ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

物語の中の和歌

紫式部集

紫式部 から 紫式部 へ

めぐり逢て
見しやそれ共
わかぬ間に
雲隠れにし
夜半の月哉

巡り逢って、見たのはあなただったのか、それとも見間違いかと分からないうちに、雲に隠れてしまった夜中の月のように(あなたは帰ってしまった)。

発音の読み:めぐりあいて / みしやそれとも / わかぬまに / くもがくれにし / よわのつきかな

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紫式部 から 紫式部 へ

あきよわる
生垣
の虫もとめが
たき秋の別や
かおしかるらん

秋が弱まってゆくにつれ、生垣の虫の声も留めがたく(衰えてゆき)、まして秋の別れは惜しく感じられることだろう。

発音の読み:あきよわる / いけがきのむし / もとめがたき / あきのわかれや / かおしかるらん

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紫式部 から 紫式部 へ

聲去げき
螢が中の
虫のねを
おぼろげにてや
人のたづねん

声を張り上げて鳴く螢の群れの中の虫の音を、おぼろげなままに人が尋ねるのだろうか(聞き分けることなどできはしない)。

発音の読み:こえさげき / ほたるがなかの / むしのねお / おぼろげにてや / ひとのたずねん

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紫式部 から 紫式部 へ

おぼつかあ
それかわらぬか
明ぐれの
空おぼれする
朝顔の花

はっきりしない。あれがそうなのか、そうでないのか。明け方の薄明の空におぼろに浮かぶ朝顔の花(のように、あなたのことも判然としない)。

発音の読み:おぼつかあ / それかわらぬか / あけぐれの / そらおぼれする / あさがおのはな

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詠み手未詳 から 詠み手未詳 へ

いづれぞと
色わくほどに
朝顔の
有かあきかに
あるぞ悲しき

どれがどれと色を見分けるほどに、朝顔のありかははっきりしているのに(あなたが迷うとは)、悲しいことです。

発音の読み:いづれぞと / いろわくほどに / あさがおの / ありかあきかに / あるぞかなしき

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紫式部 から 紫式部 へ

西の海を
思ひやりつつ
月みれば
たゐにあかるゝ
風にも有哉

西の海の方を思いやって月を見ると、たゐに明るく吹く風さえあることだ(月も風も、西へ行く人を思わせる)。

発音の読み:にしのうみお / おもいやりつつ / つきみれば / たいにあかるる / かぜにもあるかな

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紫式部 から 紫式部 へ

露ふかき
おく山里の
もみぢ葉に
かよへる袖の
色を見せばや

露の深く置いた奥山里の紅葉葉に通う(涙に濡れた)私の袖の色を、あなたに見せたいものだ。

発音の読み:つゆふかき / おくやまざとの / もみじばに / かよえるそでの / いろおみせばや

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詠み手未詳 から 詠み手未詳 へ

嵐ふく
遠山里の
もみぢ葉は
つゆもとまらん
ことのかたさよ

嵐の吹く遠い山里の紅葉葉は、露さえ留まることの難しいほど(激しく散り行く)ことよ。

発音の読み:あらしふく / とおやまざとの / もみじばは / つゆもとまらん / ことのかたさよ

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詠み手未詳 から 詠み手未詳 へ

もみぢ葉を
さそふ嵐は
はやけれど
この下あらで
ゆく心かは

紅葉を誘う嵐は速いけれど、その下を荒らすことなく過ぎてゆく(私の)心であることよ。

発音の読み:もみじばお / さそうあらしは / はやけれど / このしたあらで / ゆくこころかは

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紫式部 から 紫式部 へ

霜氷
とぢたるころの
水ぐきは
えもかきやらぬ
心地のみして

霜と氷の閉ざす頃の水茎(筆)は、書こうにも書けず、もどかしい心地ばかりがする。

発音の読み:しもごおり / とぢたるころの / みずぐきは / えもかきやらぬ / ここちのみして

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詠み手未詳 から 詠み手未詳 へ

ゆかずとも
なはかきつめよ
霜氷
水の上にて
おもひながさん

おいでにならなくても、なお手紙を書き続けてください。霜氷の張る(便りの)上で、思いは長くなるばかりです。

発音の読み:ゆかずとも / なおかきつめよ / しもごおり / みずのうえにて / おもいながさん

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紫式部 から 紫式部 へ

杜鵑
こゑまつ程は
かた岡の
そりの去づくに
たちやぬれまし

郭公の声を待つ間、片岡のそりの近づくあたりに立って、夜露に濡れてしまいそうだ。

発音の読み:ほととぎす / こえまつほどは / かたおかの / そりのさりづくに / たちやぬれまし

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紫式部 から 紫式部 へ

はらへどの
神の飾の
みてぐらに
うたてもまがふ
みゝはさみ哉

祓所の神の飾りのみてぐらに、歌でも紛らわしい文挟みであることよ(唐ぶりの髪を文挟みに見立てて)。

発音の読み:はらえどの / かみのかざりの / みてぐらに / うたてもまがう / ふみはさみかな

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紫式部 から 紫式部 へ

北へゆく
かりの翅に
ことづてよ
雲のうはがき
かき絶ずして

北へ行く雁の翼に言伝てよ。雲の上の書き(手紙)を、書き絶やさずにいてほしい。

発音の読み:きたへゆく / かりのつばさに / ことずてよ / くものうわがき / かきたえずして

