めぐり逢て
見しやそれ共
わかぬ間に雲隠れにし
夜半の月哉
巡り逢って、見たのはあなただったのか、それとも見間違いかと分からないうちに、雲に隠れてしまった夜中の月のように(あなたは帰ってしまった)。
発音の読み:めぐりあいて / みしやそれとも / わかぬまに / くもがくれにし / よわのつきかな
めぐり逢て
見しやそれ共
わかぬ間に雲隠れにし
夜半の月哉
巡り逢って、見たのはあなただったのか、それとも見間違いかと分からないうちに、雲に隠れてしまった夜中の月のように(あなたは帰ってしまった)。
発音の読み:めぐりあいて / みしやそれとも / わかぬまに / くもがくれにし / よわのつきかな
あきよわる
生垣
の虫もとめがたき秋の別や
かおしかるらん
秋が弱まってゆくにつれ、生垣の虫の声も留めがたく(衰えてゆき)、まして秋の別れは惜しく感じられることだろう。
発音の読み:あきよわる / いけがきのむし / もとめがたき / あきのわかれや / かおしかるらん
聲去げき
螢が中の
虫のねをおぼろげにてや
人のたづねん
声を張り上げて鳴く螢の群れの中の虫の音を、おぼろげなままに人が尋ねるのだろうか(聞き分けることなどできはしない)。
発音の読み:こえさげき / ほたるがなかの / むしのねお / おぼろげにてや / ひとのたずねん
おぼつかあ
それかわらぬか
明ぐれの空おぼれする
朝顔の花
はっきりしない。あれがそうなのか、そうでないのか。明け方の薄明の空におぼろに浮かぶ朝顔の花(のように、あなたのことも判然としない)。
発音の読み:おぼつかあ / それかわらぬか / あけぐれの / そらおぼれする / あさがおのはな
いづれぞと
色わくほどに
朝顔の有かあきかに
あるぞ悲しき
どれがどれと色を見分けるほどに、朝顔のありかははっきりしているのに(あなたが迷うとは)、悲しいことです。
発音の読み:いづれぞと / いろわくほどに / あさがおの / ありかあきかに / あるぞかなしき
西の海を
思ひやりつつ
月みればたゐにあかるゝ
風にも有哉
西の海の方を思いやって月を見ると、たゐに明るく吹く風さえあることだ(月も風も、西へ行く人を思わせる)。
発音の読み:にしのうみお / おもいやりつつ / つきみれば / たいにあかるる / かぜにもあるかな
露ふかき
おく山里の
もみぢ葉にかよへる袖の
色を見せばや
露の深く置いた奥山里の紅葉葉に通う(涙に濡れた)私の袖の色を、あなたに見せたいものだ。
発音の読み:つゆふかき / おくやまざとの / もみじばに / かよえるそでの / いろおみせばや
嵐ふく
遠山里の
もみぢ葉はつゆもとまらん
ことのかたさよ
嵐の吹く遠い山里の紅葉葉は、露さえ留まることの難しいほど(激しく散り行く)ことよ。
発音の読み:あらしふく / とおやまざとの / もみじばは / つゆもとまらん / ことのかたさよ
もみぢ葉を
さそふ嵐は
はやけれどこの下あらで
ゆく心かは
紅葉を誘う嵐は速いけれど、その下を荒らすことなく過ぎてゆく(私の)心であることよ。
発音の読み:もみじばお / さそうあらしは / はやけれど / このしたあらで / ゆくこころかは
霜氷
とぢたるころの
水ぐきはえもかきやらぬ
心地のみして
霜と氷の閉ざす頃の水茎(筆)は、書こうにも書けず、もどかしい心地ばかりがする。
発音の読み:しもごおり / とぢたるころの / みずぐきは / えもかきやらぬ / ここちのみして
ゆかずとも
なはかきつめよ
霜氷水の上にて
おもひながさん
おいでにならなくても、なお手紙を書き続けてください。霜氷の張る(便りの)上で、思いは長くなるばかりです。
発音の読み:ゆかずとも / なおかきつめよ / しもごおり / みずのうえにて / おもいながさん
杜鵑
こゑまつ程は
かた岡のそりの去づくに
たちやぬれまし
郭公の声を待つ間、片岡のそりの近づくあたりに立って、夜露に濡れてしまいそうだ。
発音の読み:ほととぎす / こえまつほどは / かたおかの / そりのさりづくに / たちやぬれまし
はらへどの
神の飾の
みてぐらにうたてもまがふ
みゝはさみ哉
祓所の神の飾りのみてぐらに、歌でも紛らわしい文挟みであることよ(唐ぶりの髪を文挟みに見立てて)。
