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物語の中の和歌

和泉式部日記

和泉式部 から 敦道親王 へ

薫る香
によそふるより
は郭公。
きかばや同じ
聲やまさると。

薫る香に寄せるよりは、郭公よ、聞きたい、同じ声が(あの時より)勝っているかと。

発音の読み:かおるかに / よそふるよりは / ほととぎす。 / きかばやおなじ / こえやまさると。

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敦道親王 から 和泉式部 へ

おなじえに
なきつゝをりし
郭公。聲
はかはらぬも
のと知らなん。

同じ枝に鳴き続けていた郭公よ、声は変わらないものと知ってほしい。

発音の読み:おなじえに / なきつつおりし / ほととぎす。 / こえはかわらぬ / ものとしらなん。

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敦道親王 から 和泉式部 へ

うちいでい
もありにしもの
を。中〳〵
に苦しきまで
もなげくけふ哉。

打ち出して言うこともできずにいたのに、かえって苦しいほどに嘆く今日であることよ。

発音の読み:うちいでい / もありにしもの / お。なかなか / にくるしきまで / もなげくきょうかな。

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和泉式部 から 敦道親王 へ

けふのまの
心にかゝて思
ひやれ。な
がめつゝのみす
ぐす月日を。

今日の間の心にかけて思いやってほしい。物思いに耽ってばかり過ごす月日を。

発音の読み:きょうのまの / こころにかけて / おもいやれ。 / ながめつつのみ / すぐすつきひお。

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敦道親王 から 和泉式部 へ

かたらはば
なぐさむかたも
ありやせむ。
いふかひなくは
思はざらなむ。

語り合えば慰む方もあろうか。言い甲斐がないのなら思うまい。

発音の読み:かたらわば / なぐさむかたも / ありやせむ。 / いうかいなくは / おもわざらなむ。

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和泉式部 から 敦道親王 へ

なぐさむと
きけばかたらま
ほしけれど。
みのうきことに
いふかひぞなき。

慰むと聞けば語りたいけれど、身の憂いことには言い甲斐がない。

発音の読み:なぐさむと / きけばかたらま / ほしけれど。 / みのうきことに / いうかいぞなき。

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敦道親王 から 和泉式部 へ

はかもなき
夢をだにみて
明しては。
なにをか夏の
夜語にせむ。

はかない夢をさえ見て夜を明かしてしまったら、何を夏の夜語にしようか。

発音の読み:はかもなき / ゆめおだにみて / あかしては。 / なにおかなつの / よがたりにせむ。

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和泉式部 から 敦道親王 へ

よと共に
ぬるとは袖を
思ふみも。
のどかに夢を
見るよひぞなき。

夜と共に濡れるものとは袖のことと思う我が身も、のどかに夢を見る宵はない。

発音の読み:よとともに / ぬるとはそでお / おもうみも。 / のどかにゆめお / みるよいぞなき。

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敦道親王 から 和泉式部 へ

戀といへ
ばよのつねのと
や思ふら
ん。今朝の心
はたぐひだになし。

恋といえば世の常のことと思うだろうか。今朝の心は比べるものもない。

発音の読み:こいといえ / ばよのつねのと / やおもうら / ん。けさのこころ / はたぐいだになし。

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和泉式部 から 敦道親王 へ

よの常の
事とも更に
おもほえず。
初めて物を
思ふみなれば。

世の常の事ともまったく思われない。初めて物を思う身なればこそ。

発音の読み:よのつねの / ことともさらに / おもおえず。 / はじめてものお / おもうみなれば。

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敦道親王 から 和泉式部 へ

またましも
かばかりこそは
有ましを。
思も懸ぬけ
ふの夕暮。

待っていようとも、これほどのことがあろうとは。思いもかけない今日の夕暮よ。

発音の読み:またましも / かばかりこそは / あらましお。 / おもいもかけぬ / きょうのゆうぐれ。