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詠み手未詳 から 詠み手未詳 へ

行めぐり
誰も都
にかへる山
いづかたときく
やどのはるけさ

行き巡れば、誰も都へ帰るもの。その山はどちらと聞く宿の、春の遠さよ。

発音の読み:ゆきめぐり / たれもみやこに / かえるやま / いずかたときく / やどのはるけさ

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紫式部 から 紫式部 へ

難波がた
むれたる鳥の
諸共に
たちぬるものと
思ひましかば

難波潟に群れる鳥と一緒に、私も立ち去るものと思っていたならば。

発音の読み:なにわがた / むれたるとりの / もろともに / たちぬるものと / おもいましかば

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紫式部 から 紫式部 へ

おひみんと
思ふ心
はまつらあるか
いみの神
や空に去るらん

追い見ようと思う心は、松浦にある甲斐の神よ、空へ去ってしまうのだろうか。

発音の読み:おいみんと / おもうこころは / まつらある / かいみのかみや / そらにさるらん

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詠み手未詳 から 詠み手未詳 へ

行めぐり
逢をまつらの
鏡にい
たれをかけつゝ
祈るとか去る

行き巡って逢おうと、松浦の鏡にいたれを掛けつつ祈るのだとか(聞く)。

発音の読み:ゆきめぐり / あいおまつらの / かがみにい / たれおかけつつ / いのるとかさる

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紫式部 から 紫式部 へ

みをの海
に網ひく民
の隙も
なくたちゐにつけて
都こひしも

三尾の海に網を引く民の、暇もなく立ち居るのにつけても、都が恋しいことよ。

発音の読み:みおのうみ / にあみひくたみ / のひまもなく / たちいにつけて / みやここいしも

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紫式部 から 紫式部 へ

いそがくれ
同じ心に
たづぞあく
あがおもひ出る
人は誰ぞも

磯陰に同じ心で田鶴が鳴く。私を思い出してくれる人は、いったい誰なのだろう。

発音の読み:いそがくれ / おなじこころに / たずぞあく / あがおもいでる / ひとはたれぞも

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紫式部 から 紫式部 へ

かき曇り
夕だつ涙
の荒ければ
うきさたる舟ぞ
去づこゝろあき

空が掻き曇り、夕立の雨(涙)が荒く降るので、憂いを定めた舟は、どこで心が晴れるのだろう。

発音の読み:かきくもり / ゆうだつなみだの / あらければ / うきさたるふねぞ / いずこころあき

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紫式部 から 紫式部 へ

知ぬらん
往來にならす
去はつ山
世にふる道は
からさ物ぞと

知らないことだろう。往来の人々が踏み慣らすいはつ山よ。世に古びた道は、辛いものだということだ。

発音の読み:しらぬらん / ゆききにならす / いはつやま / せにふるみちは / からさものぞと

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紫式部 から 紫式部 へ

老津嶋
去まもる神や
いさびらん
涙もさわがは
わらはべの浦

老津島を守る神よ、知るだろうか。涙も騒ぐ、童べの浦よ。

発音の読み:おいづしま / おまもるかみや / いさびらん / なみだもさわがは / わらわべのうら

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紫式部 から 紫式部 へ

こゝにかく
日野
の杉村埋む雪
をしはの松に
今日やまがへる

ここに、こうして日野の杉群を埋める雪は、小塩の松に今日は紛れるほどであろう。

発音の読み:ここにかく / ひののすぎむら / うずむゆき / おしおのまつに / きょうやまがえる

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詠み手未詳 から 詠み手未詳 へ

をしは山松
の上葉
に今日や
さはみねのうす雪
花とみゆらん

小塩山の松の上葉に、今日はああ、峰の薄雪が花と見えるだろう。

発音の読み:おしおやま / まつのうわばに / きょうやさわ / みねのうすゆき / はなとみゆらん

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紫式部 から 紫式部 へ

故郷
にかへる山路
のそれあらば
心やゆくと
ゆきもみてまし

故郷へ帰る山路がもしそれとあるなら、心も行くことだろう。雪も見ていこうと思う。

発音の読み:ふるさとに / かえるやまじの / それあらば / こころやゆくと / ゆきもみてまし

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紫式部 から 紫式部 へ

春あれど
去らねのの雪
いや積り
とくべき程の
いつとあき哉

春になっても去らない野の雪は、ますます積もる。溶けるはずの時はいつなのか、秋なのか。

発音の読み:はるあれど / さらねののゆき / いやつもり / とくべきほどの / いつとあきかな

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紫式部 から 紫式部 へ

水うみに
友よぶ千鳥
ことあらは
やすの港を
こめたえあせそ

水海に友を呼ぶ千鳥よ。言うことがあるなら、安の港に込めて絶やしてしまわないでほしい。

発音の読み:みずうみに / ともよぶちどり / ことあらわ / やすのみなとお / こめたえあえそ

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紫式部 から 紫式部 へ

四方
の海に鹽燒蟹
の心か
らやくとにかゝる
あげきをやつむ

四方の海に塩焼く蟹の心から、焼くというのに、かかる揚げ木を積むことよ。

発音の読み:よものうみ / にしおやきがにの / こころから / やくにとにかかる / あげきおやつむ