発音の読み:はらえどの / かみのかざりの / みてぐらに / うたてもまがう / ふみはさみかな
北へゆく
かりの翅に
ことづてよ雲のうはがき
かき絶ずして
北へ行く雁の翼に言伝てよ。雲の上の書き(手紙)を、書き絶やさずにいてほしい。
発音の読み:きたへゆく / かりのつばさに / ことずてよ / くものうわがき / かきたえずして
行めぐり
誰も都
にかへる山いづかたときく
やどのはるけさ
行き巡れば、誰も都へ帰るもの。その山はどちらと聞く宿の、春の遠さよ。
発音の読み:ゆきめぐり / たれもみやこに / かえるやま / いずかたときく / やどのはるけさ
難波がた
むれたる鳥の
諸共にたちぬるものと
思ひましかば
難波潟に群れる鳥と一緒に、私も立ち去るものと思っていたならば。
発音の読み:なにわがた / むれたるとりの / もろともに / たちぬるものと / おもいましかば
おひみんと
思ふ心
はまつらあるかいみの神
や空に去るらん
追い見ようと思う心は、松浦にある甲斐の神よ、空へ去ってしまうのだろうか。
発音の読み:おいみんと / おもうこころは / まつらある / かいみのかみや / そらにさるらん
行めぐり
逢をまつらの
鏡にいたれをかけつゝ
祈るとか去る
行き巡って逢おうと、松浦の鏡にいたれを掛けつつ祈るのだとか(聞く)。
発音の読み:ゆきめぐり / あいおまつらの / かがみにい / たれおかけつつ / いのるとかさる
みをの海
に網ひく民
の隙もなくたちゐにつけて
都こひしも
三尾の海に網を引く民の、暇もなく立ち居るのにつけても、都が恋しいことよ。
発音の読み:みおのうみ / にあみひくたみ / のひまもなく / たちいにつけて / みやここいしも
いそがくれ
同じ心に
たづぞあくあがおもひ出る
人は誰ぞも
磯陰に同じ心で田鶴が鳴く。私を思い出してくれる人は、いったい誰なのだろう。
発音の読み:いそがくれ / おなじこころに / たずぞあく / あがおもいでる / ひとはたれぞも
かき曇り
夕だつ涙
の荒ければうきさたる舟ぞ
去づこゝろあき
空が掻き曇り、夕立の雨(涙)が荒く降るので、憂いを定めた舟は、どこで心が晴れるのだろう。
発音の読み:かきくもり / ゆうだつなみだの / あらければ / うきさたるふねぞ / いずこころあき
知ぬらん
往來にならす
去はつ山世にふる道は
からさ物ぞと
知らないことだろう。往来の人々が踏み慣らすいはつ山よ。世に古びた道は、辛いものだということだ。
発音の読み:しらぬらん / ゆききにならす / いはつやま / せにふるみちは / からさものぞと
老津嶋
去まもる神や
いさびらん涙もさわがは
わらはべの浦
老津島を守る神よ、知るだろうか。涙も騒ぐ、童べの浦よ。
発音の読み:おいづしま / おまもるかみや / いさびらん / なみだもさわがは / わらわべのうら
こゝにかく
日野
の杉村埋む雪をしはの松に
今日やまがへる
ここに、こうして日野の杉群を埋める雪は、小塩の松に今日は紛れるほどであろう。
発音の読み:ここにかく / ひののすぎむら / うずむゆき / おしおのまつに / きょうやまがえる
をしは山松
の上葉
に今日やさはみねのうす雪
花とみゆらん
小塩山の松の上葉に、今日はああ、峰の薄雪が花と見えるだろう。
発音の読み:おしおやま / まつのうわばに / きょうやさわ / みねのうすゆき / はなとみゆらん
故郷
にかへる山路
のそれあらば心やゆくと
ゆきもみてまし
故郷へ帰る山路がもしそれとあるなら、心も行くことだろう。雪も見ていこうと思う。
発音の読み:ふるさとに / かえるやまじの / それあらば / こころやゆくと / ゆきもみてまし
春あれど
去らねのの雪
いや積りとくべき程の
いつとあき哉
春になっても去らない野の雪は、ますます積もる。溶けるはずの時はいつなのか、秋なのか。
発音の読み:はるあれど / さらねののゆき / いやつもり / とくべきほどの / いつとあきかな
水うみに
友よぶ千鳥
ことあらはやすの港を
こめたえあせそ
水海に友を呼ぶ千鳥よ。言うことがあるなら、安の港に込めて絶やしてしまわないでほしい。
