朽ちもせぬ
この川ばしら
残らずば昔のあとを
いかで知らまし
朽ちもしないこの川柱が残らなかったら、昔の跡をどうして知ることができようか。
発音の読み:くちもせぬ / このかわばしら / のこらずば / むかしのあとを / いかでしらまし
朽ちもせぬ
この川ばしら
残らずば昔のあとを
いかで知らまし
朽ちもしないこの川柱が残らなかったら、昔の跡をどうして知ることができようか。
発音の読み:くちもせぬ / このかわばしら / のこらずば / むかしのあとを / いかでしらまし
まどろまじ
今宵ならでは
いつか見むくろとの濱の
秋の月
眠るまい、今宵でなければいつ見ることができよう、くろとの浜の秋の月を。
発音の読み:まどろまじ / こよいならでは / いつかみむ / くろとのはまの / あきのつき
嵐こそ
吹きこざりけれ
宮路山まだもみぢばの
散らで殘れる
嵐が吹いて来なかったからだなあ、宮路山は、まだ紅葉が散らずに残っている。
発音の読み:あらしこそ / ふきこざりけれ / みやじやま / まだもみぢばの / ちらでのこれる
たのめしを
なほや待つべき
霜枯れし梅をも春は
忘れざりけり
頼みにしたのを、なお待つべきだろうか、霜に枯れた梅をも春は忘れなかったことだ。
発音の読み:たのめしを / なおやまつべき / しもがれし / うめをもはるは / わすれざりけり
なほたのめ
梅のたちえは
契りおかぬ思の外の
人もとふなり
なお頼みにしなさい、梅の立枝は約束を置かないけれど、思いの外の人も訪れるということです。
発音の読み:なおたのめ / うめのたちえは / ちぎりおかぬ / おもいのほかの / ひともとうなり
散る花も
又來む春は
見もやせむやがてわかれし
人ぞこひしき
散る花もまた来る春は見ることもあろう、すぐに別れた人が恋しい。
発音の読み:ちるはなも / またこんはるは / みもやせん / やがてわかれし / ひとぞこいしき
鳥邊山
谷にけぶりの
もえたたばはかなく見えし
我と知らなむ
鳥辺山の、谷に煙の燃え立ったら、はかなく見えた私だと思いなさい。
発音の読み:とりべやま / たににけぶりの / もえたたば / はかなくみえし / われとしらなん
藤原行成の女(姫君) から 藤原行成の女(姫君) へ
時ならず
ふる雪かとぞ
ながめまし花たちばなの
かをらざりせば
時ならず降る雪かと眺めただろう、花橘が香らなかったら。
発音の読み:ときならず / ふるゆきかとぞ / ながめまし / はなたちばなの / かおらざりせば
おかざりし
宿の櫻を
春くれて散りがたにしも
一目見しかな
置いて飾った宿の桜を、春が暮れて、散り難くしているのを一目見たことだ。
発音の読み:おかざりし / やどのさくらを / はるくれて / ちりがたにしも / ひとめみしかな
ちぎりけむ
昔の今日の
ゆかしさにあまの川波
うちいでつるかな
約束したという昔の今日の懐かしさに、天の川の波に漕ぎ出してしまったことだ。
発音の読み:ちぎりけん / むかしのきょうの / ゆかしさに / あまのかわなみ / うちいでつるかな
たちいづる
あまの川邊の
ゆかしさにつねはゆゆしき
こともわづれぬ
立ち出る天の川辺の懐かしさに、いつもは忌まわしいことも忘れてしまう。
発音の読み:たちいづる / あまのかわべの / ゆかしさに / つねはゆゆしき / こともわすれぬ
笛の音の
ただ秋風と
聞ゆるになど萩の葉の
そよとこたへぬ
笛の音がただ秋風と聞こえるのに、どうして萩の葉がそよとも答えないのだろう。
発音の読み:ふえのおとの / ただあきかぜと / きこゆるに / などはぎのはの / そよとこたえぬ
萩の葉の
答ふるまでも
吹きよらでただに過ぎぬる
笛の音ぞうき