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紫式部 から 紫式部 へ

紅の涙に
いとうとう
まるゝうつる
ころのいろと
みゆれば

紅の涙にひどく埋もれてしまう。移る頃の色と見えるので。

発音の読み:くれないのなみだに / いとうと / うまるるうつる / ころのいろと / みゆれば

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詠み手未詳 から 詠み手未詳 へ

さだたりし
らへの海らひ
解あがらさゐ
たえぬとや山の
下水

定まりした調べの海は、解け上がりもせず絶えるまいとやら、山の下水のように。

発音の読み:さだたりし / らえのうみらい / とけあがらさい / たえぬとややまの / したみず

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紫式部 から 紫式部 へ

こち風に
解るはかりを
底見ゆる
いは間の水の
たえは絶なん

東風に解けるばかりに底の見える岩間の水は、絶えれば絶えてしまうだろう。

発音の読み:こちかぜに / とくるばかりお / そこみゆる / いわまのみずの / たえはたえなん

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紫式部 から 紫式部 へ

猛
からぬ人かすあみの
海か
へり三原の池に
たてどかひあし

猛くない人がかす網の海に帰り、三原の池に立てども、甲斐はあるまい。

発音の読み:たけからぬ / ひとかすあみの / うみかえり / みはらのいけに / たてどかいあし

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紫式部 から 紫式部 へ

をりて見
はちかまさり
せよ桃
の花思ひぐまなき
櫻をしまに

折って御覧なさい、近くでいっそう勝る桃の花を。思いに曇りのない桜を(見る)間に。

発音の読み:おりてみわ / ちかまさりせよ / もものはな / おもいぐまなき / さくらおしまに

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詠み手未詳 から 詠み手未詳 へ

もゝといふ
名もあは
る物を時
の間にちる櫻に
も思ひたどさし

桃という名も現れる物を、時の間に散る桜にも思い辿らせることよ。

発音の読み:ももという / なもあわるもの / おときのまに / ちるさくらにも / おもいたどさし

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紫式部 から 紫式部 へ

花といは
いづれか匂
あしとみん
散紛ふ色の
異あらなくに

花といえば、どちらが匂いよいと見ようか。散り紛う色に違いがないのだから。

発音の読み:はなといわ / いずれかにおい / あしとみん / ちりまがういろの / ことあらなくに

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紫式部 から 紫式部 へ

いづ方
の雲路と
さかは尋ねまし
つら離れけん
雁のゆくへを

どちらの雲路をたどって尋ねればよいのか。群れを離れた雁の行方を。

発音の読み:いずかたの / くもじとさかわ / たずねまし / つらはなれけん / かりのゆくえお

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詠み手未詳 から 詠み手未詳 へ

雲の上も
物思ふ春の
霞染に
かすむそらさへ
あられあるかあ

雲の上も物思いする春の霞染めに、霞む空さえ霰があるのか。

発音の読み:くものうえも / ものおもうはるの / かすみぞめに / かすむそらさえ / あられあるかあ

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紫式部 から 紫式部 へ

何かこの
程あさ袖を
ぬらすらん
霞のころも
あへてきる世に

どうしてこの頃、朝の袖を濡らすのだろう。霞の衣をあえて着る世の中で。

発音の読み:なにかこの / ほどあさそでお / ぬらすらん / かすみのころも / あえてきるよに

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紫式部 から 紫式部 へ

夕霧
にみし方か
れし鷺の
子の跡をみるゝ
まとはるゝかあ

夕霧の中、見た方も離れて、鷺の子の跡(手跡)を見るにつけ、心まとわりつくことよ。

発音の読み:ゆうぎりに / みしかたかれし / さぎのこ / のあとおみるる / まとわるるかあ

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紫式部 から 紫式部 へ

ちる花
を數さし
人ゐこのも
のゝ寂しき事や
かねて去りけん

散る花を数える人のいるこのものの寂しい事は、かねて去ってしまったのだろう。

発音の読み:ちるはなお / かずさしひとい / このものの / さびしきことや / かねてさりけん

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紫式部 から 紫式部 へ

あき人に
かひゝとをかけて
煩ふものゝが
心の鬼に
やはあらん

秋の人にかひゝとを懸けて悩むその人の、心の鬼であろうか。いや、そうではあるまい。

発音の読み:あきひとに / かいひことおかけて / わずらうもののが / こころのおにに / やはあらん

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詠み手未詳 から 詠み手未詳 へ

ことわりや
君が心
の闇あれば
鬼のかげとは
去るくみゆらん

ごもっとも。君の心に闇があれば、鬼の影とは消え去るように見えるだろう。

発音の読み:ことわりや / きみがこころの / やみあれば / おにのかげとは / さるくみゆらん

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紫式部 から 紫式部 へ

春の夜の
やみの迷に
色あらぬ
こゝろに花の
香をぞ去めつる

春の夜の闇の迷いに、色のない心に、花の香を染めさせたことよ。

発音の読み:はるのよの / やみのまよいに / いろあらぬ / こころにはなの / かおぞしめつる

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紫式部 から 紫式部 へ

さを鹿
の去かあらひせる
萩なれや