発音の読み:みずうみに / ともよぶちどり / ことあらわ / やすのみなとお / こめたえあえそ
四方
の海に鹽燒蟹
の心からやくとにかゝる
あげきをやつむ
四方の海に塩焼く蟹の心から、焼くというのに、かかる揚げ木を積むことよ。
発音の読み:よものうみ / にしおやきがにの / こころから / やくにとにかかる / あげきおやつむ
紅の涙に
いとうとう
まるゝうつるころのいろと
みゆれば
紅の涙にひどく埋もれてしまう。移る頃の色と見えるので。
発音の読み:くれないのなみだに / いとうと / うまるるうつる / ころのいろと / みゆれば
さだたりし
らへの海らひ
解あがらさゐたえぬとや山の
下水
定まりした調べの海は、解け上がりもせず絶えるまいとやら、山の下水のように。
発音の読み:さだたりし / らえのうみらい / とけあがらさい / たえぬとややまの / したみず
こち風に
解るはかりを
底見ゆるいは間の水の
たえは絶なん
東風に解けるばかりに底の見える岩間の水は、絶えれば絶えてしまうだろう。
発音の読み:こちかぜに / とくるばかりお / そこみゆる / いわまのみずの / たえはたえなん
猛
からぬ人かすあみの
海かへり三原の池に
たてどかひあし
猛くない人がかす網の海に帰り、三原の池に立てども、甲斐はあるまい。
発音の読み:たけからぬ / ひとかすあみの / うみかえり / みはらのいけに / たてどかいあし
をりて見
はちかまさり
せよ桃の花思ひぐまなき
櫻をしまに
折って御覧なさい、近くでいっそう勝る桃の花を。思いに曇りのない桜を(見る)間に。
発音の読み:おりてみわ / ちかまさりせよ / もものはな / おもいぐまなき / さくらおしまに
もゝといふ
名もあは
る物を時の間にちる櫻に
も思ひたどさし
桃という名も現れる物を、時の間に散る桜にも思い辿らせることよ。
発音の読み:ももという / なもあわるもの / おときのまに / ちるさくらにも / おもいたどさし
花といは
いづれか匂
あしとみん散紛ふ色の
異あらなくに
花といえば、どちらが匂いよいと見ようか。散り紛う色に違いがないのだから。
発音の読み:はなといわ / いずれかにおい / あしとみん / ちりまがういろの / ことあらなくに
いづ方
の雲路と
さかは尋ねましつら離れけん
雁のゆくへを
どちらの雲路をたどって尋ねればよいのか。群れを離れた雁の行方を。
発音の読み:いずかたの / くもじとさかわ / たずねまし / つらはなれけん / かりのゆくえお
雲の上も
物思ふ春の
霞染にかすむそらさへ
あられあるかあ
雲の上も物思いする春の霞染めに、霞む空さえ霰があるのか。
発音の読み:くものうえも / ものおもうはるの / かすみぞめに / かすむそらさえ / あられあるかあ
何かこの
程あさ袖を
ぬらすらん霞のころも
あへてきる世に
どうしてこの頃、朝の袖を濡らすのだろう。霞の衣をあえて着る世の中で。
発音の読み:なにかこの / ほどあさそでお / ぬらすらん / かすみのころも / あえてきるよに
夕霧
にみし方か
れし鷺の子の跡をみるゝ
まとはるゝかあ
夕霧の中、見た方も離れて、鷺の子の跡(手跡)を見るにつけ、心まとわりつくことよ。
発音の読み:ゆうぎりに / みしかたかれし / さぎのこ / のあとおみるる / まとわるるかあ
ちる花
を數さし
人ゐこのものゝ寂しき事や
かねて去りけん
散る花を数える人のいるこのものの寂しい事は、かねて去ってしまったのだろう。
発音の読み:ちるはなお / かずさしひとい / このものの / さびしきことや / かねてさりけん
あき人に
かひゝとをかけて
煩ふものゝが心の鬼に
やはあらん
秋の人にかひゝとを懸けて悩むその人の、心の鬼であろうか。いや、そうではあるまい。
発音の読み:あきひとに / かいひことおかけて / わずらうもののが / こころのおにに / やはあらん
ことわりや
君が心
の闇あれば鬼のかげとは
去るくみゆらん
ごもっとも。君の心に闇があれば、鬼の影とは消え去るように見えるだろう。
発音の読み:ことわりや / きみがこころの / やみあれば / おにのかげとは / さるくみゆらん