萩の葉が答えるまでも吹き寄らずに、ただ過ぎてしまった笛の音が恨めしい。
発音の読み:はぎのはの / こたうるまでも / ふきよらで / ただにすぎぬる / ふえのねぞうき
にほひ來る
隣の風を
身にしめてありし軒ばの
梅ぞ戀ひしき
匂って来る隣の風を身に染み込ませて、かつてあった軒端の梅が恋しい。
発音の読み:においくる / となりのかぜを / みにしめて / ありしのきばの / うめぞこいしき
うづもれぬ
かばねを何に
たづねけむこけのしたには
身こそなりけれ
埋もれない骸を何のために尋ねたのだろう、苔の下には身があったのだ。
発音の読み:うずもれぬ / かばねをなにに / たずねけん / こけのしたには / みこそなりけれ
ふるさとに
かくこそ人は
かへりけれあはれいかなる
わかれなりけむ
故郷にこうこそ人は帰ったのだ、ああどんな別れであったろう。
発音の読み:ふるさとに / かくこそひとは / かえりけれ / あわれいかなる / わかれなりけん
かき流す
あとはつららに
とぢてけりなにを忘れぬ
かたみとか見む
書き流す跡は氷柱に閉じてしまった、何を忘れない形見と見るのだろう。
発音の読み:かきながす / あとはつららに / とぢてけり / なにをわすれぬ / かたみとかみん
慰むる
かたもなぎさの
濱千鳥なにかうき世に
あともとどめむ
慰める方法もない渚の浜千鳥が、どうして憂き世に跡を留めようか。
発音の読み:なぐさむる / かたもなぎさの / はまちどり / なにかうきよに / あともとどめん
のぼりけむ
野邊は煙も
なかりけむいづこをはかと
たづねてか見し
上っただろう野辺は煙もなかっただろう、どこを墓と尋ねて見たのだろう。
発音の読み:のぼりけん / のべはけむりも / なかりけん / いずこをはかと / たずねてかみし
そこはかと
知りて行かねど
先に立つなみだぞ道の
しるべなりける
そこだと知って行かないけれど、先に立つ涙が道の道標であったのだ。
発音の読み:そこはかと / しりてゆかねど / さきにたつ / なみだぞみちの / しるべなりける
住みなれぬ
野邊のささはら
跡はかもなくなくいかに
たづねわびけむ
住み慣れない野辺の笹原に跡頼りもなく、泣く泣くどう尋ね悩んだことだろう。
発音の読み:すみなれぬ / のべのささはら / あとはかも / なくなくいかに / たずねわびけん
見しままに
もえし煙は
つきにしをいかがたづねし
野邊のささはら
見たままに燃えた煙は尽きてしまったのに、どう尋ねたのか、野辺の笹原を。
発音の読み:みしままに / もえしけむりは / つきにしを / いかがたずねし / のべのささはら
雪降りて
まれの人目も
絶えぬらむよし野の山の
峯のかけみち
雪が降って稀な人目も絶えてしまうだろう、吉野の山の峯の懸け道は。
発音の読み:ゆきふりて / まれのひとめも / たえぬらん / よしののやまの / みねのかけみち
あくる待つ
鐘の聲にも
夢さめて秋のももよの
こちせしかな
夜の明けるのを待つ鐘の声にも夢が覚めて、秋の百夜の心地がしたことだ。
発音の読み:あくるまつ / かねのこえにも / ゆめさめて / あきのももよの / こちせしかな
おく山の
石間の水を
むすびあげてあかぬものとは
今のみや知る
奥山の石の間の水を掬い上げて、飽きないものとは今こそ知る。
発音の読み:おくやまの / いわまのみずを / むすびあげて / あかぬものとは / いまのみやしる
山の井の
しづくに濁る
水よりもこはなほあかぬ
こちこそすれ
山の井の雫に濁る水よりも、これはなお飽きない心地がする。
発音の読み:やまのいの / しずくににごる / みずよりも / こはなおあかぬ / こちこそすれ
山のはに
入日の影は