立寄からに
おのれをれふす

さ牡鹿が行か洗いする萩なのか。立ち寄るからに、身を折れ伏すとは。

発音の読み:さおしかの / いかあらいせる / はぎなれや / たちよるからに / おのれおれふす

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紫式部 から 紫式部 へ

みし人の
けふりとありし
夕べより
名もむつまじき
鹽竈の浦

かつて見た人が煙となってしまった夕べ以来、名も睦まじく思われる塩竈の浦よ。

発音の読み:みしひとの / けぶりとありし / ゆうべより / なもむつまじき / しおがまのうら

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詠み手未詳 から 詠み手未詳 へ

よと共に
あらさ風ふく
西の海も
磯べに波は
よせすとやみん

世と共に荒い風の吹く西の海も、磯辺に波は寄せずに止むのだろうか。

発音の読み:よとともに / あらさかぜふく / にしのうみも / いそべになみは / よせずとやみん

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紫式部 から 紫式部 へ

かへりては
思ひ去り
ぬや岩
かどに浮てより
ける岸のあだ波

帰ってしまえば、思いも去ってしまうのか。岩角に浮いて寄った、岸の徒波のように。

発音の読み:かえりては / おもいさりぬや / いわかどに / うきてよりける / きしのあだなみ

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紫式部 から 紫式部 へ

たが里
の春のたより
に鶯の
かすみにどつる
やどをとふらん

誰が里の春の便りに、鶯の、霞に問う宿を訪ねるのだろう。

発音の読み:たがさとの / はるのたよりに / うぐいすの / かすみにとつる / やどおとふらん

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紫式部 から 紫式部 へ

消ぬ間の身を
は去るゝく
朝顔の
露とあらそふ
世を驚くかな

消えゆく定めの身をはかなく、朝顔の露と争う世を、驚くばかりだ。

発音の読み:きえぬまのみお / はさるるく / あさがおの / つゆとあらそう / よおおどろくかな

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紫式部 から 紫式部 へ

若竹の
れひゆく末を
いのるかな
此よをうしと
いまふ物から

若竹の伸びゆく末を祈ることよ。この世を憂しと言い合うものだから。

発音の読み:わかたけの / のびゆくすえお / いのるかな / このよおうしと / いうものから

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紫式部 から 紫式部 へ

數あらぬ
心に身をは
まかせねど
身に去たがふは
心ありけり

数ならぬ心に身をば任せねど、身に去り違うのは心であったよ。

発音の読み:かずあらぬ / こころにみおば / まかせねど / みにさりたがうは / こころありけり

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紫式部 から 紫式部 へ

心だに
いかある身
にか適ふらん
思ひ去れど
も思ひ去られず

心だけでも、どうある身に叶うのだろう。思い去っても、思い去られはしない。

発音の読み:こころだに / いかあるみにか / なうらん / おもいされども / おもいさられず

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紫式部 から 紫式部 へ

身のうさは
心のうちに
去たひきて
今こゝのへに
思ひ乱るゝ

身の憂さを心のうちに堪え忍んで、今、九重(宮中)に思い乱れる。

発音の読み:みのうさは / こころのうちに / さりたひきて / いまここのえに / おもいみだるる

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紫式部 から 紫式部 へ

うきことと
思ひ乱れて
靑柳
のいとひさしくも
なりにける哉

憂い事と思い乱れて、青柳の糸も久しくなってしまったことよ。

発音の読み:うきことと / おもいみだれて / あおやぎの / いとひさしくも / なりにけるかな

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詠み手未詳 から 詠み手未詳 へ

つれゝゝと
あがき春日
は靑柳
のいとゝ憂世
に乱れてぞふる

つれづれと足掻く春の日は、青柳の糸も、憂き世に乱れて降るようだ。

発音の読み:つれづれと / あがきはるひは / あおやぎの / いとどうきよに / みだれてぞふる

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紫式部 から 紫式部 へ

わりなしや
人こそ人と
いはざらめ
みづから身をや
思ひ捨べき

道理がないよ。人は人と言わないとしても、自分で我が身を思い捨ててよいものか。

発音の読み:わりなしや / ひとこそひとと / いわざらめ / みずからみおや / おもいすつべき

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紫式部 から 紫式部 へ

忍びつる
袖ぞ現るゝ
菖蒲草
いはぬにくちて
やみぬべけれは

忍んできた袖が現れる。菖蒲草は、言わないうちに朽ちて止んでしまうだろうから。

発音の読み:しのびつる / そでぞあらわるる / あやめぐさ / いわぬにくちて / やみぬべければ

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詠み手未詳 から 詠み手未詳 へ

けふはかく
ひきける物を
菖蒲草
我みがくれに
ぬれ渡りつる

今日はこうして引きかけた物を、菖蒲草よ、我が身の隠れに濡れ渡ってきたよ。

発音の読み:きょうはかく / ひきけるものお / あやめぐさ / われみがくれに / ぬれわたりつる

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紫式部 から 紫式部 へ

妙なり
や今日は
五月の五日
とて五つのなきに
あへる御法も

妙なることよ。今日は五月の五日といって、五つの名に会えた御法も。

発音の読み:たえなりや / きょうはごがつの / いつかとて / いつつのなきに / あえるみほふも