春の夜の
やみの迷に
色あらぬこゝろに花の
香をぞ去めつる
春の夜の闇の迷いに、色のない心に、花の香を染めさせたことよ。
発音の読み:はるのよの / やみのまよいに / いろあらぬ / こころにはなの / かおぞしめつる
さを鹿
の去かあらひせる
萩なれや立寄からに
おのれをれふす
さ牡鹿が行か洗いする萩なのか。立ち寄るからに、身を折れ伏すとは。
発音の読み:さおしかの / いかあらいせる / はぎなれや / たちよるからに / おのれおれふす
みし人の
けふりとありし
夕べより名もむつまじき
鹽竈の浦
かつて見た人が煙となってしまった夕べ以来、名も睦まじく思われる塩竈の浦よ。
発音の読み:みしひとの / けぶりとありし / ゆうべより / なもむつまじき / しおがまのうら
よと共に
あらさ風ふく
西の海も磯べに波は
よせすとやみん
世と共に荒い風の吹く西の海も、磯辺に波は寄せずに止むのだろうか。
発音の読み:よとともに / あらさかぜふく / にしのうみも / いそべになみは / よせずとやみん
かへりては
思ひ去り
ぬや岩かどに浮てより
ける岸のあだ波
帰ってしまえば、思いも去ってしまうのか。岩角に浮いて寄った、岸の徒波のように。
発音の読み:かえりては / おもいさりぬや / いわかどに / うきてよりける / きしのあだなみ
たが里
の春のたより
に鶯のかすみにどつる
やどをとふらん
誰が里の春の便りに、鶯の、霞に問う宿を訪ねるのだろう。
発音の読み:たがさとの / はるのたよりに / うぐいすの / かすみにとつる / やどおとふらん
消ぬ間の身を
は去るゝく
朝顔の露とあらそふ
世を驚くかな
消えゆく定めの身をはかなく、朝顔の露と争う世を、驚くばかりだ。
発音の読み:きえぬまのみお / はさるるく / あさがおの / つゆとあらそう / よおおどろくかな
若竹の
れひゆく末を
いのるかな此よをうしと
いまふ物から
若竹の伸びゆく末を祈ることよ。この世を憂しと言い合うものだから。
発音の読み:わかたけの / のびゆくすえお / いのるかな / このよおうしと / いうものから
數あらぬ
心に身をは
まかせねど身に去たがふは
心ありけり
数ならぬ心に身をば任せねど、身に去り違うのは心であったよ。
発音の読み:かずあらぬ / こころにみおば / まかせねど / みにさりたがうは / こころありけり
心だに
いかある身
にか適ふらん思ひ去れど
も思ひ去られず
心だけでも、どうある身に叶うのだろう。思い去っても、思い去られはしない。
発音の読み:こころだに / いかあるみにか / なうらん / おもいされども / おもいさられず
身のうさは
心のうちに
去たひきて今こゝのへに
思ひ乱るゝ
身の憂さを心のうちに堪え忍んで、今、九重(宮中)に思い乱れる。
発音の読み:みのうさは / こころのうちに / さりたひきて / いまここのえに / おもいみだるる
うきことと
思ひ乱れて
靑柳のいとひさしくも
なりにける哉
憂い事と思い乱れて、青柳の糸も久しくなってしまったことよ。
発音の読み:うきことと / おもいみだれて / あおやぎの / いとひさしくも / なりにけるかな
つれゝゝと
あがき春日
は靑柳のいとゝ憂世
に乱れてぞふる
つれづれと足掻く春の日は、青柳の糸も、憂き世に乱れて降るようだ。
発音の読み:つれづれと / あがきはるひは / あおやぎの / いとどうきよに / みだれてぞふる
わりなしや
人こそ人と
いはざらめみづから身をや
思ひ捨べき
道理がないよ。人は人と言わないとしても、自分で我が身を思い捨ててよいものか。
発音の読み:わりなしや / ひとこそひとと / いわざらめ / みずからみおや / おもいすつべき
忍びつる
袖ぞ現るゝ
菖蒲草いはぬにくちて
やみぬべけれは
忍んできた袖が現れる。菖蒲草は、言わないうちに朽ちて止んでしまうだろうから。
発音の読み:しのびつる / そでぞあらわるる / あやめぐさ / いわぬにくちて / やみぬべければ
けふはかく
ひきける物を
菖蒲草我みがくれに
ぬれ渡りつる
今日はこうして引きかけた物を、菖蒲草よ、我が身の隠れに濡れ渡ってきたよ。