入りはてて心ぼそくぞ
ながめやられし
山の端に入り日の影は入り果てて、心細く眺めやられる。
発音の読み:やまのはに / いりひのかげは / いりはてて / こころぼそくぞ / ながめやられし
都には
待つらむものを
ほととぎすけふ日ねもすに
鳴き暮すかな
都では待っているだろうものを、時鳥よ、今日一日中鳴き暮らすことだ。
発音の読み:みやこには / まつらんものを / ほととぎす / きょうひねもすに / なきくらすかな
山深く
誰か思ひは
おこすべーし月見る人は
多からめども
山深く誰が思いを起こすだろう、月を見る人は多いだろうけれど。
発音の読み:やまふかく / たれかおもいは / おこすべし / つきみるひとは / おおからめども
深き夜に
月見るをりは
知らねどもまづ山里ぞ
思ひやらるる
深い夜に月を見る折は、知らないけれど、まず山里が思いやられる。
発音の読み:ふかきよに / つきみるおりは / しらねども / まずやまざとぞ / おもいやらるる
秋の夜の
妻こひかぬる
鹿の音は遠山にこそ
聞くべかりけれ
秋の夜の妻を恋い慕う鹿の音は、遠山でこそ聞くべきであった。
発音の読み:あきのよの / つまこいかぬる / しかのねは / とおやまにこそ / きくべかりけれ
まだ人め
知らぬ山邊の
松風も音してかへる
ものとこそ聞け
まだ人目に知られない山辺の松風も、音を立てて帰るものと聞きなさい。
発音の読み:まだひとめ / しらぬやまべの / まつかぜも / おとしてかえる / ものとこそきけ
思ひ知る
人に見せばや
山里の秋の夜ふかき
有明の月
思い知る人に見せたい、山里の秋の夜深い有明の月を。
発音の読み:おもいしる / ひとにみせばや / やまざとの / あきのよふかき / ありあけのつき
苗代の
水かげばかり
見えし田の刈りはつるまで
長居しにけり
苗代の水影ばかり見えた田の、刈り終えるまで長居してしまった。
発音の読み:なわしろの / みずかげばかり / みえしだの / かりはつるまで / ながいしにけり
水さへぞ
すみたえにける
木の葉散るあらしの山の
心細さに
水さえも澄み絶えてしまった、木の葉が散る嵐の山の心細さに。
発音の読み:みずさえぞ / すみたえにける / このはちる / あらしのやまの / こころぼそさに
いづことも
露のあはれは
わかれじをあさぢが原の
秋ぞ戀ひしき
どこでも露の哀れは別れることはないのに、浅茅が原の秋が恋しい。
発音の読み:いずことも / つゆのあわれは / わかれじを / あさぢがはらの / あきぞこいしき
あさくらや
今はくもゐに
聞くものをなほ木のまろが
名のりをやする
朝倉よ、今は雲居に聞くものを、なお木の丸が名乗りをするのか。
発音の読み:あさくらや / いまはくもいに / きくものを / なおきのまろが / なのりをやする
おもふこと
心にかなふ
身なりせば秋のわかれを
ふかく知らまし
思うことが心に適う身であったなら、秋の別れを深く知ったろう。
発音の読み:おもうこと / こころにかなう / みなりせば / あきのわかれを / ふかくしらまし
秋をいかに
思ひ出づらむ
冬深み嵐にまどふ
荻の枯葉は
秋をどう思い出すだろう、冬が深まり嵐に惑う荻の枯葉は。
発音の読み:あきをいかに / おもいいづらん / ふゆふかみ / あらしにまどう / おぎのかれはは
とどめおきて
我がごと物や
思ひけむ見るに悲しき
子しのびの森
留め置いて私のように物を思っただろう、見るに悲しい子忍びの森よ。
発音の読み:とどめおきて / わがごとものや / おもいけん / みるにかなしき / こしのびのもり
こしのびを
聞くにつけても
とどめおきしちちぶの山の
つらきあづまぢ