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紫式部 から 紫式部 へ

かゝり火
の影も
さわがね池水
に幾千代すまん
法のひかりぞ

篝火の影も騒がない池の水に、幾千代も澄むであろう、法の光であることよ。

発音の読み:かがりびの / かげもさわがね / いけみずに / いくちよすまん / のりのひかりぞ

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紫式部 から 紫式部 へ

澄る池の
底までてらす
籬火の
まがゆきまでも
らさ我身かあ

澄んだ池の底まで照らす籬の火の眩しさまでも、漏らす我が身であることよ。

発音の読み:すめるいけの / そこまでてらす / まがきびの / まがゆきまでも / らさわがみかあ

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紫式部 から 紫式部 へ

影みて
もうさきわが
涙落そひて
かどとがまし
き瀧のおとかな

影を見ても憂い我が涙が落ち添って、角咎しい瀧の音であることよ。

発音の読み:かげみても / うさきわがなみ / だおちそいて / かどとがましき / たきのおとかな

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詠み手未詳 から 詠み手未詳 へ

獨ゐて
涙ぐみける水
のおも
にうきそはるらん
影やいづれと

独りいて涙ぐんでいた水の面に、浮き草は晴れるだろう。その影はどれと(言うのか)。

発音の読み:ひとりいて / なみだぐみける / みずのおもに / うきそはるらん / かげやいずれと

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紫式部 から 紫式部 へ

あべて世の
うきに流るゝ
菖蒲草
けふ迄かゝる
ねはいかいみる

あべて世の憂きに流れる菖蒲草よ。今日までこうして根這い、甲斐を見る。

発音の読み:あべてよの / うきにながるる / あやめぐさ / きょうまでかかる / ねはいいかいみる

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詠み手未詳 から 詠み手未詳 へ

何事と
あやめはわかで
今日も猶
袂にあまる
ねこそたえせね

何事と、菖蒲は分からないまま、今日もなお、袂に余る根こそ絶えないでほしい。

発音の読み:なにごとと / あやめはわかで / きょうもなお / たもとにあまる / ねこそたえせね

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小少将の君 から 小少将の君 へ

天の戸の
月の通路
さゝねども
いかなる方に
たゝくくひなど

天の戸の、月の通い路は差さないけれど、どちらの方に叩く、水鷄なのかと。

発音の読み:あまのとの / つきのかよいじ / ささねども / いかなるかたに / たたくくひなど

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紫式部 から 紫式部 へ

帳の戸も
さゝでやすらふ
月影に
何をわかすと
たゝく水鷄ぞ

帳の戸も差さずに休らう月影に、何を分かそうとして叩く水鷄なのだろう。

発音の読み:とばりのとも / ささでやすろう / つきかげに / なにおわかすと / たたくくひなぞ

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詠み手未詳 から 詠み手未詳 へ

よもすがら
水鷄よりけに
あくゝくぞ
帳の戸口に
叩き侘つる

夜もすがら、水鷄よりいっそう鳴き明かしたことよ。帳の戸口に叩き侘びたのだ。

発音の読み:よもすがら / くひなよりけに / あくあくぞ / とばりのとぐちに / たたきわびつる

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紫式部 から 紫式部 へ

たいあらじ
と斗叩く
水鷄ゆゑ
明けてはいかに
悔しからまし

堪えきれないとばかりに叩く水鷄ゆえ、明けてはどれほど悔しいだろう。

発音の読み:たいあらじ / とばかりたたく / くひなゆえ / あけてはいかに / くやしからまし

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詠み手未詳 から 詠み手未詳 へ

女郎花
さかりの色を
みるからに
露のわきける
身社去らるれ

女郎花の盛りの色を見るにつけ、露に分けた身こそ、さぞ心動かされることよ。

発音の読み:おみなえし / さかりのいろお / みるからに / つゆのわきける / みこそさわるれ

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紫式部 から 紫式部 へ

白露
はヱさても
おかじ女郎花
てゝろからに
や色のそむらん

白露は、酔わせても置いてはおかないだろう。女郎花は、ててろからにや、色が染まるのだろう。

発音の読み:しらつゆは / えさてもおかじ / おみなえし / ててろからにや / いろのそむらん

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紫式部 から 紫式部 へ

忘るゝ
は憂世の
常と思ふに
も身をやるかたの
あきぞ侘しき

忘れるのは憂き世の常と思うにも、身を置く方の秋(飽き)が侘しい。

発音の読み:わするるは / うきよのつねと / おもうにも / みおやるかたの / あきぞわびしき

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詠み手未詳 から 詠み手未詳 へ

たがさとも
とひもやくるど
郭公
心のかぎり
まちどわびにし

誰が里にも、訪ねては来るだろうか、郭公よ。心の限りに待ち侘びたことだ。

発音の読み:たがさとも / といもやくるど / ほととぎす / こころのかぎり / まちどわびにし

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紫式部 から 紫式部 へ

ましも猶
遠方人の
跡かはせ
われこしわぶる
たこのよびざか

猿でさえも、遠くからの人の跡をたどる。この来るに侘びた逢坂を。

発音の読み:ましもなお / おちかたびとの / あとかわせ / われこしわぶる / たこのよびざか