発音の読み:きょうはかく / ひきけるものお / あやめぐさ / われみがくれに / ぬれわたりつる
妙なり
や今日は
五月の五日とて五つのなきに
あへる御法も
妙なることよ。今日は五月の五日といって、五つの名に会えた御法も。
発音の読み:たえなりや / きょうはごがつの / いつかとて / いつつのなきに / あえるみほふも
かゝり火
の影も
さわがね池水に幾千代すまん
法のひかりぞ
篝火の影も騒がない池の水に、幾千代も澄むであろう、法の光であることよ。
発音の読み:かがりびの / かげもさわがね / いけみずに / いくちよすまん / のりのひかりぞ
澄る池の
底までてらす
籬火のまがゆきまでも
らさ我身かあ
澄んだ池の底まで照らす籬の火の眩しさまでも、漏らす我が身であることよ。
発音の読み:すめるいけの / そこまでてらす / まがきびの / まがゆきまでも / らさわがみかあ
影みて
もうさきわが
涙落そひてかどとがまし
き瀧のおとかな
影を見ても憂い我が涙が落ち添って、角咎しい瀧の音であることよ。
発音の読み:かげみても / うさきわがなみ / だおちそいて / かどとがましき / たきのおとかな
獨ゐて
涙ぐみける水
のおもにうきそはるらん
影やいづれと
独りいて涙ぐんでいた水の面に、浮き草は晴れるだろう。その影はどれと(言うのか)。
発音の読み:ひとりいて / なみだぐみける / みずのおもに / うきそはるらん / かげやいずれと
あべて世の
うきに流るゝ
菖蒲草けふ迄かゝる
ねはいかいみる
あべて世の憂きに流れる菖蒲草よ。今日までこうして根這い、甲斐を見る。
発音の読み:あべてよの / うきにながるる / あやめぐさ / きょうまでかかる / ねはいいかいみる
何事と
あやめはわかで
今日も猶袂にあまる
ねこそたえせね
何事と、菖蒲は分からないまま、今日もなお、袂に余る根こそ絶えないでほしい。
発音の読み:なにごとと / あやめはわかで / きょうもなお / たもとにあまる / ねこそたえせね
天の戸の
月の通路
さゝねどもいかなる方に
たゝくくひなど
天の戸の、月の通い路は差さないけれど、どちらの方に叩く、水鷄なのかと。
発音の読み:あまのとの / つきのかよいじ / ささねども / いかなるかたに / たたくくひなど
帳の戸も
さゝでやすらふ
月影に何をわかすと
たゝく水鷄ぞ
帳の戸も差さずに休らう月影に、何を分かそうとして叩く水鷄なのだろう。
発音の読み:とばりのとも / ささでやすろう / つきかげに / なにおわかすと / たたくくひなぞ
よもすがら
水鷄よりけに
あくゝくぞ帳の戸口に
叩き侘つる
夜もすがら、水鷄よりいっそう鳴き明かしたことよ。帳の戸口に叩き侘びたのだ。
発音の読み:よもすがら / くひなよりけに / あくあくぞ / とばりのとぐちに / たたきわびつる
たいあらじ
と斗叩く
水鷄ゆゑ明けてはいかに
悔しからまし
堪えきれないとばかりに叩く水鷄ゆえ、明けてはどれほど悔しいだろう。
発音の読み:たいあらじ / とばかりたたく / くひなゆえ / あけてはいかに / くやしからまし
女郎花
さかりの色を
みるからに露のわきける
身社去らるれ
女郎花の盛りの色を見るにつけ、露に分けた身こそ、さぞ心動かされることよ。
発音の読み:おみなえし / さかりのいろお / みるからに / つゆのわきける / みこそさわるれ
白露
はヱさても
おかじ女郎花てゝろからに
や色のそむらん
白露は、酔わせても置いてはおかないだろう。女郎花は、ててろからにや、色が染まるのだろう。
発音の読み:しらつゆは / えさてもおかじ / おみなえし / ててろからにや / いろのそむらん
忘るゝ
は憂世の
常と思ふにも身をやるかたの
あきぞ侘しき
忘れるのは憂き世の常と思うにも、身を置く方の秋(飽き)が侘しい。
発音の読み:わするるは / うきよのつねと / おもうにも / みおやるかたの / あきぞわびしき
たがさとも
とひもやくるど
郭公心のかぎり
まちどわびにし
誰が里にも、訪ねては来るだろうか、郭公よ。心の限りに待ち侘びたことだ。
発音の読み:たがさとも / といもやくるど / ほととぎす / こころのかぎり / まちどわびにし