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敦道親王 から 和泉式部 へ

ひたすらに
待つ共いは
ゝやすらば
でゆくべきもの
を妹が家路に。

ひたすらに待つと言えば、ためらわずに行くべきなのに、妹の家路に(行けない)。

発音の読み:ひたすらに / まつともいわば / やすらばで / ゆくべきものお / いもがいえじに。

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和泉式部 から 敦道親王 へ

郭公よ
にかくれたる忍
びねを。い
つかは聞かん
けふしすぎなば。

郭公よ、世に隠れた忍び音を、いつ聞くことができるのか、今日さえ過ぎてしまったら。

発音の読み:ほととぎす / よにかくれたる / しのびねお。 / いつかはきかん / きょうしすぎなば。

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敦道親王 から 和泉式部 へ

忍びねは
くるしきものを。
郭公。こ
だかき聲をけ
ふよりはきけ

忍び音は苦しいものだ。郭公よ、木高い声を今日からは聞け。

発音の読み:しのびねは / くるしきものお。 / ほととぎす。 / こだかきこえお / きょうよりはきけ

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敦道親王 から 和泉式部 へ

よど共に
物思ふ人
は夜どて
も。うちとけてめ
のおふときもなし。

夜と共に物思う人は、夜といっても、打ち解けて寝の合う時もない。

発音の読み:よとともに / ものおもうひと / はよるとて / も。うちとけてね / のおうときもなし。

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和泉式部 から 和泉式部 へ

おもすきは
さてもこそやめ。
五月雨
のこよひあや
めのねをやかけまし。

思い過ぎはもう止めよう。今宵は五月雨、あやめの根を懸けようか。

発音の読み:おもすぎは / さてもこそやめ。 / さみだれの / こよいあやめの / ねおやかけまし。

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敦道親王 から 和泉式部 へ

つらけれど
忘れやはする。
程ふれば
いと戀しきに
けふはまけなん。

つらくても忘れるだろうか。月日が経てばひどく恋しいことに、今日は負けてしまいそうだ。

発音の読み:つらけれど / わすれやはする。 / ほどふれば / いとこいしきに / きょうはまけなん。

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和泉式部 から 敦道親王 へ

まくるども
みえぬ物から
玉葛。間
人すらも絶
まがちにて。

巻いても見えないものだから、玉葛よ、問う人すらも絶えがちである。

発音の読み:まくれども / みえぬものから / たまかずら。 / とうひとすらも / たえまがちにて。

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敦道親王 から 和泉式部 へ

あけざりし
槇の戸口
に立なが
ら。つらき心の
ためしとぞ見し。

開けなかった槇の戸口に立ちながら、つらい心の例しと見た。

発音の読み:あけざりし / まきのとぐちに / たちながら。 / つらきこころの / ためしとぞみし。

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和泉式部 から 和泉式部 へ

いかでかは
槇の板戸
もさしなが
ら。つらき心の
ありなしをみん。

どうして槇の板戸も閉ざしながら、つらい心のあるなしを見ようか。

発音の読み:いかでかは / まきのいたとも / さしながら。 / つらきこころの / ありなしおみん。

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敦道親王 から 和泉式部 へ

大方に
さみだるゝとや
思ふらん。
君戀わたる
けふの詠めを。

おおかた、さみだれていると思うだろうか。君を恋い続けている今日の眺めを。

発音の読み:おおかたに / さみだるるとや / おもうらん。 / きみこいわたる / きょうのながめお。

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和泉式部 から 敦道親王 へ

忍ふらん
物ともしらで
をのがたい。
みをしる雨と
思ひけるかな。

忍んでいるだろうとも知らず、己の憂いを、身を知る雨と思ったことよ。

発音の読み:しのぶらん / ものともしらで / おのがうい。 / みおしるあめと / おもいけるかな。

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和泉式部 から 敦道親王 へ