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紫式部 から 紫式部 へ

名に高き
こしの白山
ゆきあれて
伊吹の嶽を
あにとこそみね

名に高い越の白山の雪の荒れように、伊吹の嶽を兄と見立てる。

発音の読み:なにたかき / こしのしらやま / ゆきあれて / いぶきのたけお / あにとこそみね

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紫式部 から 紫式部 へ

心あてに
あかたじけな
苔むせる
佛の御顔
そとはみえねど

心当てに、ああ有り難いことよ。苔むした仏の御顔は、外には見えないけれど。

発音の読み:こころあてに / あかたじけな / こけむせる / ほとけのみかお / そとはみえねど

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紫式部 から 紫式部 へ

けおかくて
誰も心
はみえに
けん言葉隔てぬ
ちぎりともがあ

今日こうして書くにも、誰の心も見えないだろう。言葉を隔てない契りだというのに。

発音の読み:けふかくて / たれもこころは / みえにけん / ことばへだてぬ / ちぎりともがあ

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詠み手未詳 から 詠み手未詳 へ

へたてじと
あらひしはどに
夏衣
うらすき心を
まづ去られぬる

隔てまいと洗ったほどに、夏衣の裏透く心を、まず去られてしまった。

発音の読み:へたてじと / あらいしほどに / なつごろも / うらすきこころお / まずさられぬる

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紫式部 から 紫式部 へ

額さむみ
岩間こはれる
谷水の
ゆくすゑしもぞ
深くあるらん

額の寒さに、岩間を壊れる谷水の、行く末こそ深くあるのだろう。

発音の読み:ひたいさむみ / いわまこわれる / たにみずの / ゆくすえしもぞ / ふかくあるらん

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紫式部 から 紫式部 へ

珍しき
光さしそふ
さかづきは
もちあがら社
千代はめぐらめ

珍しい光が差し添う盃を、持ち上がらこそ、千代も巡らめ。

発音の読み:めずらしき / ひかりさしそう / さかづきは / もちあがらこそ / ちよはめぐらめ

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紫式部 から 紫式部 へ

くもりなく
千歳
にすめる水
の面に宿れる月
の影ものどけし

曇りなく千歳に澄める水の面に、宿る月の影も、のどかなことよ。

発音の読み:くもりなく / ちとせにすめる / みずのおもに / やどれるつきの / かげものどけし

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紫式部 から 紫式部 へ

いかにいかゝ
數へやるべき
八千歳の
あまり久しき
君が御代をは

どう数えやるべきでしょう。八千歳のあまりにも久しい、君の御代を。

発音の読み:いかにいかが / かぞえやるべき / やちとせの / あまりひさしき / きみがみよおば

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詠み手未詳 から 詠み手未詳 へ

おしたづの
齢しあれば
君が
代の千歳のかず
も數へどりてむ

鴛鴦と鶴の齢があるので、君の御代の千歳の数も、数え取ることができるでしょう。

発音の読み:おしたずの / よわいしあれば / きみがよの / ちとせのかずも / かぞえどりてむ

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紫式部 から 紫式部 へ

折々に
かくどは見えて
さゝがにの
いかに思へは
絶るある覧

折々に、かく門は見えて、ささがにの、どう思えば絶えてしまうというのか。

発音の読み:おりおりに / かくどはみえて / ささがにの / いかにおもえば / たゆるあるらん

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詠み手未詳 から 詠み手未詳 へ

霜枯の
淺茅に紛ふ
さゝがにの
いかなるをりに
かくと見ゆらん

霜枯れの浅茅に紛れるささがにの、どの折に、こうと見えるのだろう。

発音の読み:しもがれの / あさじにまがう / ささがにの / いかなるおりに / かくとみゆらん

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紫式部 から 紫式部 へ

いる方に
さやかありける
月影を
うはの空にも
待し夜半かあ

入る方に明らかであった月影を、上(うわ)の空にも待った夜半のことよ。

発音の読み:いるかたに / さやかありける / つきかげお / うわのそらにも / まちしよわかあ

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詠み手未詳 から 詠み手未詳 へ

さして行く
山の端も皆
かきくもり
心のそらに
さえし月かげ

差して行く山の端も皆曇り、心の空に冴えた月影よ。

発音の読み:さしてゆく / やまのはもみな / かきくもり / こころのそらに / さえしつきかげ

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紫式部 から 紫式部 へ

おやかたの
秋の哀を
思ひやれ
月にこゝろは
あくがれぬとも

親方の秋の哀れを思いやれ。月に心はあくがれなくとも。

発音の読み:おやかたの / あきのあわれお / おもいやれ / つきにこころは / あくがれぬとも

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紫式部 から 紫式部 へ

垣根はれ
爽しさまさる
床夏に
露かきそはん
わきまでも見じ

垣根晴れ、涼しさ勝る床の夏に、露を掻き添えん、脇までも見ないでおこう。

発音の読み:かきねはれ / すずしさまさる / とこなつに / つゆかきそわん / わきまでもみじ

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紫式部 から 紫式部 へ

花薄
葉分の露や
あにゝかく
かれゆく野遊に
