ATAWI 古典文学JAPANESE CLASSICS, AT YOUR PACE

紫式部日記 / 第5場面

入内と草子づくり

あらすじ・人物・読み方

十七日、中宮は内裏へ移る。式部は源氏物語の草子の書写・製本に追われ、大納言の君との鴛鴦の歌の贈答がある。御贈物の歌集の書写も進む。

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〔中宮が里邸へ〕お入りになるべき日も近くなったけれど、人々は、次々と〔出産の準備で〕心落ち着かないでいるのに、御前では、御本作りを営ませなさるということで、〔箱を〕開けたてまつると、まず〔私が〕お向かいに控えて、いろいろの紙を選り調えて、物語の本どもを添えながら、所々に手紙を書き配り、また綴じ集めて整えるのを役目として日を過ごす。「何の子も近づけたがっているときに、このような仕事をさせなさる。」と〔人々が〕申し上げなさるけれど、よい薄様どもや筆墨などを持って参上なさり、御硯まで持って参上なさったので、〔本を〕取らせなさったのを、惜しみののしって、物の隅に向かって控え、「このような仕事をし出せ。」と責め〔られ…〕〔責め〕られるけれど、書くべき墨や筆などを〔中宮から〕賜った。〔私が〕局に物語の本どもを取りにやらせて、隠しておいたものを、御前にある間に、〔中宮が〕そっとおいでになって探し出させなさり、全部を内侍のかんの殿に差し上げてしまわれた。よく書き替えておいた分は皆引き失ってしまい、〔私は〕心もとない評判を取ったことだろうよ。若宮は〔中宮に〕御物語などをさせなさる。〔中宮が若宮の将来を〕内心、心もとなくお思いになるのは、もっともなことであるよ。御前の池に、水鳥どもが日々に多くなっていくのを見ながら、〔中宮が〕お入りにならない前に雪が降るだろう、この御前の様子はどんなに趣深いだろうと思うと、〔私が〕ちょっと退出していた間に、二日ほどあって、霜や雪は降るものか〔いや降らない〕。見所もない古里の木立を見るにも、何となく煩わしく思い乱れて、長年つれづれに眺めて日を過ごしながら、花や鳥の色も音も、春秋に行き交う空の様子、月の欠け、霜雪を見て、その時が来たのだとばかり思い分けては、どうなることかとばかり、行く末の心細さはやり場のないものだから、はかない物語などについて語り合う人で、同じ心の人は、しみじみと書き交わし、少し縁遠い便りなども尋ねて言ってきたのを、ただこれをさまざまにあしらい、そぞろな事につれづれを慰めながら、世にあってよい人数とは思わないながら、さしあたって、恥ずかしくひどいと思い知る方面だけは逃れてきたのを、そのように残すところなく思い知る身のつらさよ。試しに物語を取って見ても、〔以前〕見たようには思えず、あきれる〔ほどで…〕〔あきれるほどで〕、しみじみと語った人々のあたりでも、私をどんなに思いやりなく、心浅い者と思い落とすだろうと推し量ると、それさえとても恥ずかしくて、便りをすることもできない。心憎いだろうと思った人は、よそでは手紙を散らすだろうなどと疑われそうなので、どうして、私の心の内にある様子を深く推し量ってくれようかと、道理としてとてもつまらないので、途絶えようとはしないけれど、自然と多く書き絶えるのも、住み定まらない身になってしまったとも思いやりながら、訪れて来る人も片方だけなどしながら、すべてはかない事に触れても、違う世に来た心地で、ここでこそいっそう物哀れであった。ただ離れられず語り合い、少しでも心を留めて思う、細やかに物を言い交わす、さしあたって自ら親しく語らう人だけを、少し懐かしく思うのは、物儚いことよ。