降ばよの
いとゞうきみの
去らるゝ
を。今日の詠
めに水増らなん。

降れば世のいよいよ憂き身の去られるのを、今日の眺めに水が増すだろう。

発音の読み:ふらばよの / いとどうきみの / さられるお。 / きょうのながめに / みずまさらなん。

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敦道親王 から 和泉式部 へ

なにせんに
みをさへ捨て
んと思ら
ん。天か下に
は君のみやふる。

何のため、身をさえ捨てようと思うのだろう。天下には君だけに(雨が)降るのに。

発音の読み:なにせんに / みおさえすてん / とおもうら / ん。あめがしたに / はきみのみやふる。

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敦道親王 から 和泉式部 へ

我もさぞ
おもひやりつる
雨の音
を。させゐるつま
んなき宿はいかにと。

私もそう思いやっていた、雨の音を。さし出ている妻もない宿はどうかと。

発音の読み:われもさぞ / おもいやりつる / あめのおと / お。させいるつま / らなきやどはいかにと。

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敦道親王 から 和泉式部 へ

おぼえづの
きしつききるに
くらぶれど。
深き心はな
をぞ増れる。

覚えのない岸が漬くほどに比べると、深い心はなお増している。

発音の読み:おぼえずの / きしずききるに / くらぶれど。 / ふかきこころは / なおぞまされる。

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和泉式部 から 敦道親王 へ

今はよも
きしもせしかし
かし大水
の深き心
は川と見せつゝ。

今はもう岸もせき止めた。しかし大水の深い心は川と見せながら。

発音の読み:いまはよも / きしもせきしか / しかしおお / みずのふかきこ / ころはかわとみせつつ。

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敦道親王 から 和泉式部 へ

朝露に
おくるおもひに
くらぶれば。
たゞに歸らん
よひはまされり。

朝露に送る思いに比べると、そのまま帰る宵は勝っている。

発音の読み:あさつゆに / おくるおもいに / くらぶれば。 / ただにかえらん / よいはまされり。

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敦道親王 から 和泉式部 へ

ころしても
猶あかぬ哉。
ねぬ鳥の
折ふし志ら
ぬ今朝の初聲。

殺してもなお飽きないことよ。寝ない鳥の、折節を知らない今朝の初声よ。

発音の読み:ころしても / なおあかぬかな。 / ねぬとりの / おりふししらぬ / けさのはつこえ。

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和泉式部 から 敦道親王 へ

いかゝとは
我こそ思へ。
おさな〳〵
啼きかせつる
鳥を殺せば。

どうしてかとは私こそ思う。幼くて啼かせてしまった鳥を殺したならば。

発音の読み:いかがとは / われこそおもえ。 / おさなおさ / ななきかせつる / とりおころせば。

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敦道親王 から 和泉式部 へ

我如く
思ひはいつや
山のはの。
月にかけつゝ
なげく心を。

私のように思うことはいつだろうか。山の端の月に懸けながら嘆く心を。

発音の読み:わがごとく / おもいはいつや / やまのはの。 / つきにかけつつ / なげくこころお。

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敦道親王 から 和泉式部 へ

松山に
波高しとは
見てしか
ど。今日の詠
めはたいならぬかな

松山に波が高いとは見てきたけれど、今日の眺めは例のないほどだ。

発音の読み:まつやまに / なみたかしとは / みてしかど。 / きょうのながめは / たいならぬかな

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和泉式部 から 敦道親王 へ

吾をこそ
末の松とは
思ひつれ。
ひとしなみには
誰か越べき。

我をこそ末の松と思い続けてきた。万人並みには誰が越えようか。

発音の読み:われおこそ / すえのまつとは / おもいつれ。 / ひとしなみには / たれかこゆべき。

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敦道親王 から 和泉式部 へ

つらしとも
又戀しとも
さま〳〵に。
思ふ事こそ
たえせざりけれ。