さえとまるらん

花薄の葉分の露よ、ああ、こうして枯れゆく野遊びにさえ、留まるのだろう。

発音の読み:はなすすき / はちのつゆや / あにいかく / かれゆくのあそびに / さえとまるらん

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紫式部 から 紫式部 へ

世にふるに
あざかひ沼の
いけらじと
思ひぞ沈む
底は去らねど

世に経るにつけ、浅香沼に生けてはいられまいと思い沈む。底は去らないけれど。

発音の読み:よにふるに / あざかいぬまの / いけらじと / おもいぞしずむ / そこはさらねど

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紫式部 から 紫式部 へ

心ゆく
水の景色は
今日ぞみる
こや世にへつる
かひ沼のいけ

心ゆく水の景色は、今日ぞ見る。今夜、世に経つる、かひ沼の池よ。

発音の読み:こころゆく / みずのけしきは / きょうぞみる / こやよにへつる / かいぬまのいけ

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紫式部 から 紫式部 へ

多かりし
とよの宮人
さしわきて
去るきひかげを
哀とぞみし

多かった豊の宮人は、指し分けて、去る君の影を哀れと見た。

発音の読み:おおかりし / とよのみやびと / さしわきて / さるきひかげお / あわれとぞみし

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紫式部 から 紫式部 へ

三笠山
同じふもとを
さしわきて
霞にたにの
へだてつるかな

三笠山、同じ麓を指し分けて、霞に谷を隔ててしまったな。

発音の読み:みかさやま / おなじふもとお / さしわきて / かすみにたにの / へだてつるかな

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少将の君 から 少将の君 へ

さしてみて
いることかたみ
三笠山
霞ふきとく
風をこそまて

指して見ている事こそ形見。三笠山の霞を吹き解く風をこそ待て。

発音の読み:さしてみて / いることかたみ / みかさやま / かすみふきとく / かぜおこそまて

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紫式部 から 紫式部 へ

埋木の
下にやつるゝ
梅の花
香をだにちらせ
くものうへまで

埋もれ木の下に痩せる梅の花よ。香をだけでも散らせ、雲の上まで。

発音の読み:うもれぎの / したにやつるる / うめのはな / かおだにちらせ / くものうえまで

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紫式部 から 紫式部 へ

九重は
匂ふを見れば
櫻がり
かさねてきたる
はるのさかりか

九重の匂うのを見れば、桜狩りが重なって来た、春の盛りか。

発音の読み:ここのえは / におうおみれば / さくらがり / かさねてきたる / はるのさかりか

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少将の君 から 少将の君 へ

神代
にはありもや
しけん山櫻けふの
かざしに
折れるためしは

神代にも、あっただろうか。山桜を今日の簪に折った例は。

発音の読み:かみよには / ありもやしけん / やまざくら / きょうのかざしに / おれるためしは

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紫式部 から 紫式部 へ

改めて
けふしも物
の悲しきは
身のうさやまたさき
變りぬる

改めて、今日しも物の悲しいのは、身の憂さがまた、先に変わってしまったからか。

発音の読み:あらためて / きょうしもものの / かなしきは / みのうさやまた / さきかわりぬる

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紫式部 から 紫式部 へ

珍らしど
君し思は
いきてみえん
すれる衣の
はどすぎぬども

珍しいことと君が思えば、生きて見えるだろう。擦れる衣の端は過ぎないけれど。

発音の読み:めずらしと / きみしおもわ / いきてみえん / すれるころもの / はどすぎぬども

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辨宰相の君 から 辨宰相の君 へ

さらば君
やさぬの
衣すぎぬ
ども戀しき程に
きてもみえあん

ならば君、痩せない衣は過ぎないけれど、恋しいほどに、着ても見えるだろう。

発音の読み:さらばきみ / やさぬのころも / すぎぬども / こいしきほどに / きてもみえなん

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紫式部 から 紫式部 へ

うち忍び
數き明せば
去のゝめの
はがらかにだに
夢をみぬ哉

ひそかに数え明かせば、猪の目の、朗らかにだけでも、夢を見ないことよ。

発音の読み:うちしのび / あらきあかせば / いののめの / はがらかにだに / ゆめおみぬかな

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詠み手未詳 から 詠み手未詳 へ

去のゝめの
空霧わたり
いつしかに
秋の景色に
世は成にけり

猪の目の空に霧が渡り、いつしか、秋の景色に世はなってしまった。

発音の読み:いののめの / そらきりわたり / いつしかに / あきのけしきに / よはなりにけり

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紫式部 から 紫式部 へ

大方を
思へばゆかし
天の河
今日のおふせは
うららやまれたり

大方を思えば行かしい。天の川よ、今日の逢う瀬は、うららかに生まれたよ。

発音の読み:おおかたお / おもえばゆかし / あまのがわ / きょうのおうせは / うららやまれたり

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詠み手未詳 から 詠み手未詳 へ

天の河
おふ瀬はよその
くも井にて
絶ぬ契し
世々におせずは

天の川の逢う瀬は、よその雲井で、絶えない契りを世々に負わなければ。

発音の読み:あまのがわ / おうせはよその / くもいにて / たえぬちぎりし / よよにおせずば

