ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

更級日記 / 第11場面

夢の世・晩年の交わり

あらすじ・人物・読み方

越前守の嫁との文通、太秦に籠って宮の友と荒磯の歌を贈答する。筑前へ下る友への夢の歌、和泉への旅と住吉の浦。

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更級日記・第11場面0 / 21
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何事も心に適わない事もないままに、このように立ち離れた物語をしても、道の程を趣深いとも苦しいとも見るのに、自ずから心も慰め、それでも頼もなしに、差し当たりて嘆かしいなど思われる事どもないままに、ただ幼い人々をいつか思う様にし立てて見ようと思うのに、年月が過ぎ行くのを心もとなく、頼む人でさえ人の様な喜びをしてくれればとばかり思い渡る心地、頼もしい。

昔ひどく語らい、夜昼歌などを詠み交わした人が、ありありしても、ひどく昔の様ではないので、絶えず言い渡るが、越前守の嫁として下ったのが、書き絶え音もしないのに、ようやく便りを尋ねて、これより、絶えなかった思いも今は絶えてしまった、越の辺りの雪の深さに。と言った返事に、白山の雪の下なる細れ石の中の思いは、消えるものだろうか。

弥生の朔日頃に、西山の奥である所へ行ったところ、人の目も見えず、のどかに霞み渡ったのに、しみじみ心細く、花ばかり咲き乱れていた。里が遠く、あまり奥である山路には、花見にでも人は来なかった。

世の中が鬱陶しく思われる頃、太秦に籠ったところ、宮に語らい聞こえる人の御許から文がある、返事聞こえる程に、鐘の音が聞こえると、繁かった浮世の事も忘れられず、入相の鐘の心細さに。と書いてやった。

うらうらとのどやかな宮で、同じ心の人三人ばかり物語などして、退出して、またの日、徒然なままに、恋しく思い出されるので、二人の中に、袖の濡れる荒磯の波と知りながら、共に潜きをしたのが恋しい。と聞こえさせたところ、荒磯は浅れど何の甲斐もなくて、潮に濡れる海人の袖かな。今一人が、見る目が生える浦でなければ、荒磯の浪間を数える海人もいないだろうに。

同じ心にこの様に言い交わし、世の中の憂きも辛きも趣深きも互いに言い語らう人が、筑前に下った後、月がひどく明るいのに、この様だった夜、宮に参って会っては、露ほどもまどろまず眺め明かし合ったものを、恋しく思いながら寝入ってしまった。宮に参り会って、現実にあった様にあると見て、驚いたところ、夢だった。月も山の端に近くなっていた。

覚めなかったらよかったのにと、ますます眺められて、夢が覚めて寝覚めの床が浮くほど恋しいと告げよ、西へ行く月よ。

然るべき様があって、秋頃和泉に下るのに、淀という所から、道の程の趣深く哀れな事、言い尽くせるはずもない。高浜という所に留まった夜、ひどく暗いのに、夜がひどく更けて、舟の梶の音が聞こえる。尋ねると、遊びの来たのだった。人々興じて、舟に差し付けさせた。遠い火の光に、単衣の袖を長やかに、扇を差し隠して、歌を歌っているのが、ひどくしみじみ見える。

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底本:『新註更級日記』吉川秀雄著(精文館書店、大正15年[1926])。本文画像:所蔵機関の公開資料。

大正15年(1926)吉川秀雄著『新註更級日記』(精文館書店)の本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像と照合した独自編集本文です。底本の字句を残し、頭註は転写していません。発音の読みと独自訳を添えています。