ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

物語の中の和歌

土佐日記

あるじの守 から あるじの守 へ

都出でて
君に逢はむ
心地しものを
惜しかひもなく
別れぬるかな

都を出てあなたに逢う心地がしたものを、惜しむ甲斐もなく別れてしまうことよ。

発音の読み:みやこいでて / きみにあわむ / ここちしものお / おしかいもなく / わかれぬるかな

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前国守 から 前国守 へ

白妙の
涙路を遠く
行き交ひて
我に似べきは
君ならなくに

白妙の〔衣の袖を濡らす〕涙の道を遠く行き交うて、〔私に〕似るはずの人は、あなたでなくてはならないのに。

発音の読み:しろたえの / なみだじおとおく / ゆきかいて / われににべきわ / きみならなくに

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ある人 / 思いを寄せる相手:亡き娘(独詠)

都へと
思ふもものは
悲しきは
帰らぬ人の
あればなりけり

都へ〔帰る〕と思うと、何もかも悲しいのは、〔二度と〕帰らない人がいるからであることよ。

発音の読み:みやこえと / おもふもものわ / かなしきわ / かえらぬひとの / あればなりけり

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ある人 / 思いを寄せる相手:亡き娘(独詠)

あるものと
忘れつつなほ
亡き人を
いづらと問ふぞ
かなしかりける

〔亡くなった子が〕いるものと思い、忘れようとしつつも、やはり亡くなった人はどこにいるのかと尋ねてしまうのが、悲しいことだ。

発音の読み:あるものと / わすれつつなお / なきひとお / いずらととうぞ / かなしかりける

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見送りの人々 から 見送りの人々 へ

惜しと思ふ
人や留まると
葦がもの
うち群れてこそ
われは来にけれ

〔私の〕別れを惜しいと思う人が、〔私が〕留まるのではないかと、葦のように群がり集まってこそ、私は〔ここまで〕来たのだ。

発音の読み:おしとおもう / ひとやとまると / あしがもの / うちむれてこそ / われわきにけれ

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前国守 から 前国守 へ

棹させど
櫓漕ぎ知られぬ
綿津見の
深き心を
君に見るかな

棹をさしても、櫓を漕いでも分からない、海の神の深い心を、あなたの中に見ることだなあ。

発音の読み:さおさせど / ろこぎしられぬ / わたつみの / ふかきこころお / きみにみるかな

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若菜を送った家の人 から 若菜を送った家の人 へ

浅茅生の
野辺にしあれば
水もなき
池につみつる
若菜なりけり

浅茅の生えた野辺に〔若菜が〕あるので、水もない池に摘み積んだ若菜であることよ。

発音の読み:あさちうの / のべにしあれば / みずもなき / いけにつみつる / わかななりけり

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わりごを持たせて来た人 から わりごを持たせて来た人 へ