子忍びを聞くにつけても、留め置いた秩父の山のつらい東路よ。
発音の読み:こしのびを / きくにつけても / とどめおきし / ちちぶのやまの / つらきあずまぢ
涙さへ
ふりはへつつぞ
思ひやるあらし吹くらむ
冬の山里
涙まで降り添いつつ思いやる、嵐が吹いているだろう冬の山里を。
発音の読み:なみださえ / ふりはえつつぞ / おもいやる / あらしふくらん / ふゆのやまざと
わけて問ふ
心のほどの
見ゆるかな木かげをぐらき
夏のしげりを
分けて尋ねる心の程が見えることだ、木陰が暗い夏の茂りを。
発音の読み:わけてとう / こころのほどの / みゆるかな / こかげおぐらき / なつのしげりを
かかる世も
ありけるものを
かぎりとて君に別れし
秋はいかにぞ
こんな世もあったものを、最後とあなたに別れた秋はどうだったか。
発音の読み:かかるよも / ありけるものを / かぎりとて / きみにわかれし / あきはいかにぞ
思ふこと
かなはずなどと
いとひこしいのちのほども
今ぞうれしき
思うことが適わないなどと厭い続けた命の程も、今は嬉しい。
発音の読み:おもうこと / かなわずなどと / いといこし / いのちのほども / いまぞうれしき
思ひ出でて
人こそ問はね
山里のまがきの荻に
秋風は吹く
思い出して人こそ尋ねない、山里の籬の荻に秋風は吹く。
発音の読み:おもいでて / ひとこそとわね / やまざとの / まがきのおぎに / あきかぜはふく
天の戸を
雲ゐながらも
よそに見てむかしのあとを
戀ふる月かな
天の戸を雲居ながらもよそに見て、昔の跡を恋う月であるよ。
発音の読み:あまのとを / くもいながらも / よそにみて / むかしのあとを / こうるつきかな
月もなく
花も見ざりし
冬の夜の心にしみて
戀ひしきやなぞ
月もなく花も見なかった冬の夜の、心に染みて恋しいのはなぜか。
発音の読み:つきもなく / はなもみざりし / ふゆのよの / こころにしみて / こいしきやなぞ
さえし夜の
氷は袖に
まだとけて冬の夜ながら
音をこそは泣け
冴えた夜の氷は袖にまだ解けて、冬の夜ながら音を立てて泣け。
発音の読み:さえしよの / こおりはそでに / まだとけて / ふゆのよながら / ねをこそなけ
わがごとぞ
水のうきねに
あかしつつうは毛の霜を
はらひわぶなる
私のようだ、水に浮き寝して明かしながら、上の毛の霜を払いかねている。
発音の読み:わがごとぞ / みずのうきねに / あかしつつ / うわげのしもを / はらいわぶなる
まして思へ
水のかりねの
ほどだにぞうは毛の霜を
はらひわびける
まして思え、水に仮寝する程でさえ、上の毛の霜を払いかねた。
発音の読み:ましておもえ / みずのかりねの / ほどだにぞ / うわげのしもを / はらいわびける
冬枯の
しののをすすき
袖たゆみまねきもよせじ
風にまかせむ
冬枯れの篠の薄、袖がだるく、招きも寄せまい、風に任せよう。
発音の読み:ふゆがれの / しののをすすき / そでたゆみ / まねきもよせじ / かぜにまかせん
あさ綠
花もひとつに
かすみつつおぼろに見ゆる
春の夜の月
浅緑、花も一つに霞みながら、朧に見える春の夜の月。
発音の読み:あさみどり / はなもひとつに / かすみつつ / おぼろにみゆる / はるのよのつき
秋に心を寄せたる女房 から 秋に心を寄せたる女房 へ
人は皆
春に心を
よせつめり我のみや見む
秋の夜の月
人は皆春に心を寄せてしまった、私だけが見るだろうか、秋の夜の月を。
発音の読み:ひとはみな / はるにこころを / よせつめり / われのみやみん / あきのよのつき
かしまみて
なるとの浦に
こがれいづる心は得きや
いそのあまびと
