とても心憎くすばらしく思われます。また源氏中将よりぞ、あなた様の人々と言いつべくて、心憎くすばらしく思われます。また源氏中将の病が良くならで参ったのに、行き合って打ち見て、ただ年老いやばかり打ちして行き過ぎた事などこそ、すばらしく妬ましい。物の怪の仕業であるけれど、宰相中将の心、ただ代わりに変わることこそ、とても浅ましく哀れです。また大将の死の程、正月に随身の服がとても黒くて、申し入れた所などこそ、おさましく哀れです。またおかしい事どもも思われる。内の得業が酔い狂いなどもおかしい。さても思い出だしたぞ、実直な。大弐の娘こそとても惜しい。扇の風を身に占めてなどある程はすばらしい。八条の人も我からはとても良い。一条の上という人こそ何やら憎い。大原野行幸、関白の上が桟敷にて見るのに、二条の上が車にて、中宮の女房の車を御股やり続けて見た所こそすばらしい。兵部卿宮が父大臣の忌みに、一人音を出す程に。(次ページへ)

思い遣る袖だに露も乾かぬのに、朽ちやしぬらん君が袂は、とて差し置いた程も、とてもおかしい。三河に避ける事は歌は良い。東宮宣旨という人、「憂きにまた辛さを添えて嘆けとや、さのみはいかが物は思わむ」と詠めるのも、またそれのみならずもとても多い。御櫛笥殿こそすばらしくとても惜しい。内の川波こそ、蛍の刈藻をあまり真似びたれども惜しくもなし。大将帥の中の君において、雪の押し太弁において、「ここの雪と共に消えはべりぬるぞ」と言いかけて寝ることこそ、とても心病ましい。大将の上の御前になろうとするのを、大将の聞きつけれることこそ嬉しい。大将の死こそとても哀れです。また前斎宮が、無下にしし出だした事もなくて、果てたのには騒々しい。また御姉君が式部卿宮の北の方になって、すばらしい年を得たうと思って、弟を姫君にして、女御に参らせて、幸いを引き出したことこそ、とても憎い。また斎宮の姫君とて、何事もめでたげな人こそとても心付きない。後に北政所など言われるよ。中の君こそますます惜しい。良き子を持った程、どこのも敷き方もありなど言います。また子を迎え、言葉遣いが艶にすばらしい程よりは、無下に末枯れにぞある。大将の心用いこそすばらしい。人は口に任せて、さこそは物は言えども、必ずその筋を通す末は、今も昔も有り難い業です。雪の夜に夢を見て驚き渡りながら、とても心苦しげな有様を見置いて、立ち帰る心などこそあまりに情けなかめる。またの姫君の身を変えて、按察大納言の取り娘になって暮らすのは(次ページへ)。とこそ。とてもあらまほしくも覚えない。落窪の沼は、あまりに今めかしくこそ思われますが、人の心様が様々に多く見えて心ある物です。宮の大将こそとても良い人であれ、やがてその北の方も憎からぬ様で良い。式部卿の中娘物語、宮大将が立ち聞きして、殿の大将に語った程、とてもおかしく、嬉しからずと笑うのもおかしい。新宰相の君が局に、三宮がおられましける前、中納言中将が渡るとて、恋しなどは愚かなど口ずさむことこそとてもおかしい。また同人が打ち寄って共に行き老いて、この世の外の思い出にもど打ち眺めたのも、とても哀れだなど、口々に言い、これよりしも人人しからぬ物語も、少し我程思い当たるも、数も参らず多くありますが、さのみ申せば夜も明け、日も暮れぬべし。初雪という物語を御覧なさい。それにぞ物語の事は見えてあります。また無下にこの頃出で来た物が多く見えたことこそ、中々古い物よりは、言葉遣い・有様など、すばらしいのもありますが、なお寝覚・狭衣・浜松ばかりであることこそ見えません。また孝信の作ったとて、浮波どかやこそ、格別に心を入れて作りける程見えて、哀れにありますが、そも何か言葉遣いなどが手づつげにてとても心行きて覚えはんべらず。また定家少将の作ったとて、御股はんべるめるは、ましてただ気色ばかりにて、無下に真実なき物どもにありますでしょう。枕の宮とかやこそ、一重に万葉集の風情にて、うつほなど見る心地して、愚かな心も及ばぬ様にあります。すべて今の世の物語は、古い御門にて、狭衣の御前のおとめ、ね(次ページへ)。覚の打ち敷きなども今少し事々しく、いち早い様に描いた程に、とても真実らしからず夥しい節々であります。有明の別れ夢語り、涙の姫君、浅茅が原の内侍の上などは、言葉遣いがなだらかで耳立たしくなく、とても良いと思って見もて参る程に、とても恐ろしい事どもが差し交じって、何事とも覚める心地すること、とても口惜しいなど言えば、例の若い声にて、思えば皆これはされば偽り空事なりな。またにありける事をおっしゃいなさい。伊勢物語・大和物語などは、実に有り事と聞きますならば、繰り返しすばらしくこそあります。それも少しおっしゃいなさいと言えば、伊勢物語などの人の高い下れるも、少しも覚える程の人、伊勢・大和など見覚えぬやと言います。されば細かに申すに及ばず、隅田川の程・鳥にて都鳥に言問い、八橋の渡りにて馴れにし妻を恋した事など、都の外まで送るだろうも、ただ彼の至らぬ隈なき仕業にこそありめれ。大和物語と申すも、ただかようの同じ筋の事なれば、留めましょう。誰も御覧じ覚えられるとなれば、その内の歌の良し悪しなどは古今集などを御覧なさい。これに良いと覚しい歌は入りあるべしと言えば、例の人また、さらばなど申すなどで、愚かなのもありませんと聞こえます。万葉集などの事は、心も言葉も及びません。国元々と申す歌読みこそ、我が歌は万葉集を持って係り毒にするどは申しました。古今(次ページへ)。

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底本:『群書類従 第11輯』塙保己一編(経済雑誌社、明治27年[1894])。本文画像:所蔵機関の公開資料。

明治27年(1894)塙保己一編『群書類従 第11輯』(経済雑誌社)所収「無名草子」の本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像と照合した独自編集本文です。底本の字句を残し、標題行・振り仮名・割注は転写していません。発音の読みと独自訳を添えています。