つらいとも、また恋しいとも、さまざまに思うことこそ絶えることがない。

発音の読み:つらしとも / またこいしとも / さまざまに。 / おもうことこそ / たえせざりけれ。

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和泉式部 から 敦道親王 へ

あふ事は
とまれかくまれ
なげかしを。
うらみ絕せぬ
中となりせば。

逢うことは、どうあろうと嘆かしいけれど、恨みが絶えない仲となってしまったら。

発音の読み:あうことは / とまれかくまれ / なげかしお。 / うらみたえせぬ / なかとなりせば。

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和泉式部 から 敦道親王 へ

月をみて
あれたる宿に
詠むとは。
見にこぬまで
も誰に告よと。

月を見て荒れた宿に眺めるとは、見に来ないまでも誰に告げようと。

発音の読み:つきおみて / あれたるやどに / ながむとは。 / みにこぬまでも / たれにつげよと。

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敦道親王 から 和泉式部 へ

こゝろみに
雨もふらなん。
宿過て
浦行月の
影やどまるど。

試みに雨も降ってほしい。宿を過ぎて浦を行く月の影は宿るだろうか。

発音の読み:こころみに / あめもふらなん。 / やどすぎて / うらゆくつきの / かげやどまるど。

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敦道親王 から 和泉式部 へ

あぢきなく
雲井の月
にさそはれ
て。影こそいづ
れ心やはゆく。

あぢきなく雲井の月に誘われて、影こそどこへ、心は行くのだろうか。

発音の読み:あじきなく / くもいのつきに / さそわれて。 / かげこそいずれ / こころやわゆく。

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敦道親王 から 和泉式部 へ

我ゆへに
月を詠むと
告つれば。
まことかど見
に出てきにけり。

私のために月を眺めると告げたので、本当かと見に出て来てしまった。

発音の読み:わがゆえに / つきおながむと / つげつれば。 / まことかどみに / いでてきにけり。

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敦道親王 から 和泉式部 へ

よしやよし
今は恨みし。
磯に出
てこぎ離れ行
海人の小舟

よしやよし、今は恨まない。磯に出て漕ぎ離れて行く海人の小舟よ。

発音の読み:よしやよし / いまはうらみじ。 / いそにいで / てこぎはなれゆ / くあまのこぶね

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和泉式部 から 敦道親王 へ

袖の浦
にたいわがやく
と鹽垂
れて。船流し
たるあまど社なれ。

袖の浦に、絶え間なく我が焼くと塩が垂れて、船を流した海人とこそなれ。

発音の読み:そでのうら / にたえまわがや / くとしおた / れて。ふねながし / たるあまどこそなれ。

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敦道親王 から 和泉式部 へ

思ひきや
七夕づめに
みをなして。
天の河原
をなかむべしとは。

思いもしなかった、七夕つ女に身をなして、天の河原を眺めることになろうとは。

発音の読み:おもいきや / たなばたつめに / みおなして。 / あまのかわらお / ながむべしとは。

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和泉式部 から 敦道親王 へ

ながむらん
空をだにみず。
棚機に。
忘るばかりの
我みと思へば。

眺めるだろう空をさえ見ずに、棚機に、忘れるばかりの我が身と思えば。

発音の読み:ながむらん / そらおだにみず。 / たなばたに。 / わするばかりの / わがみとおもえば。

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和泉式部 から 敦道親王 へ

ね覺ねば
聞かぬなるら
ん。萩風
はふかざらめや
は秋のよな〳〵。

寝覚めなければ聞かないのだろう。萩風は吹かないことがあろうか、秋の夜ごとに。

発音の読み:ねざめねば / きかぬなるらん。 / はぎかぜは / ふかざらめやは / あきのよなよな。

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敦道親王 から 和泉式部 へ

おぎ風は
吹はいもねて
今よりぞ。
驚すかど聞
ばかりける。

荻風は吹けば妹が寝て、今からぞ、驚かすかと聞くばかりであった。

