ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

謡曲「浮舟」 / 第3場面

浮舟の物語

あらすじ・人物・読み方

女は、光る源氏の物語の一節として、薫中將に据えられ兵部卿の宮に契られ、思い詰めて跡を絶った浮舟の物語を語る。

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謡曲「浮舟」・第3場面0 / 18
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シテ「しかしながら、昔この所には、浮舟とかいう方がお住まいだったとか。同じ女の身でありながら、数にも入らぬ憂き身ですので、どうしてそこまで存じておりましょう。

ワキ「まことに、まことに。光る源氏の物語は、今も世に絶えない言の葉です。それまでも添えて聞きたいのです。心に残しなさいますな。

シテ「難しいことをお尋ねですね。里の名は聞くまいと言った人もあったのです。なぜそこまでお尋ねになるのですか。

地「そうでなくても昔のことが、繰り返し、そうでなくても昔のことが。恋しく思われる橘の、小島が崎を見渡せば、河より遠く夕煙。立つ河風に行く雲の、跡から雲の色を添えて。山は鏡をかけようとしても、賢い世々にありながら、なお身を宇治と思うことがあろうか、繰り返し、なお身を宇治と思うことがあろうか。

ワキの言葉。「なおなお、浮舟のおんことを詳しくお物語りください。浮舟のおんことを知らぬとおっしゃるのも偽りでしょう。なおなおお物語りください。

地「そもそも、この物語と申すのは、その品々も妙であって、事の心も広いので、拾って語ろう言の葉の。

シテのサシ。「玉の数にも入らぬ身の、背いた世を顕すべきであろうか。地「まず、この里には昔、人々が数多くお住まいだった類いながら、取り分けこの浮舟は、薫の中将がかりそめに据えておられた、その名である。

クセ「人柄も慕わしく、心ばえもよく、おほどかに過ごしておられたのを、物言うさがなき世の人が、ほのめかし聞こえたのを、色深い心で、兵部卿の宮が忍んで訪ねていらしたのに、織り縫う業の暇もない宵の人目も悲しくて、垣間見しながらいらしたのも、たいそう不便な業であったので、その夜に山住まいの、珍しい有様が心にしみて、有明の月が澄んで昇るころに。

シテ「水の面も曇りなく。地「船をさしとめて行方を尋ね、汀の氷を踏み分けて、道に迷わずとのことも、浅からぬおん契りである。一方は長閑で、訪れぬままに時を経る思いまでも、晴れぬ眺めであったのにも、涙の雨が増したのだろう。とにかくに思いわびて、この世になくなってしまおうと、歎いた末ははかなく、ついに跡もなくなってしまった、繰り返し、とにかくに思いわびて、この世になくなってしまおうと、歎いた末ははかなく、ついに跡もなくなってしまった。

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底本:謡曲二百番:四流対照 上巻 芳賀矢一訂(金港堂書籍、明治42年)。本文画像:所蔵機関の公開資料。

明治42年(1909)芳賀矢一訂『謡曲二百番:四流対照』上巻(金港堂書籍)所収「浮船」(観世流)の本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像と照合した独自編集本文です。底本の主文(観世流)の字句を残し、他流の異文符は本文に含めていません。発音の読みと独自訳を添えています。