ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

土佐日記 / 第6場面

和泉の滞留と忘れ貝

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和泉の滞留と忘れ貝をもとにした創作画
あらすじ・人物・読み方

二月朔日から四日、和泉に留まり、忘れ貝に亡き子を恋う歌が詠まれる。

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土佐日記・第6場面0 / 36
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二月一日、朝のうちは雨が降り、午の時刻ごろに止んだので、和泉の灘というところから出て、漕いで行く。海の上は、昨日のように、風の浪が見えない。黒崎の松原を通って行く。所の名は黒く、松の色は青く、磯の浪は雪のように白く、貝の色は蘇枋色で、五色に今あと一色が足りない。この間に、今日は、箱の浦というところから、綱で〔船を〕引いて行く。

こうして行く間に、ある人が詠んだ歌〔は〕、玉櫛笥――箱の内浦が、〔波の〕立たない日には、海を鏡として、誰が見ないことがあろうか〔誰もが見るだろう〕。

また、船君が言うことには、この月まで〔旅が〕なってしまったことだと言って、嘆いて、苦しさに耐えられず、ほかの人も言うことだと言って、心を慰めようと詠んだ歌〔は〕、行く船の綱手のように長い春の日を、よそかいかまで、私は過ごしてしまった。

聞く人がどう思うだろうか、なぜ、ただごとになってしまうのか、とひそかに言うべきである。船君が、やっとのことでひねり出して、よいと思っていることを、えしも〔以下は範囲外に続く〕。〔船君がよしと思って詠んだことを、人々は〕こそ詠えと、ささめいて止んだ、にわかに風や波が高くなったので、〔船は〕留まった。

二日、雨や風が止まない。一日中、夜通し、神仏にお祈りする。

三日、海の上が昨日のようであるので、船を出さない。風の吹くことが止まないので、岸の波が〔打ち寄せては〕返っていく。これに付けて、詠んだ歌、緒を通しても甲斐のないものは、落ちてたまる涙の玉を貫くことができないのだ。

こうして、今日は暮れた。

四日、舵取が、今日は風や雪の様子がたいそう悪いと言って、船を出さないことになった。そうであるのに、一日中、波も風も立たない。この舵取は、日〔の様子〕も判断できない、かたゐであったのだ。

この泊まりの浜には、さまざまな美しい貝や石などが多かった。こうであるので、ただ昔の人をばかり恋い慕って、船にいる人が詠んだ、寄せる波よ、〔忘れ貝を〕打ち寄せてほしい。私が恋い慕う人を忘れる貝があったら、拾おうと思う。と言うと、ある人が堪えきれず、船〔の人々〕の心を慰めるために詠んだ、忘れ貝は拾うまい。白玉〔である亡くなった子〕を恋うことだけでも、形見と思おう。

女の子のためには、親は幼くなってしまうものだ。〔子が〕玉でなかったこともあっただろうことを、人が言うだろうか〔いや、言わない〕。けれども、死んだ子は顔がよかったというようなこともある。

やはり同じところに日を重ねることを嘆いて、ある女が詠んだ歌、手を浸して、寒さも知らない泉で、汲むということもないまま、日々を過ごしてしまった。

五日、今日は、やっとのことで、和泉の灘から、小津の泊まりを目指す。松原は、目も遥か遠くまで〔続いて〕いる。あれこれと苦しいので、詠んだ歌。

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底本:『国文講義土佐日記』池辺義象著・朝野書店・大正4年[1915]・国立国会図書館蔵 320-189。本文画像:所蔵機関の公開資料。

『国文講義土佐日記』(池辺義象著・朝野書店・大正4年[1915]、国立国会図書館蔵 320-189)の大字本文を原画像と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補っています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。