発音の読み:おぎかぜは / ふけばいもねて / いまよりぞ。 / おどろかすかど / きくばかりける。

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和泉式部 から 和泉式部 へ

つれ〳〵ど
秋の日頃
のふるまゝ
に思ひしらぬ。
あやしかりしも。

つれづれと、秋の日頃の経つままに、思いも知らない、あやしかったことよ。

発音の読み:つれづれと / あきのひごろの / ふるままに / おもいしらぬ。あ / やしかりしも。

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敦道親王 から 和泉式部 へ

人はいさ
我は忘れず。
日をふれ
ど。秋の夕暮
ありしあふど。

人はいざ知らず、我は忘れない。日を経ても、秋の夕暮にありし逢うことよ。

発音の読み:ひとはいざ / われはわすれず。 / ひおふれど。 / あきのゆうぐれ / ありしあうど。

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敦道親王 から 和泉式部 へ

關越え
てけふぞ問ど
や人はし
る。思ひたえせ
ぬ心づかひを。

関を越えて今日ぞ問うとや人は知る。思いが絶えない心遣いを。

発音の読み:せきこえて / きょうぞとうとや / ひとはしる。 / おもいたえせぬ / こころづかいお。

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和泉式部 から 敦道親王 へ

あふみちは
忘れぬめりと
みしほどに。
關打越て
問ふ人はたれ。

逢う道は忘れないようだと見たほどに、関を打ち越えて問う人は誰か。

発音の読み:おうみちは / わすれぬめりと / みしほどに。 / せきうちこえて / とうひとはたれ。

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敦道親王 から 和泉式部 へ

山ながら
うみはこくども
都へは。な
にか打出の
濱をみるべき。

山ながら海は漕いでも、都へはどうして打出の浜を見ることができようか。

発音の読み:やまながら / うみはこぐども / みやこへは。 / なにかうちでの / はまおみるべき。

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和泉式部 から 敦道親王 へ

尋ゆく逢
坂山のか
ひもなく。お
ぼめくばかり忘
るべしやは。

尋ね行く逢坂山の甲斐もなく、おぼめくほどに忘れることがあろうか。

発音の読み:たずねゆく / おうさかやまの / かいもなく。 / おぼめくばかり / わするべしやは。

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敦道親王 から 和泉式部 へ

うきによひ
ひたやこもゝと
思ふとも。
近江の海
は打出で見よ。

憂き世に酔い浸り隠れようと思うとも、近江の海は打出で見よ。

発音の読み:うきによい / ひたやこももと / おもうとも。 / おうみのうみは / うちいでてみよ。

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和泉式部 から 敦道親王 へ

關山の
せきどあられぬ
淚こそ。近
江の海を
流いづらめ。

関山の堰き止められぬ涙こそ、近江の海を流れ出よう。

発音の読み:せきやまの / せきどあられぬ / なみだこそ。 / おうみのうみお / ながれいづらめ。

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心みにを
のが心も試
みむ。いざ都
へどきてさそ
ひ見ん

試しに己が心も試そう。いざ都へと来て誘ってみよう。

発音の読み:こころみに / おのがこころも / こころみむ。 / いざみやこへと / きてさそいみん

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和泉式部 から 敦道親王 へ

淺ましや
のりの山ぢに
入そめて。
都へいざど誰
さそひけん。

浅ましいことよ、法の山路に入り染めて、都へいざと誰が誘ったのだろう。

発音の読み:あさましや / のりのやまじに / いりそめて。 / みやこへいざと / たれかさそいけん。

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山をいで
ゝくらきみちに
ぞたどりに
し。今一度
のあふどにより。

山を出て暗い道に辿ったのは、今一度の逢うことによる。

発音の読み:やまおいで / てくらきみちに / ぞたどりに / し。いまひとたび / のあうとにより。

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なげきつゝ
秋のみ空を
詠むれば。
雲うちさはぎ
風ぞ烈しき。