行く先に
立つ白波の
声よりも
泣かれて泣かむ
我やまさらむ

行く先に立つ白波の声よりも、〔別れを惜しんで人々に〕泣かれて泣く私〔の声〕の方が、もっと勝るだろう。

発音の読み:ゆくさきに / たつしらなみの / こえよりも / なかれてなかむ / われやまさらむ

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子ども から 子ども へ

行く人も
留まるも袖の
涙川
みきはのみこそ
濡れまさりけれ

旅立つ人も、残って留まる人も、袖は涙の川〔のよう〕である。その水際だけが、ことさら濡れまさっているのだろうか。

発音の読み:ゆくひとも / とまるもそでの / なみだがわ / みきわのみこそ / ぬれまさりけれ

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ある人 から ある人 へ

照る月の
流るる見れば
天の川
出づる湊は
海にざりける

照る月が〔海に〕流れるのを見ると、天の川が流れ出るという湊は、海であることよ。

発音の読み:てるつきの / ながるるみれば / あまのがわ / いづるみなとわ / うみにざりける

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筆者 から 筆者 へ

思ひやる
心は海を
渡れども
ふみしなければ
しらずやありけん

思いやる心は海を渡るけれども、文を使わなければ、〔岸の人は私の心を〕知らないでいることだろうか。

発音の読み:おもひやる / こころわうみお / わたれども / ふみしなければ / しらずやありけん

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舟人 から 舟人 へ

見渡せば
松のうれごとに
棲む鶴は
千代のどちとぞ
われも思ふべらなる

見渡すと、松の末ごとに棲む鶴は、千代の友というのだろう。私もそう思われることだ。

発音の読み:みわたせば / まつのうれごとに / すむつるわ / ちよのどちとぞ / われもおもふべらなる

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女童 から 女童 へ

まことにて
名に聞くところ
はねならば
飛ぶが如くに
都へもがな

本当に、名に聞く所が羽であるならば、飛ぶようにして都へ〔行きたい〕ものだなあ。

発音の読み:まことにて / なにきくところ / はねならば / とぶがごとくに / みやこえもがな

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ある人 から ある人 へ

世中に
思ひあれども
子を恋ふる
思ひにまさる
思ひなきかな

世の中に思いはあっても、子を恋う思いにまさる思いはないことだなあ。

発音の読み:よのなかに / おもいあれども / こおこうる / おもいにまさる / おもいなきかな

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町女 から 町女 へ

雲もみな
波とぞ見ゆる
海人もがな
いづれか海と
言ひて知るべく

雲がみな波のように見える。海人がいてほしい。どれが海かを〔海人に〕言ってもらって知りたいものだ。

発音の読み:くももみな / なみとぞみゆる / あまもがな / いずれかうみと / いいてしるべく

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女童 から 女童 へ

立てば立つ
寝ればまた居る
吹く風と
浪とは思ふ
とちにやあるらん

立てば立ち、寝ればまた居る、吹く風と浪とは、思うに友同士なのだろうか。

発音の読み:たてばたつ / ねればまたいる / ふくかぜと / なみとはおもふ / とちにやあるらん

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ある人 から ある人 へ

霜だにも
置かぬ方ぞと
言ふなれど
浪の中には
雪ぞ降りける

霜さえも置かない方だそうだが、浪の中には雪が降っている〔ように見える〕。

発音の読み:しもだにも / おかぬかたぞと / いうなれど / なみのなかには / ゆきぞふりける

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ある人 から ある人 へ

水底の
月の上より
漕ぐ船の
棹にさはるは
桂なるらん

水底にある月の上から漕いで行く船の、棹に当たるのは〔月の〕桂であるのだろう。

発音の読み:みなそこの / つきのうえより / こぐふねの / さおにさわるわ / かつらなるらん

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ある人 から ある人 へ

かけ見れば
波の底なる
久方の
空漕ぎ渡る
我ぞ侘びしき

ふと見ると、波の底である〔ように見える〕広々とした空を漕ぎ渡る私こそは侘びしいことだ。

発音の読み:かけみれば / なみのそこなる / ひさかたの / そらこぎわたる / われぞわびしき

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ある人 から ある人 へ

磯振りの
寄する磯には
年月を
いつとも分かぬ
雪のみぞ降る

磯振りの波が寄せる磯では、年月をいつとも区別できないほど、雪ばかりが降る。

発音の読み:いそふりの / よするいそにわ / としつきお / いつともわかぬ / ゆきのみぞふる

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ある人 から ある人 へ

風による
浪の磯には
鶯も
春もえ知らぬ
花のみぞ咲く

風によって立つ浪の磯では、鶯も春も知ることのない花ばかりが咲く。

発音の読み:かぜによる / なみのいそにわ / うぐいすも / はるもえしらぬ / はなのみぞさく

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船の長しける翁 から 船の長しける翁 へ

立つ浪を
雪か花かと
吹く風に
よせつつ人を
はかるへらなる

立つ浪を、雪か花かと、吹く風に寄せながら、〔波が〕人を惑わせるようであることだ。

発音の読み:たつなみお / ゆきかはなかと / ふくかぜに / よせつつひとお / はかるへらなる

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安部仲麿 から 安部仲麿 へ

青海原
ふりさけ見れば
春日なる
三笠の山に
出でし月かも

広く青い海原を、遠く見渡すと、〔この月は〕春日の三笠の山に出た月であるのだろうか。

発音の読み:あおうなはら / ふりさけみれば / かすがなる / みかさのやまに / いでしつきかも

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ある人 から ある人 へ

都にて
山のはに見し
月なれど
なみより出でて
波にこそ入れ

都で山の端に見た月であるけれど、〔今は〕波から出て波にこそ入る〔月だ〕。

発音の読み:みやこにて / やまのはにみし / つきなれど / なみよりいでて / なみにこそいれ

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童 / 思いを寄せる相手:童の父母(独詠)