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紫式部 から 紫式部 へ

なはざりの
便にとゐん
人毎に
打とけてしも
みえじどぞ思ふ

名技の便りに問う人ごとに、打ち解けては見せまいと思う。

発音の読み:なわざりの / たよりにといん / ひとごとに / うちとけてしも / みえじとぞおもう

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紫式部 から 紫式部 へ

よとめをも
夢といひし
か誰あれや
秋の月にも
いかでかはみし

夜止めをも夢と言ったか。誰あれ、秋の月にさえ、どうして変わって見ようか。

発音の読み:よとめおも / ゆめといいしか / たれあれや / あきのつきにも / いかでかわみし

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紫式部 から 紫式部 へ

菊の露
わかゆはかりに
袖ふれて
花の主人に
千代はゆづらん

菊の露、若湯ばかりに袖を触れて、花の主人に千代は譲ろう。

発音の読み:きくのつゆ / わかゆばかりに / そでふれて / はなのあるじに / ちよはゆずらん

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少将の君 から 少将の君 へ

雲間あく
詠むる空を
かきくらし
いかに忍ぶる
時雨あるらん

雲間が明く、眺める空を掻き曇らし、どう堪えるのだろう、時雨のある頃は。

発音の読み:くもまあく / ながむるそらお / かきくらし / いかにしのぶる / しぐれあるらん

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紫式部 から 紫式部 へ

こどわりの
時雨
の空は雲間あれど
詠むる袖ぞ
乾く世もあき

理の時雨の空は雲間があっても、眺める袖は乾く世もない。

発音の読み:ことわりの / しぐれのそらは / くもまあれど / ながむるそでぞ / かわくよもあき

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紫式部 から 紫式部 へ

浮寐せし
水の上
のみ戀しくて
鴫のうはげに
さえぞれとらぬ

浮き寝した水の上ばかりが恋しくて、鴫の上毛にさえ、ぞ獲られない。

発音の読み:うきねせし / みずのうえのみ / こいしくて / しぎのうわげに / さえぞれとらぬ

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詠み手未詳 から 詠み手未詳 へ

打拂ふ
友あき頃の
ねざめには
つがひし鷺ぞ
夜半にこひしき

打ち払う友なき頃の寝覚めには、番(つが)いした鷺が夜半に恋しい。

発音の読み:うちはらう / ともなきころの / ねざめには / つがいしさぎぞ / よわにこいしき

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紫式部 から 紫式部 へ

なにはかり
心づくし
にあがめぬ
とみしにくれぬ
る秋の月哉

何ばかり心尽くしに崇めないと思ったのに、見ているうちに暮れてしまった、秋の月よ。

発音の読み:なにばかり / こころづくしに / あがめぬと / みしにくれぬる / あきのつきかな

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紫式部 から 紫式部 へ

たづさあき
旅の空ある
すまひをば
雨もよに問ふ
人もあらじあ

たづさ秋、旅の空ある相撲を、雨も世に問う人も、ないだろう。

発音の読み:たづさあき / たびのそらある / すまいおば / あめもよにとう / ひともあらじあ

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詠み手未詳 から 詠み手未詳 へ

いどむ人
あまた聞ゆる
百敷の
すまひらしどは
思ひ去るやは

挑む人が多く聞こえる百敷(宮中)の、相撲らしいとは、思い去るだろうか。

発音の読み:いどむひと / あまたきこゆる / ももしきの / すまいらしとは / おもいさるやは

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紫式部 から 紫式部 へ

戀わびて
ありふる程
の初雪
は消ぬるかどぞ
うたがはれぬる

恋い侘びて、あり古るほどの初雪は、消えないかと疑われる。

発音の読み:こいわびて / ありふるほどの / はつゆきは / きえぬるかとぞ / うたがわれぬる

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詠み手未詳 から 詠み手未詳 へ

降れはかく
らさのみまさる
世を去らで
荒たる庭に
積る初雪

降れば、このようにうら寂しさばかりが勝る。世を去らず、荒れた庭に積もる初雪よ。

発音の読み:ふればかく / うらさのみまさる / よおさらで / あれたるにわに / つもるはつゆき

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紫式部 から 加賀少納言 へ

暮ぬ
間の身をば
思はで人の
よの哀を去るど
かつはかあしき

暮れない間の身を思わず、人の世の哀れを去ることと、かつは悲しい。

発音の読み:くれぬまの / みおばおもわで / ひとのよの / あわれおさると / かつはかなしき

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小少将の君 から 小少将の君 へ

誰か世に
長らへてみん
かきどめし
跡は消せぬ
形見あれども

誰が世に長らえて見ようか。書き留めた跡は消せない形見があるけれど。

発音の読み:たれかよに / ながらえてみん / かきとめし / あとはけせぬ / かたみあれども

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紫式部 から 紫式部 へ

あき人
を忍ぶる事
もいつまでど
今日の哀は
あすのわが身を

あき人を忍ぶことも、いつまでと思っていた。今日の哀れは、明日のわが身を(思わせる)。

発音の読み:あきひとお / しのぶることも / いつまでと / きょうのあわれは / あすのわがみお

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紫式部集へ