ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

土佐日記 / 第7場面

小津・住吉・難波

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小津・住吉・難波をもとにした創作画
あらすじ・人物・読み方

五日に小津・住吉を過ぎ、難波の津から川尻へ入る。

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土佐日記・第7場面0 / 47
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「行け」と言われても、なお行きやってしまえないのは、妹が産む〔という枕詞で導く〕小津の浦にある岸の松原〔のためだ〕。

このように言いながら来るうちに、早く船を漕げ、よい日のうちにと急かすと、舵取が船子たちに言うには、御船からお命じになったことだ。浅い田のような浅瀬を出て来ないうちに、綱で早く引け、と言う。この言葉が歌のようであるのは、舵取の自然に出た言葉である。舵取は、訴えるように、私は歌のようなことを言ったつもりもないのに、聞く人が不思議に思って、歌めかして言ったのだろうか、と言って、〔その言葉を〕書き出してみると、なるほど、三十文字あまりであった。

今日、波よ立つなと、人々が一日中祈る心があるので、風も波も立たない。ちょうど今、鴎が群れて遊ぶ所がある。京が近づく喜びのあまりに、ある童が詠んだ歌〔がある〕。祈り続けてきた甲斐あって、風の凪ぐ間だと思って、疑いもなくいると、鴎さえもただの波と見えるのだろう。

と言って、行く間に、石津という所の松原が面白くて、浜辺が遠い。また、住吉のあたりを漕いで行く。ある人が詠んだ〔歌がある〕。今見て初めて自分の身を知ったことだ。住の江の松よりも先に、私は年を経てしまったのだ。

ここに、昔の人の母が、一日片時も忘れられないので、詠んだ〔歌がある〕。住の江に船をさし寄せてください。忘れ草を、忘れる心があるかどうかと、摘んで行くことができるように。

と、なんと訴えるように〔詠んだのは〕、忘れてしまおうというのではなく、恋しい気持ちを忘れることで休ませて、また恋する力にしようというのであろう。

このように言って、眺めながら来る間に、不意に風が吹いて、漕いでも後ろへ退きに退いて、今にも〔岸に〕打ちはめられてしまいそうである。楫取が言うには、この住吉の明神は、いつもの神であるぞ。恐れ多いものであられるだろうとは、今ふうのものであるか。さて、幣を奉れ、と言うので、〔人々は〕従って、幣を奉る。

このように奉っても、一向に風はやまず、ますます吹き、ますます〔波が〕立って、風波が危ないので、楫取がまた言うには、幣では〔神の〕御心が向かなければ、御船も進まないのである。なお、〔神が〕嬉しいと思われるようなものを、奉ってください、と言う。また言うので、従って、どうしようかと、眼でさえ二つあるのに、ただ一つだけおられる神に奉ろうとして、〔それを〕海に打ち入れてしまうと、〔文は範囲外へ続く〕。残念だ。そうしたところ、突然、海は鏡のようになったので、〔そこに〕居る人が詠んだ歌〔がある〕。荒々しい神の心を、荒れる海に鏡を入れて、たちまち見たことだなあ。

〔この神は〕決して、住の江の忘れ草や岸の姫松などという〔ものに心を寄せる〕神ではないようだ。目もぼんやりとしながら、鏡に神の心こそは見たことだ。舵取の心は、神の御心であったのだ。

六日、みをつくし(澪標)のもとから出て、難波の津を来て、河尻に入る。皆の人々も、女も、幼い者も、額に手を当てて、喜ぶことがこの上ない。あの船酔いの、淡路の島のおほいこが、都が近くなったということを喜んで、船底から頭を持ち上げさせて、このように言った。

いつ〔出られる〕かと、気がふさいでいた難波潟で、葦の間を漕ぎ分けて、〔船の〕抜けて行くのを見たことだ。まったく思いがけない人が言ったので、人々は不思議がる。この中に、心を悩ます舟君が、ひどく感心して、船酔いしていた御顔には似合わない〔見事さだ〕、と、なんとまあ、と言った。

七日、今日は、川尻に船が入り留まって、漕ぎ上ろうとすると、川の水が乾いていて、悩み苦しむ。船が上ることは、とても難しい。こうしている間に、舟君は、病者で、もともとこちこちした人で、このような事はまったく知らなかった。けれども、淡路のたうめの歌に感心して、都〔に近づいた〕誇りもあろうかと、苦労して、つたない歌をひねり出した。その歌〔は〕、来ては来ては、川の堀江の水が浅いので、舟も私自身も、進み悩む今日であることだなあ。

これは、病気の身で詠んだものにちがいない。一つの歌では事が足りないので、今もう一つ〔詠む〕。早く〔都へ行こう〕と思うのに舟が進み悩むのは、私のために、水の心が浅かったのだなあ。

この歌は、都が近くなった喜びに堪えきれずに言ったものにちがいない。淡路の御歌に劣っている、残念だ、言わないでいればよかったものを、と悔しがる中に入って、寝てしまった。

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底本:『国文講義土佐日記』池辺義象著・朝野書店・大正4年[1915]・国立国会図書館蔵 320-189。本文画像:所蔵機関の公開資料。

『国文講義土佐日記』(池辺義象著・朝野書店・大正4年[1915]、国立国会図書館蔵 320-189)の大字本文を原画像と照合した独自編集本文です。通行字体・現行仮名へ写し、濁点・句読点を補っています。発音の読みと独自訳を添え、補った主語などは〔 〕で示します。