ましも猶
遠方人の
跡かはせわれこしわぶる
たこのよびざか
猿でさえも、遠くからの人の跡をたどる。この来るに侘びた逢坂を。
発音の読み:ましもなお / おちかたびとの / あとかわせ / われこしわぶる / たこのよびざか
名に高き
こしの白山
ゆきあれて伊吹の嶽を
あにとこそみね
名に高い越の白山の雪の荒れように、伊吹の嶽を兄と見立てる。
発音の読み:なにたかき / こしのしらやま / ゆきあれて / いぶきのたけお / あにとこそみね
心あてに
あかたじけな
苔むせる佛の御顔
そとはみえねど
心当てに、ああ有り難いことよ。苔むした仏の御顔は、外には見えないけれど。
発音の読み:こころあてに / あかたじけな / こけむせる / ほとけのみかお / そとはみえねど
けおかくて
誰も心
はみえにけん言葉隔てぬ
ちぎりともがあ
今日こうして書くにも、誰の心も見えないだろう。言葉を隔てない契りだというのに。
発音の読み:けふかくて / たれもこころは / みえにけん / ことばへだてぬ / ちぎりともがあ
へたてじと
あらひしはどに
夏衣うらすき心を
まづ去られぬる
隔てまいと洗ったほどに、夏衣の裏透く心を、まず去られてしまった。
発音の読み:へたてじと / あらいしほどに / なつごろも / うらすきこころお / まずさられぬる
額さむみ
岩間こはれる
谷水のゆくすゑしもぞ
深くあるらん
額の寒さに、岩間を壊れる谷水の、行く末こそ深くあるのだろう。
発音の読み:ひたいさむみ / いわまこわれる / たにみずの / ゆくすえしもぞ / ふかくあるらん
珍しき
光さしそふ
さかづきはもちあがら社
千代はめぐらめ
珍しい光が差し添う盃を、持ち上がらこそ、千代も巡らめ。
発音の読み:めずらしき / ひかりさしそう / さかづきは / もちあがらこそ / ちよはめぐらめ
くもりなく
千歳
にすめる水の面に宿れる月
の影ものどけし
曇りなく千歳に澄める水の面に、宿る月の影も、のどかなことよ。
発音の読み:くもりなく / ちとせにすめる / みずのおもに / やどれるつきの / かげものどけし
いかにいかゝ
數へやるべき
八千歳のあまり久しき
君が御代をは
どう数えやるべきでしょう。八千歳のあまりにも久しい、君の御代を。
発音の読み:いかにいかが / かぞえやるべき / やちとせの / あまりひさしき / きみがみよおば
おしたづの
齢しあれば
君が代の千歳のかず
も數へどりてむ
鴛鴦と鶴の齢があるので、君の御代の千歳の数も、数え取ることができるでしょう。
発音の読み:おしたずの / よわいしあれば / きみがよの / ちとせのかずも / かぞえどりてむ
折々に
かくどは見えて
さゝがにのいかに思へは
絶るある覧
折々に、かく門は見えて、ささがにの、どう思えば絶えてしまうというのか。
発音の読み:おりおりに / かくどはみえて / ささがにの / いかにおもえば / たゆるあるらん
霜枯の
淺茅に紛ふ
さゝがにのいかなるをりに
かくと見ゆらん
霜枯れの浅茅に紛れるささがにの、どの折に、こうと見えるのだろう。
発音の読み:しもがれの / あさじにまがう / ささがにの / いかなるおりに / かくとみゆらん
いる方に
さやかありける
月影をうはの空にも
待し夜半かあ
入る方に明らかであった月影を、上(うわ)の空にも待った夜半のことよ。
発音の読み:いるかたに / さやかありける / つきかげお / うわのそらにも / まちしよわかあ
さして行く
山の端も皆
かきくもり心のそらに
さえし月かげ
差して行く山の端も皆曇り、心の空に冴えた月影よ。
発音の読み:さしてゆく / やまのはもみな / かきくもり / こころのそらに / さえしつきかげ
おやかたの
秋の哀を
思ひやれ月にこゝろは
あくがれぬとも
親方の秋の哀れを思いやれ。月に心はあくがれなくとも。
発音の読み:おやかたの / あきのあわれお / おもいやれ / つきにこころは / あくがれぬとも
垣根はれ
爽しさまさる
床夏に露かきそはん
わきまでも見じ
垣根晴れ、涼しさ勝る床の夏に、露を掻き添えん、脇までも見ないでおこう。