嘆きながら秋の空を眺めると、雲は騒ぎ、風はひどい。

発音の読み:なげきつつ / あきのみそらお / ながむれば。 / くもうちさわぎ / かぜぞはげしき。

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秋風は
けしきふくだに
戀しきに。
かき曇る日
はいふかたぞなき。

秋風は気色を吹くにさえ恋しいのに、掻き曇る日は言いようがない。

発音の読み:あきかぜは / けしきふくにだ / にこいしき / に。かきくもるひ / はいうかたぞなき。

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秋の夜
の有明の月
の入ま
でに。やすらひか
ねて歸りにし哉。

秋の夜の有明の月が入るまでに、休らうことができずに帰ってしまったことよ。

発音の読み:あきのよの / ありあけのつき / のいるまで / に。やすらいかね / てかえりにしや。

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秋のうち
に朽果ぬべ
くとはりの。
時雨にたれ
か袖をからましと。

秋のうちに朽ち果ててしまうだろうとはりの。時雨に誰が袖を貸そうかと。

発音の読み:あきのうち / にくちはてぬべ / くとはりの。 / しぐれにたれか / そでおからましと。

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我ならぬ
人もさざみん。
長月の
晨明の月
にしかじあはれは。

私でない人も覚えよう。長月の朝明けの月に、しかじあはれは(ない)。

発音の読み:われならぬ / ひともささみん。 / ながつきの / あさあけのつき / にしかじあわれは。

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よそにても
同心に有
明の月
をみるやど誰
に問まし。

よそにいても、同じ心に有明の月を見るかと、誰に問おうか。

発音の読み:よそにても / おなじこころに / ありあけの / つきおみるやど / たれにとわまし。

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秋のうち
は朽ける物
を。人もさ
は我袖との
み思ひける哉。

秋のうちは朽ちる物なのに、人もそう我が袖とばかり思っていたことよ。

発音の読み:あきのうち / はくちけるもの / お。ひともさ / はわがそでとの / みおもいけるかな。

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消ぬべき
露の命ちと
おもはずは。
久しききくに
かゝりやはせむ。

