紫式部日記 / 第8場面
女房たちの素描
あらすじ・人物・読み方
宰相の君、小少将の君、宮の内侍、式部のおもと、小大夫、源式部ら、仕える女房たちの容貌と人柄を描く。斎院の中将の君の文をめぐる思いも続く。
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宰相の君の御佩刀を取って、殿が〔若宮を〕抱き申し上げなさるのに続いて、参上なさる。紅の三重五重三重五重と混ぜながら、同じ色の打ちたる七重に、一重を縫い重ね重ね混ぜながら、上に同じ色の固文の五重、桂、葡萄染の浮文の紫の紋を織った〔装束は〕、縫い様まで才気がある。三重重ねの裳、赤色の唐衣、一重の紋を織って、仕様もとても唐めいている。とても趣深く髪なども常より整えて、容態も物腰も、愛らしく趣がある。背丈が程よいほどで、ふっくらした人の、顔はとても細やかで、匂い立つようで趣深い。大納言の君は、とてもささやかで、小さいと言える方の人で、白く美しげにふっくらと肥えているが、見た目はとてもすらりとして、髪は丈より三寸ほど余る裾つきで、簪など、すべて似るものなく細かに美しい。顔もとても愛らしく、物腰なども可憐でしなやかだ。宣旨の君は、ささやかな人のとても細やかにすらりとして、髪の筋が細やかに清らかで、生え際の末より一尺ほど余っておられる。とても奥ゆかしげで、この上なく貴い様子をしておられる。物〔御簾〕より差し歩いて出ていらしたのも、煩わしく気遣いさせられる心地がする。上品な人は、こうこそあるべきだと、心の様子も、物をおっしゃる様子も思われる。この序に、人の容貌を語り申し上げれば、物言いが下品になるのではないでしょうか。ただ今〔の人々〕をですよ。当面の人々のことは煩わしい。〔次ページへ続く〕どうだろうかなど、少しでも欠点になることは申し上げますまい。宰相の君は北野の三位の〔娘です〕よ。ふっくらととても容態が含みを持ち、才気のある容貌をした人が、座っているときよりも、見ていくうちに、格別に優って愛らしく、口元に恥ずかしげな様子も、匂いやかなことも加わっている。物腰など、とても美しく華やかに見えなさるが、心の様子もとても好ましく、心が美しいものの、またとても恥ずかしいところがある。小少将の君は、どこか貴く艶やかで、二月ごろの垂柳の様子をしている。容態がとても美しげで、物腰は奥ゆかしく、心ばえなども、我が心とは判断のしようもないほど慎み深く、とても世間を恥じて、あまり見苦しいほど思い込んでおられる。心の汚い人が、悪い様に振る舞い、言いつける人があれば、すぐにそれに思い入って、身をも滅ぼしそうに、か弱く理のないところがおありなのが、あまりにも気がかりだ。
宮の内侍は、またとても清らかな人で、背丈がとても程よく、座っている様子や姿つきがとても立派で、今風の容態で、細かに取り立てて趣深いとも見えないものの、とても清らかで初々しく、中高の顔で、色の合い目が白いなど、人より優れている。頭つき、簪、額つきなどが、ああ清らかだと見えて、華やかに愛敬づいている、ただ〔次ページへ続く〕〔内侍は〕もてなしもあって、心の様子なども好ましく、少しもどちらの方にも後ろめたいところがなく、すべてそうこそあるべきと、人の手本にすべき人柄である。縁があり良さそうな方はない。式部の主は、弟である。とてもふっくらし過ぎて、肥えた人の色がとても白く匂って、顔はとても細かに良さそうだ。髪もひどく美しくて、長くはないだろう。作り立てた業をして宮には参る。太った容態が、とても趣深くもあったなあ。目元、額つきなど実に清らかだ。微笑んだ愛敬も多い。
若い人の中で容貌が良いと思えるのは、小大夫、源式部である。小大夫は、ささやかな人で、容態がとても今風な様子で、髪が美しく、元はとてもごてごてして丈より一尺余り余っていたのを、落ち細って〔今は程よく〕なっている。顔も才気があって、ああ趣深い人よと見える。容貌は直すべきところがない。源式部は、背丈が程よくすらりとして、顔が細やかで、見るままにとても趣深く可憐な気配で、清く朗らかに、人の娘と思われる様子をしていた。小兵衛丞なども、とても清らかである。それらは殿上人の見残すことの少ない木の侍従こそ、とても細かに仕立てたような人だ。とても小さく細く、なお童でおらせたいほど〔次ページへ続く〕〔童のような〕様子を、心から老い付き、やつして病んでしまった。髪の柱〔束〕に少し余って、末をとても華やかに削いで参っていたのが、最後の回であった。顔もとても良かった。五節の弁という人がいる。平中納言の娘で大切に育てると聞いていたが、綸子に描いたような顔をして、額がひどく腫れた人の、昔はひどく引っ張り、顔もここはと見える所なくとても白く、手つき、腕つきがとても趣深く、髪は見始めた春は丈より一尺ほど余って、ごてごてと多かったが、あさましく分けたように落ちて、裾の道に細らず、長さは少し余っているようだ。