猶こそ國の
かたは見やらるれ
わが父母
ありとし思へば
かへらや

それでもやはり故郷の方は見てしまう、わが父母がいらっしゃると思うと、〔ああ〕帰りたいよ。

発音の読み:なおこそくにの / かたわみやらるれ / わがちちはは / ありとしおもえば / かえらや

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前国守 から 前国守 へ

我が髪の
雪と磯辺の
白浪と
いづれまされり
沖つ島守

〔心配で〕白くなった私の髪の雪と、磯辺の白波と、どちらが勝っているだろう、沖の島守よ。

発音の読み:わがかみの / ゆきといそべの / しらなみと / いずれまされり / おきつしまもり

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小の童 から 小の童 へ

漕ぎて行く
舟にし見れば
足引きの
山さへ行くを
松は知らずや

漕いで行く舟の上から見ると、足を引きずるようにそびえる山までも〔一緒に〕行くように見えるが、松は〔それを〕知らないのだろうか。

発音の読み:こぎてゆく / ふねにしみれば / あしひきの / やまさえゆくお / まつわしらずや

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ある人 から ある人 へ

波とのみ
一重に聞けど
色見れば
雪と花とに
紛ひぬるかな

波だとばかり一様に聞いていたけれど、色を見ると、雪と花とに見間違えてしまうことだ。

発音の読み:なみとのみ / ひとえにきけど / いろみれば / ゆきとはなとに / まがひぬるかな

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ある童 から ある童 へ

わたつみの
ちふりのかみに
手向けする
幣の追ひ風
絶えず吹かなむ

海のちふりの神に手向けをする幣の追い風が、絶えず吹いてほしいものだ。

発音の読み:わたつみの / ちふりのかみに / たむけする / ぬさのおいかぜ / たえずふかなむ

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あはぢのたうめ から あはぢのたうめ へ

追ひ風の
吹きぬる時は
行く船の
帆て打ちてこそ
嬉しかりけれ

追い風が吹き抜ける時は、行く船の帆が〔風に〕打たれてこそ嬉しかったことだ。

発音の読み:おいかぜの / ふきぬるときわ / ゆくふねの / ほてうちてこそ / うれしかりけれ

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ある女 から ある女 へ

日をだにも
天雲近く
見るものを
都へと思ふ
道の遥けさ

日をだけでも天雲の近くに見る〔ことができる〕のに、都へ〔帰る〕と思えば、道の遥かなことよ。

発音の読み:ひおだにも / あまくもちかく / みるものお / みやこえとおもう / みちのはるけさ

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ある人 から ある人 へ

吹く風の
絶えぬ限りし
立ちければ
波路はいとど
遥けかりけり

吹く風が絶えない限り〔波が〕立ったので、波路はますます遥かであった。

発音の読み:ふくかぜの / たえぬかぎりし / たちければ / なみじわいとど / はるけかりけり

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ある女 から ある女 へ

おぼつかな
今日は子の日か
海人ならば
海松をだに
引かましものを

心もとないことだ、今日は子の日かどうか。海人ならば、海松をだけでも引くであろうものを〔私は引けない〕。

発音の読み:おぼつかな / きょうわねのひか / あまならば / うみまつおだに / ひかましものお

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ある人 から ある人 へ

今日なれど
若菜も摘まず
春日野の
我が漕ぎ渡る
浦になければ

今日であるけれど、若菜も摘まず、春日野の若菜も、私が漕ぎ渡る浦にはないので。

発音の読み:きょうなれど / わかなもつまず / かすがのの / わがこぎわたる / うらになければ

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土佐に住みける女 から 土佐に住みける女 へ

としころを
住みしところの
名にし負へば
來よる波をも
あはれとぞ見る

長年住んだところの名を〔自分の名に〕負っているので、寄せて来る波までもいとしく見える。

発音の読み:としころお / すみしところの / なにしおえば / きよるなみおも / あわれとぞみる

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ある人 から ある人 へ

玉くしげ
箱のうち浦
たたぬ日は
海を鏡と
誰か見ざらん

玉櫛笥――箱の内浦が、〔波の〕立たない日には、海を鏡として、誰が見ないことがあろうか〔誰もが見るだろう〕。

発音の読み:たまくしげ / はこのうちうら / たたぬひわ / うみおかがみと / たれかみざらん

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前国守 から 前国守 へ

行く船の
綱手の長き
春の日を
よそかいかまで
我は經にけり

行く船の綱手のように長い春の日を、よそかいかまで、私は過ごしてしまった。

発音の読み:ゆくふねの / つなでのながき / はるのひお / よそかいかまで / われわへにけり

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詠み手(本文に明示なし) から 詠み手(本文に明示なし) へ

緒をよりて
甲斐なきものは
落ちつもる
涙の玉を
貫かぬなりけり

緒を通しても甲斐のないものは、落ちてたまる涙の玉を貫くことができないのだ。

発音の読み:おおよよりて / かいなきものわ / おちつもる / なみだのたまお / ぬかぬなりけり

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ある人 / 思いを寄せる相手:昔の人(独詠)

寄する波
打ちも寄せなむ
我が恋ふる
人忘れ貝
ありて拾はん

寄せる波よ、〔忘れ貝を〕打ち寄せてほしい。私が恋い慕う人を忘れる貝があったら、拾おうと思う。

発音の読み:よするなみ / うちもよせなん / わがこうる / ひとわすれがい / ありてひろわん

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ある人 / 思いを寄せる相手:亡き娘(独詠)