発音の読み:かきねはれ / すずしさまさる / とこなつに / つゆかきそわん / わきまでもみじ
花薄
葉分の露や
あにゝかくかれゆく野遊に
さえとまるらん
花薄の葉分の露よ、ああ、こうして枯れゆく野遊びにさえ、留まるのだろう。
発音の読み:はなすすき / はちのつゆや / あにいかく / かれゆくのあそびに / さえとまるらん
世にふるに
あざかひ沼の
いけらじと思ひぞ沈む
底は去らねど
世に経るにつけ、浅香沼に生けてはいられまいと思い沈む。底は去らないけれど。
発音の読み:よにふるに / あざかいぬまの / いけらじと / おもいぞしずむ / そこはさらねど
心ゆく
水の景色は
今日ぞみるこや世にへつる
かひ沼のいけ
心ゆく水の景色は、今日ぞ見る。今夜、世に経つる、かひ沼の池よ。
発音の読み:こころゆく / みずのけしきは / きょうぞみる / こやよにへつる / かいぬまのいけ
多かりし
とよの宮人
さしわきて去るきひかげを
哀とぞみし
多かった豊の宮人は、指し分けて、去る君の影を哀れと見た。
発音の読み:おおかりし / とよのみやびと / さしわきて / さるきひかげお / あわれとぞみし
三笠山
同じふもとを
さしわきて霞にたにの
へだてつるかな
三笠山、同じ麓を指し分けて、霞に谷を隔ててしまったな。
発音の読み:みかさやま / おなじふもとお / さしわきて / かすみにたにの / へだてつるかな
さしてみて
いることかたみ
三笠山霞ふきとく
風をこそまて
指して見ている事こそ形見。三笠山の霞を吹き解く風をこそ待て。
発音の読み:さしてみて / いることかたみ / みかさやま / かすみふきとく / かぜおこそまて
埋木の
下にやつるゝ
梅の花香をだにちらせ
くものうへまで
埋もれ木の下に痩せる梅の花よ。香をだけでも散らせ、雲の上まで。
発音の読み:うもれぎの / したにやつるる / うめのはな / かおだにちらせ / くものうえまで
九重は
匂ふを見れば
櫻がりかさねてきたる
はるのさかりか
九重の匂うのを見れば、桜狩りが重なって来た、春の盛りか。
発音の読み:ここのえは / におうおみれば / さくらがり / かさねてきたる / はるのさかりか
神代
にはありもや
しけん山櫻けふのかざしに
折れるためしは
神代にも、あっただろうか。山桜を今日の簪に折った例は。
発音の読み:かみよには / ありもやしけん / やまざくら / きょうのかざしに / おれるためしは
改めて
けふしも物
の悲しきは身のうさやまたさき
變りぬる
改めて、今日しも物の悲しいのは、身の憂さがまた、先に変わってしまったからか。
発音の読み:あらためて / きょうしもものの / かなしきは / みのうさやまた / さきかわりぬる
珍らしど
君し思は
いきてみえんすれる衣の
はどすぎぬども
珍しいことと君が思えば、生きて見えるだろう。擦れる衣の端は過ぎないけれど。
発音の読み:めずらしと / きみしおもわ / いきてみえん / すれるころもの / はどすぎぬども
さらば君
やさぬの
衣すぎぬども戀しき程に
きてもみえあん
ならば君、痩せない衣は過ぎないけれど、恋しいほどに、着ても見えるだろう。
発音の読み:さらばきみ / やさぬのころも / すぎぬども / こいしきほどに / きてもみえなん
うち忍び
數き明せば
去のゝめのはがらかにだに
夢をみぬ哉
ひそかに数え明かせば、猪の目の、朗らかにだけでも、夢を見ないことよ。
発音の読み:うちしのび / あらきあかせば / いののめの / はがらかにだに / ゆめおみぬかな
去のゝめの
空霧わたり
いつしかに秋の景色に
世は成にけり
猪の目の空に霧が渡り、いつしか、秋の景色に世はなってしまった。
発音の読み:いののめの / そらきりわたり / いつしかに / あきのけしきに / よはなりにけり
大方を
思へばゆかし
天の河今日のおふせは
うららやまれたり
大方を思えば行かしい。天の川よ、今日の逢う瀬は、うららかに生まれたよ。
発音の読み:おおかたお / おもえばゆかし / あまのがわ / きょうのおうせは / うららやまれたり
天の河
おふ瀬はよその
くも井にて絶ぬ契し
世々におせずは