鹿島見て、鳴門の浦に漕ぎ出る心は得たか、磯の海人よ。
発音の読み:かしまみて / なるとのうらに / こがれいづる / こころはえきや / いそのあまびと
音にのみ
聞きわたりこし
宇治川のあじろの浪も
今日ぞかぞふる
音にだけ聞き渡ってきた宇治川の網代の波も、今日こそ数え尽くす。
発音の読み:おとにのみ / ききわたりこし / うぢがわの / あじろのなみも / きょうぞかぞうる
ゆくへなき
旅の空にも
おくれぬは都にて見し
有明の月
行方ない旅の空にも遅れないのは、都で見た有明の月。
発音の読み:ゆくえなき / たびのそらにも / おくれぬは / みやこにてみし / ありあけのつき
たえざりし
思ひも今は
たえにけりこしのわたりの
雪の深さに
絶えなかった思いも今は絶えてしまった、越の辺りの雪の深さに。
発音の読み:たえざりし / おもいもいまは / たえにけり / こしのわたりの / ゆきのふかさに
しら山の
雪の下なる
さざれいしの中のおもひは
きえむものかは
白山の雪の下なる細れ石の中の思いは、消えるものだろうか。
発音の読み:しらやまの / ゆきのしたなる / さざれいしの / なかのおもいは / きえんものかは
菅原孝標女 から 宮にかたらひ聞ゆる人 へ
しげかりし
浮世のことも
忘られず入あひの鐘の
心細さに
繁かった浮世の事も忘れられず、入相の鐘の心細さに。
発音の読み:しげかりし / うきよのことも / わすられず / いりあひのかねの / こころぼそさに
菅原孝標女 から 宮にかたらひ聞ゆる人 へ
袖ぬるる
荒磯浪と
知りながらともにかづきを
せしぞ戀ひしき
袖の濡れる荒磯の波と知りながら、共に潜きをしたのが恋しい。
発音の読み:そでぬるる / あらいそなみと / しりながら / ともにかずきを / せしぞこいしき
宮にかたらひ聞ゆる人 から 菅原孝標女 へ
荒磯は
あされど何の
かひなくてうしほにぬるる
あまの袖かな
荒磯は浅れど何の甲斐もなくて、潮に濡れる海人の袖かな。
発音の読み:あらいそは / あされどなにの / かいなくて / うしおにぬるる / あまのそでかな
みるめ生ふる
浦にあらずば
荒磯の浪間かぞふる
あまもあらじを
見る目が生える浦でなければ、荒磯の浪間を数える海人もいないだろうに。
発音の読み:みるめおうる / うらにあらずば / あらいその / なみまかぞうる / あまもあらじを
菅原孝標女 から 宮にかたらひ聞ゆる人 へ
夢さめて
ねざめの床の
浮くばかり戀ひきと告げよ
西へ行く月
夢が覚めて寝覚めの床が浮くほど恋しいと告げよ、西へ行く月よ。
発音の読み:ゆめさめて / ねざめのとこの / うくばかり / こいしきとつげよ / にしへゆくつき
今は世に
あらじものとや
思ふらむあはれ泣く泣く
なほこそはふれ
今は世にいない者と思うだろうか、あわれ泣く泣く、なおこそ経れ。
発音の読み:いまはよに / あらじものとや / おもうらん / あわれなくなほ / こそはふれ
ひまもなき
淚にくもる
心にもあかしと見ゆる
月の影かな
暇もない涙に曇る心にも、明かしと見える月の影かな。
発音の読み:ひまもなき / なみだにくもる / こころにも / あかしとみゆる / つきのかげかな
しげり行く
よもぎが露に
そぼちつつ人にとほ晴れぬ
音をのみぞ泣く
茂り行く蓬の露に濡れながら、人に問われない音をだけ泣く。
発音の読み:しげりゆく / よもぎがつゆに / そぼちつつ / ひとにとわれぬ / ねをのみぞなく
世の常の
宿のよもぎを
思ひやれそむきはてたる
庭の草むら
世の常の宿の蓬を思いやれ、背き果てた庭の草むらを。
発音の読み:よのつねの / やどのよもぎを / おもいやれ / そむきはてたる / にわのくさむら