忘れ貝
拾ひしもせじ
白玉を
恋ふるをだにも
形見と思はん

忘れ貝は拾うまい。白玉〔である亡くなった子〕を恋うことだけでも、形見と思おう。

発音の読み:わすれがい / ひろいしもせじ / しらたまお / こうるおだにも / かたみとおもわん

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ある女 から ある女 へ

手をひてて
寒さも知らぬ
泉にぞ
汲むとはなしに
日ごろ経にける

手を浸して、寒さも知らない泉で、汲むということもないまま、日々を過ごしてしまった。

発音の読み:ておひてて / さむさもしらぬ / いずみにぞ / くむとわなしに / ひごろへにける

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筆者 から 筆者 へ

行けと猶
ゆきやられぬは
妹が産む
小津の浦なる
岸の松原

「行け」と言われても、なお行きやってしまえないのは、妹が産む〔という枕詞で導く〕小津の浦にある岸の松原〔のためだ〕。

発音の読み:いけとなお / ゆきやられぬわ / いもがうむ / おづのうらなる / きしのまつばら

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ある童 から ある童 へ

祈り来り
風間とおもふを
怪なくに
鴎さへただ
波と見ゆらん

祈り続けてきた甲斐あって、風の凪ぐ間だと思って、疑いもなくいると、鴎さえもただの波と見えるのだろう。

発音の読み:いのりくり / かざまとおもうお / あやなくに / かもめさえただ / なみとみゆらん

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ある人 から ある人 へ

今見てぞ
身をは知りぬる
住の江の
松より先に
我は経にけり

今見て初めて自分の身を知ったことだ。住の江の松よりも先に、私は年を経てしまったのだ。

発音の読み:いまみてぞ / みおわしりぬる / すみのえの / まつよりさきに / われわへにけり

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昔の子の母 から 昔の子の母 へ

住の江に
船さし寄せよ
忘れ草
忘るる心ありやと
摘みて行くべく

住の江に船をさし寄せてください。忘れ草を、忘れる心があるかどうかと、摘んで行くことができるように。

発音の読み:すみのえに / ふねさしよせよ / わすれぐさ / わするるこころありやと / つみてゆくべく

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ゐる人 から ゐる人 へ

千早振る
神の心を
荒るる海に
鏡を入れて
かつ見つるかな

荒々しい神の心を、荒れる海に鏡を入れて、たちまち見たことだなあ。

発音の読み:ちはやふる / かみのこころお / あるるうみに / かがみおいれて / かつみつるかな

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淡路の島のおほいこ から 淡路の島のおほいこ へ

いつしかと
いぶせかりつる
難波潟
葦漕ぎそけて
みふぬきにけり

いつ〔出られる〕かと、気がふさいでいた難波潟で、葦の間を漕ぎ分けて、〔船の〕抜けて行くのを見たことだ。

発音の読み:いつしかと / いぶせかりつる / なにわがた / あしこぎそけて / みふぬきにけり

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前国守 から 前国守 へ

来と来ては
川の堀江の
水を浅み
舟も我身も
なづむ今日かな

来ては来ては、川の堀江の水が浅いので、舟も私自身も、進み悩む今日であることだなあ。