大納言の君が、毎夜御前にとても近く臥していらっしゃりながら、物語をなさった様子の恋しいのも、やはり世に従ってしまった心か。

つらい浮き寝をした水の上の身が恋しくて、鴨の上毛に〔寒さが〕冴えるのに劣らない。

返歌。払いのける友もない頃の寝覚めには、つがいの鴛こそ夜中に恋しい。書き方などまでとても趣深いのを、〔あの方は〕本当に立派でいらっしゃる方だなあと見る。「雪を御覧になって、ちょうど〔あなたが〕退出したことを、〔中宮が〕とても惜しませなさる。」と人が言った。殿〔道長〕の御手紙には、「私が止めた度なので、ことさら急いで退出して、早く参上しようとあったのも、うそになって日数が経つようだ。」とおっしゃらせたので、冗談にしても、そのように申し上げさせなさったことなので、恥ずかしくて参上した。

〔中宮が里邸へ〕お入りになるのは十七日である。戌の時などと聞いていたけれど、だんだん夜が更けてしまった。みな髪を上げながら、座っている人三十余人、その外にも〔大勢いて〕見分けがつかない。母屋の東側、東の席に、邸の女房も十余人、南の廂の妻戸を隔てて座っていた。御輿には宮〔中宮〕の宣旨が乗る。絲毛の御車に、殿〔倫子〕と少輔の乳母が、若宮を抱き申し上げて乗る。大納言、宰相の君は黄金造り〔の車〕に、次の車に小少将、宮の内侍、次に馬の中将と乗ったのを、〔私が〕悪い人と乗ったと思っていたのは、ああ大げさなことと、とてもよくない様子を煩わしく思いましたよ。殿守の侍従の君、弁の内侍、次に左衛門の内侍、殿の宣旨、式部までは、順序を知って、次々は例の各自の心々に乗った。月に隈がないのに、ひどい仕業だと思いながら、足も空になる〔落ち着かない〕。馬の中将の君を先に立てたので、行方も分からず、ただ騒々しい様子は、私の後ろ姿を見る人が、恥ずかしくも思〔うだろう…〕〔恥ずかしくも〕思い知らされる。

細殿の三の口に入って臥したところ、小少将の君もいらっしゃって、なおこのような様子のつらい事を語り合いながら、すくんだ衣どもを押しやり、厚く肥えた着物を重ねて、火取に火を掻き入れて、身も冷えてしまったものの、みっともなさを言うと、侍従の宰相、左宰相中将、公信中将などが、次々に寄って来て見舞うのも、とても長くなった。今宵は、〔私が〕いない者と思われて終わればよいと思うのを、〔小少将が〕人に問いてお聞きになったのだろう。「明朝早く参上しましょう。今宵は堪えがたく身もすくんでおります。」などと、事もなく言いながら、こちらの陣の方から出る。それぞれ家路へと急ぐのも、どれほどの里人なのかと思い送られる。〔それは〕私自身に寄せて〔言っているの〕ではない。大方の世の様子は、小少将の君がとても貴く趣深くて、世をつらいと思いしみてお座りなのを見るのである。父君から事が始まって、人並みよりは、幸せがこの上なく遅れてなさっているようだよ。昨夜の御贈り物を、今朝細かに御覧になる。御櫛の宮の内の道具どもは、言い尽くし見送る方法もない〔ほど素晴らしい〕。手箱一双、片方には白い色紙、作った御草紙ども、古今集、後撰集、拾遺抄、その部どもは五帖に作りながら、侍従中納言〔行成〕と延曆とが、それぞれ草紙一つに四巻を当てながら書かせなさった。表紙は羅、紐は同じ唐の組み〔紐〕で、掛け籠の上に入れてある。下〔は…〕下には能宣、元輔のような古今の歌詠みどもの家々の集を書いてある。延曆と近澄君とが書いたのはそれはそれとして、これはただ近くでお使いになるべきものとして、見知らぬ者どもに作らせなさったもので、今風で様子が違う。

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底本:『紫式部日記』長連恒校註(国民図書、昭和4年[1929])。本文画像:所蔵機関の公開資料。

昭和4年(1929)長連恒校註『紫式部日記』(国民図書)の本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像と照合した独自編集本文です。底本の字句を残し、頭註・傍註は転写していません。発音の読みと独自訳を添えています。