紫式部集 / 第3場面
あき人との贈答
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あらすじ・人物・読み方
千鳥の歌、男が人妻をめぐる長い記事とその応酬、あき人との贈答、絵を見る記事、見し人の煙の歌まで。
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現代語で読む
近江の守の娘に言い寄る人が、いつもあれこれと言い続けていたので、しあを常に言い渡っていたので、うるさくて(返歌)。水海に友を呼ぶ千鳥よ。言うことがあるなら、安の港に込めて絶やしてしまわないでほしい。
歌絵に、海士が塩を焼く様子を描いて、こり積みたる揚げ浜をその下に(歌を)書いて、返しやる(時に)。四方の海に塩焼く蟹の心から、焼くというのに、かかる揚げ木を積むことよ。
文の上に、朱という物を粒々と注ぎかけて、涙の色をと書いた人への返歌に。紅の涙にひどく埋もれてしまう。移る頃の色と見えるので。
もともと人の娘を妻に得た人がいた。(その人が)文を書き散らしていた。閉ざしてあった文をも取り集めて、よこさず、返事かかがと、言葉でだけ言い送っていたので、見明かそうとて(続く)。たいそう厭わしく思ったことだが、正月十日ばかりのことであった。定まりした調べの海は、解け上がりもせず絶えるまいとやら、山の下水のように。(男に)すかされて、たいそう苦労していたところへ、(男が歌を)よこした。「今はもう何も聞かない」と腹を立てたので、笑って返歌(をした)。東風に解けるばかりに底の見える岩間の水は、絶えれば絶えてしまうだろう。
「言い絶えれば、それこそ絶えてしまうでしょう。どうしてその三原の池を包むことなどできましょう」。夜中ばかりに、また。猛くない人がかす網の海に帰り、三原の池に立てども、甲斐はあるまい。
桜を瓶に挿して見ると、たちまち散ってしまったので、桃の花を見やって。折って御覧なさい、近くでいっそう勝る桃の花を。思いに曇りのない桜を(見る)間に。返歌の人(の歌)。桃という名も現れる物を、時の間に散る桜にも思い辿らせることよ。
花の散る頃、梨の花というも桜も、夕暮れの風の騒ぎにどちらと見えない色があるのを。花といえば、どちらが匂いよいと見ようか。散り紛う色に違いがないのだから。
遠い所へ行った人が悪くなって(亡くなって)いたのを、親兄弟が後を帰ってきて、悲しい事を言った時に。どちらの雲路をたどって尋ねればよいのか。群れを離れた雁の行方を。
去年から薄鈍(喪の色)のある人に、女院がお隠れになった春、いたって霞んだ夕暮れに、人が(歌を)指し置かせた(ところ)。雲の上も物思いする春の霞染めに、霞む空さえ霰があるのか。返歌。どうしてこの頃、朝の袖を濡らすのだろう。霞の衣をあえて着る世の中で。
あくありにし人の娘が、かやの手で書き付けたものを(私が)見て、言った(歌。続く)。夕霧の中、見た方も離れて、鷺の子の跡(手跡)を見るにつけ、心まとわりつくことよ。
同じ人が、荒れた宿を面白い事だといって、(花を)折ってよこしたので、散る花を数える人のいるこのものの寂しい事は、かねて去ってしまったのだろう。
思い絶えないと秋の人が言った事を、思い出したことだが、綸に物の怪の憑いた女がいた。その女はみなひさがたかきであったとか。ろに鬼に取り憑かれたという元の女を、小法師が祓ったという話で、(男が歌を)書いて、男に経を読ませ、物の怪を責めた所を見て、秋の人にかひゝとを懸けて悩むその人の、心の鬼であろうか。いや、そうではあるまい。返歌。ごもっとも。君の心に闇があれば、鬼の影とは消え去るように見えるだろう。
絵に梅の花を見るといって、女たちが妻戸を押し開けて、二、三人いたところに、指さす人々や寝た様子が描かれているのが、たいそう利口すぎていて、男が頬杖をついて仰がれている姿が描かれた所がある(続く)。春の夜の闇の迷いに、色のない心に、花の香を染めさせたことよ。
同じ絵に、嵯峨野で花を見る女の車があり、荒れた笑いの萩の花に立ち寄って、折り取る所(があった)。さ牡鹿が行か洗いする萩なのか。立ち寄るからに、身を折れ伏すとは。
世の儚い事柄を詠んだ歌の数々を、陸奥の名のある所々にことよせて歌われているのを見て、はがまの浦(の歌)。かつて見た人が煙となってしまった夕べ以来、名も睦まじく思われる塩竈の浦よ。
門を叩いて(私を)煩わせて帰った人が、翌朝(よこした歌)。世と共に荒い風の吹く西の海も、磯辺に波は寄せずに止むのだろうか。そう恨んでいた(彼)への返事に。帰ってしまえば、思いも去ってしまうのか。岩角に浮いて寄った、岸の徒波のように。
年が改まって、「門は開いたか」と言った時に。誰が里の春の便りに、鶯の、霞に問う宿を訪ねるのだろう。
底本:『日本歌学全書 第3編』佐々木弘綱・佐々木信綱共編並標註(博文館、明治24年[1891])。本文画像:所蔵機関の公開資料。
明治24年(1891)佐々木弘綱・佐々木信綱共編並標註『日本歌学全書 第3編』(博文館)所収「紫式部集」の本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像と照合した独自編集本文です。底本の字句を残し、標註・傍註は転写していません。発音の読みと独自訳を添えています。