天の川の逢う瀬は、よその雲井で、絶えない契りを世々に負わなければ。
発音の読み:あまのがわ / おうせはよその / くもいにて / たえぬちぎりし / よよにおせずば
なはざりの
便にとゐん
人毎に打とけてしも
みえじどぞ思ふ
名技の便りに問う人ごとに、打ち解けては見せまいと思う。
発音の読み:なわざりの / たよりにといん / ひとごとに / うちとけてしも / みえじとぞおもう
よとめをも
夢といひし
か誰あれや秋の月にも
いかでかはみし
夜止めをも夢と言ったか。誰あれ、秋の月にさえ、どうして変わって見ようか。
発音の読み:よとめおも / ゆめといいしか / たれあれや / あきのつきにも / いかでかわみし
菊の露
わかゆはかりに
袖ふれて花の主人に
千代はゆづらん
菊の露、若湯ばかりに袖を触れて、花の主人に千代は譲ろう。
発音の読み:きくのつゆ / わかゆばかりに / そでふれて / はなのあるじに / ちよはゆずらん
雲間あく
詠むる空を
かきくらしいかに忍ぶる
時雨あるらん
雲間が明く、眺める空を掻き曇らし、どう堪えるのだろう、時雨のある頃は。
発音の読み:くもまあく / ながむるそらお / かきくらし / いかにしのぶる / しぐれあるらん
こどわりの
時雨
の空は雲間あれど詠むる袖ぞ
乾く世もあき
理の時雨の空は雲間があっても、眺める袖は乾く世もない。
発音の読み:ことわりの / しぐれのそらは / くもまあれど / ながむるそでぞ / かわくよもあき
浮寐せし
水の上
のみ戀しくて鴫のうはげに
さえぞれとらぬ
浮き寝した水の上ばかりが恋しくて、鴫の上毛にさえ、ぞ獲られない。
発音の読み:うきねせし / みずのうえのみ / こいしくて / しぎのうわげに / さえぞれとらぬ
打拂ふ
友あき頃の
ねざめにはつがひし鷺ぞ
夜半にこひしき
打ち払う友なき頃の寝覚めには、番(つが)いした鷺が夜半に恋しい。
発音の読み:うちはらう / ともなきころの / ねざめには / つがいしさぎぞ / よわにこいしき
なにはかり
心づくし
にあがめぬとみしにくれぬ
る秋の月哉
何ばかり心尽くしに崇めないと思ったのに、見ているうちに暮れてしまった、秋の月よ。
発音の読み:なにばかり / こころづくしに / あがめぬと / みしにくれぬる / あきのつきかな
たづさあき
旅の空ある
すまひをば雨もよに問ふ
人もあらじあ
たづさ秋、旅の空ある相撲を、雨も世に問う人も、ないだろう。
発音の読み:たづさあき / たびのそらある / すまいおば / あめもよにとう / ひともあらじあ
いどむ人
あまた聞ゆる
百敷のすまひらしどは
思ひ去るやは
挑む人が多く聞こえる百敷(宮中)の、相撲らしいとは、思い去るだろうか。
発音の読み:いどむひと / あまたきこゆる / ももしきの / すまいらしとは / おもいさるやは
戀わびて
ありふる程
の初雪は消ぬるかどぞ
うたがはれぬる
恋い侘びて、あり古るほどの初雪は、消えないかと疑われる。
発音の読み:こいわびて / ありふるほどの / はつゆきは / きえぬるかとぞ / うたがわれぬる
降れはかく
らさのみまさる
世を去らで荒たる庭に
積る初雪
降れば、このようにうら寂しさばかりが勝る。世を去らず、荒れた庭に積もる初雪よ。
発音の読み:ふればかく / うらさのみまさる / よおさらで / あれたるにわに / つもるはつゆき
暮ぬ
間の身をば
思はで人のよの哀を去るど
かつはかあしき
暮れない間の身を思わず、人の世の哀れを去ることと、かつは悲しい。
発音の読み:くれぬまの / みおばおもわで / ひとのよの / あわれおさると / かつはかなしき
誰か世に
長らへてみん
かきどめし跡は消せぬ
形見あれども
誰が世に長らえて見ようか。書き留めた跡は消せない形見があるけれど。
発音の読み:たれかよに / ながらえてみん / かきとめし / あとはけせぬ / かたみあれども
あき人
を忍ぶる事
もいつまでど今日の哀は
あすのわが身を
あき人を忍ぶことも、いつまでと思っていた。今日の哀れは、明日のわが身を(思わせる)。
発音の読み:あきひとお / しのぶることも / いつまでと / きょうのあわれは / あすのわがみお