駒という人、髪がとても長かった昔は、良い若人で、今は琴の柱に腰を差すようにして、里居しているようだ。
こう言い言いして、心ばえが偏っているのだろう。それもそれぞれにひどく悪いものもない。また優れて趣深く心が重く、才も、艶も、良さも、後ろ安さも、皆備わることは難しい。様々どれを取るべきかと思われることが多い。それも悪くないことどもだなあ。斎院に中将の君という人がいる。聞く便りがあって、人のもとに書き交わした文を、ひそかに人が取って見せてくれたが、とても美しく、私だけの世には物の道理を知り、心深い〔次ページへ続く〕類はないだろう。すべての世の人は、心も肝もないように思っておられるようだ。〔文を〕見たところ、なんとなく心が痛み、おぼやけばらとか、良くない人の言うように、憎く思われなさった。文書きにしても、歌などの趣深いものは、我が院より外に誰か見知りなさる人があろうか。世に趣深い人の思い出は、我が院こそご覧じ知るべきだなどと言う。実に理はあるけれど、我が方様のことをそこまで言えば、斎院から出てきた歌が、優れて良いと見えるのも、特に〔問題では〕ない。ただとても趣深く、良さそうにいらっしゃるべき所のようなのを、常に入り立って見る人もいない。趣深い夕月夜、許される有明、花の便り、郭公の訪ね所に参ると、院はとても御心がゆゆしくいらして、所の様子は、とても世離れして神さびている。また紛れることもない。上に参上させなさる、あるいは殿が参られる、御宿直であるなど、騒がしい折も交じらない。持てつけて、自然と知り好む所となったので、艶な事どもを尽くす中に、何の合わない言い過ぎを、し申し上げようか。こうしてとても埋木を折り入れた心ばえで、あの院に交じらっていたら、そこでは知らない男と言い合い、物を言っても、人の合わない名を言〔次ページへ続く〕〔若い女房たちは〕日を覆うほど〔人目を避ける〕べきではないなどと、心をゆるがせにして、自然と浮かれた振る舞いを身につけてしまうのだろうか。まして、若い人の容姿につけて、年齢のわりに落ち着きのなさそうなことがない者が、自分から心を入れて恋心めいた様子で物を思おうと好んで振る舞うような場合は、〔他の〕人にたいそう劣りもしないだろう。しかし、内裏のあたりで朝夕見慣れてお仕えする女御や后がおられず、その御方や、あの細殿と並び称される御方もおられないので、男も女も競い合うようなこともなく打ち解け、中宮の御所らしく、浮かれた様子を〔中宮が〕たいそう淡泊なこととお思いになっているので、少しでも分別があろうと思う人は、並大抵のことで表に出て座りはしない。〔出て座るのは〕気安く、恥ずかしがらない〔人である〕。こうあろう、あああろうという評判をも惜しまない人は、また、格別な心遣いが機敏であるわけでもないではないか。ただそういう人の気安さにまかせて、近寄って話しかけると、中宮付きの人は地味だとか、あるいは用意がないなどと、〔世間は〕言うのであろう。上臈・中臈のあたりは、あまりに引き込み、上品ぶってばかりいるようである。そうばかりしていては、中宮のおためになる物の飾りではなく、見苦しいとも見える。これらの人をこのように選んでお仕えさせているようだが、人は皆それぞれで、たいそう優劣があるわけでもなく、その事ができればあの事が遅れるなどということがあるようだ。しかし、若い人でさえ重々しくあろうとまじめに振る舞っているらしい世の中で、見苦しく戯れているのも、たいそう不具合であろう。ただ大体のところを、たいそうこのように情けがなくならないでほしいと見ている。それゆえ、中宮の御心に飽き足りない所がな〔い――次ページへ続く〕。〔中宮は〕立派に奥ゆかしくいらっしゃるのに、あまりに慎み深くあられる御心に、〔私は〕何とも申し上げまい。申し上げたとしても、後々気楽で恥を知らない人は、世間では不具合な者と〔中宮が〕思い慣れておられる。実際、折に触れてかえって目立つことをしでかすのは、後れている〔人〕にも劣る行いだなあ。このことに深い用意のない人が、場所につけて得意顔なのが、少し見苦しいことも、折に触れて言い出したりしたのを、〔中宮が〕まだたいそう幼くいらっしゃって、世に並びない不具合だとお聞きになり、心にしみておられたので、ただ格別な咎なく過ごすことを、安心できることとお思いになった御様子に、仕え込んでいた人の娘たちは、皆たいそうよくお仕え申し上げたほどに、こう慣れてしまったのだと心得ている。
底本:『紫式部日記』長連恒校註(国民図書、昭和4年[1929])。本文画像:所蔵機関の公開資料。
昭和4年(1929)長連恒校註『紫式部日記』(国民図書)の本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像と照合した独自編集本文です。底本の字句を残し、頭註・傍註は転写していません。発音の読みと独自訳を添えています。