発音の読み:きときては / かわのほりえの / みずおあさみ / ふねもわれみも / なづむきょうかな

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前国守 から 前国守 へ

疾くと思ふ
舟悩ますは
我ために
水の心の
浅きなりけり

早く〔都へ行こう〕と思うのに舟が進み悩むのは、私のために、水の心が浅かったのだなあ。

発音の読み:とくとおもう / ふねなやますわ / わがために / みずのこころの / あさきなりけり

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ある人 から ある人 へ

千代経たる
松にはあれど
いにしへの
声の寒さは
変はらざりけり

千年を経た松ではあるけれど、昔の〔松を渡る風の〕声の寒々しさは、変わらないでいることだ。

発音の読み:ちよえたる / まつにわあれど / いにしえの / こえのさむさわ / かわらざりけり

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ある人 / 思いを寄せる相手:惟高の御子(独詠)

君恋ひて
世を経る宿の
梅の花
昔の香にぞ
なほ匂ひける

君を恋しく思うと、年月を経た宿の梅の花は、昔の香りのままに、今も匂っている。

発音の読み:きみこいて / よおふるやどの / うめのはな / むかしのかにぞ / なおにおいける

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昔の子の母 から 昔の子の母 へ

無かりしも
ありつつ帰る
人の子を
ありしも無くて
来るが悲しさ

〔もとは子が〕なかった人までも、〔子を連れて〕帰って来るのに、いた子さえなくして帰って来る〔私〕の悲しさよ。

発音の読み:なかりしも / ありつつかえる / ひとのこお / ありしもなくて / くるがかなしさ

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ある人 から ある人 へ

さざれ波
寄する文をば
青柳の
影の糸して
織るかとぞ見る

さざれ波が寄せる、その波の文様を、青柳の影を糸として織っているのかと見えることだ。

発音の読み:さざれなみ / よするあやおば / あおやぎの / かげのいとして / おるかとぞみる

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ある人 から ある人 へ

久かたの
月におひたる
桂川
そこなるかけも
変はらざりけり

久かたの月に沿って流れる桂川は、底にあるかけも変わっていなかった。

発音の読み:ひさかたの / つきにおいたる / かつらがわ / そこなるかけも / かわらざりけり

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ある人 から ある人 へ

天雲の
遥かになりつる
桂川
袖を干てても
渡りぬるかな

天の雲が、ずっと遠く広がる桂川は、袖をひたしても渡ってしまったことだなあ。

発音の読み:あまくもの / はるかになりつる / かつらがわ / そでおひてても / わたりぬるかな

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筆者と心知れる人 / 思いを寄せる相手:亡き娘(独詠)

生まれしも
帰らぬものを
我が宿に
小松のあるを
見るか悲しさ

〔この家で〕生まれたのに帰ってこなかった〔亡き娘〕のことを思うと、我が家に小松があるのを見る、その悲しさよ。

発音の読み:うまれしも / かえらぬものお / わがやどに / こまつのあるお / みるかかなしさ

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土佐日記へ