天人
月の世界から三保の松原へ舞い降りた天女。シテを務める。松の枝に掛けておいた羽衣を漁夫白龍に持ち去られ、衣なくては天上へ帰れないと嘆くが、舞を舞う約束と引き換えに衣を返され、東遊の駿河舞を舞って天へ帰る。

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三保の松原と天女の舞。漁夫白龍が見つけた羽衣をめぐる、能の代表的な祝言曲です。
三保の松原の漁夫白龍(はくりょう)が、松の枝に掛かる天人の羽衣(はごろも)を見つけて持ち帰ろうとする。現れた天人は、衣なくては天上に帰れないと嘆くが、白龍は舞楽を見せる約束と引き換えに衣を返す。天人は霓裳羽衣(げいしょううい)の曲と東遊(あづまあそび)の駿河舞を舞い、国土に宝を降らして、富士の高嶺の方へ霞に紛れて消えていく。能の代表的な祝言曲。
挿絵・人物画は本文をもとにした創作イメージです。原典の図版や史料の再現図ではありません。
三保の松原の朝春の朝、漁夫白龍(はくりょう)が連れの漁夫たちと三保の松原へ出る。白龍が松原の景色を眺めていると、虚空に花が降り音楽が聞こえ、松に色香の妙なる衣が掛かっている。白龍はこれを拾い、家の宝にしようと持ち帰る。第2場面
天人の訴え衣の持ち主である天人が現れ、衣を返してほしいと願う。白龍は拾った衣だと突っぱね、天人の羽衣と知ると、末世の奇特として国の宝に留め置き、返すまいと言い張る。第3場面
羽衣なき嘆き天人は、羽衣なくては天上へも帰れず、地に住めば下界の者となってしまうと嘆き、白龍とのロンギになる。涙の露に玉鬘も挿頭の花もしおれる天人の痛々しい姿に、白龍は心を動かされ、衣を返すと言う。第4場面
舞の約束と衣の返還白龍は衣を返す前に、天人の舞楽をここで奏してほしいと条件を出す。天人は天上へ帰れる喜びに舞を約束するが、衣なくては舞えないと、先に衣を返すよう願う。疑う白龍に天人は「天に偽なし」と答え、白龍は恥じて衣を返し、天人は衣を着て霓裳羽衣の曲を舞い始める。第5場面
東遊の駿河舞天人は月の世界の天少女の一人として、形見の東遊の駿河舞を舞う。春霞に月の桂の花が咲き、蕭笛・琴・箏・篌の音楽が満ち、落日の紅は蘇命路の山を映し、緑は波の浮島の嵐に花を降らす。底本:『謡曲二百番:四流対照』下巻 芳賀矢一訂、金港堂書籍、明治42年[1909](国立国会図書館蔵 94-567)所収「羽衣」。本文画像:所蔵機関の公開資料。
明治42年(1909)芳賀矢一訂『謡曲二百番:四流対照』下巻(金港堂書籍、国立国会図書館蔵 94-567)所収「羽衣」(観世流)の本文を、国立国会図書館デジタルコレクションの原画像と照合した独自編集本文です。底本の主文(観世流)の字句を残し、他流の異文符は本文に含めていません。発音の読みと独自訳を添えています。