消えそうな露の命と思わなければ、久しく聞くのにかかることがあろうか。

発音の読み:きえぬべき / つゆのいのちと / おもはずは。 / ひさしくきくに / かかりやはせむ。

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敦道親王 から 和泉式部 へ

まどろまで
雲井の雁
の音を聞
は。心づから
のわざにぞありける。

うとうとと雲井の雁の音を聞けば、心づからの業であることよ。

発音の読み:まどろまで / くもいのかりの / ねおきかば。 / こころずからの / わざにぞありける。

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敦道親王 から 和泉式部 へ

我ならぬ
人も有明
の空をの
み。同心にな
がめけるかな。

私でない人も有明の空をのみ、同じ心に眺めていたことよ。

発音の読み:われならぬ / ひともありあけ / のそらおの / み。おなじこころ / にながめけるかな。

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敦道親王 から 和泉式部 へ

よそにても
君ばかりこそ
月はみめ
ど。思てゆきゝ
けさぞくるしき。

よそにいても君ばかりこそ月は見るけれど、思いながら来た今朝は苦しい。

発音の読み:よそにても / きみばかりこそ / つきはみめ / ど。おもいてゆき / きけさぞくるしき。

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敦道親王 から 和泉式部 へ

おしまるゝ
涙にかげは止
らなん。心
も志らす秋
は行ども。

惜しまれる涙に影は留まろう。心も知らず秋は行くけれど。

発音の読み:おしまるる / なみだにかげは / とまらなん。 / こころもしらず / あきはゆくども。

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敦道親王 から 和泉式部 へ

君をおき
ていづち行ら
ん。我だに
も浮世中
にきゑゐてこそふれ。

君を置いてどこへ行こうか。私でさえ憂き世の中に消えていてこそふれ(よう)。

発音の読み:きみおおき / ていずちゆくら / ん。われだに / もうきよのなか / にきえいてこそふれ。

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敦道親王 から 和泉式部 へ

時雨に
も露にもあら
で。ねたる夜
は。あやしくぬ
るゝ手枕の袖。

時雨にも露にもないのに、寝た夜はあやしく濡れる手枕の袖よ。

発音の読み:しぐれにも / つゆにもあらで。 / ねたるよは。 / あやしくぬるる / たまくらのそで。

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和泉式部 から 敦道親王 へ

今朝の
まは今はひぬ
らん。ゆめ計
ぬると見え
つる手枕の袖。

今朝の間は今は乾くだろう。夢ばかり濡ると見えた手枕の袖は。

発音の読み:けさのまは / いまはひぬらん。 / ゆめばかり / ぬるとみえつる / たまくらのそで。

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敦道親王 から 和泉式部 へ

夢計涙
にぬると見
つらめど。ほ
しぞかねつる手
枕の袖。

夢ばかり涙に濡ると見たけれど、干しきれなかった手枕の袖よ。

発音の読み:ゆめばかり / なみだにぬると / みつらめど。 / ほしぞかねつる / たまくらのそで。

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敦道親王 から 和泉式部 へ

露結ぶ
道のまに〳〵
あさぼらけ。
ぬれてぞきつる
手枕の袖。

露結ぶ道の間々に、朝ぼらけ、濡れて来た手枕の袖よ。

発音の読み:つゆむすぶ / みちのまにまに / あさぼらけ。 / ぬれてぞきつる / たまくらのそで。

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和泉式部 から 敦道親王 へ

道芝の
露と置ぬる
人よりも。
我手枕の
袖はかはかず。

道芝の露と置いた人よりも、我が手枕の袖は乾かない。

発音の読み:みちしばの / つゆとおきぬる / ひとよりも。 / わがたまくらの / そではかわかず。

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手枕の
袖にも霜は
置けるを。
けさうちみれば
白妙にして。

手枕の袖にも霜は置いたのを、今朝見ると白妙になっている。

発音の読み:たまくらの / そでにもしもは / おけるお。け / さうちみればし / ろたえにして。

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ねぬるよの
月はみるやど。
けさはしも
起ゐてまでと
問人もなし。

寝ない夜の月は見るかと、今朝はしも起きていてまでと問う人もいない。

発音の読み:ねぬるよの / つきはみるやど。 / けさはしも / おきいてまでと / とうひともなし。

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まどろまで
一夜詠し
月みれど。
おきながらしも
明し顔なる。

うとうとと一夜眺めた月を見るけれど、起きながらも明かした顔である。

発音の読み:まどろまで / ひとよながめし / つきみれど。 / おきながらしも / あかしがおなる。

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霜のうへ
に朝日さす
めり。今は
ゝや打解に
けるけしき見せなん。

霜の上に朝日が射すようだ。今はもう打ち解けた気色を見せよう。

発音の読み:しものうえ / にあさひさすめ / り。いまはは / やうちとけにけ / るけしきみせなん。

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朝日さ
し今は消べ
き霜なれ
ど。打解がた
き空のけしきぞ。

朝日が射し、今は消えそうな霜だけれど、打ち解け難い空の気色だ。

発音の読み:あさひさし / いまはきゆべき / しもなれど。 / うちとけがたき / そらのけしきぞ。

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君はこず
たま〳〵みゆる
童をば。い
けども今はい
はじとおもふか。

君は来ず、たまたま見える童をば、生かしても今は言うまいと思われるか。

発音の読み:きみはこず / たまたまみゆる / わらわおば。 / いけどもいまは / いわじとおもうか。

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人しれぬ
心にかけて忍
ぶをば。忘
るどや思ふ
手枕の袖。

人知れず心にかけて忍ぶのを、忘れると思われるか、手枕の袖を。

発音の読み:ひとしれぬ / こころにかけて / しのぶおば。 / わするとやおも / うたまくらのそで。

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物もいは
で止みなまし
かば。かけて
だに。思ひいで
ましや手枕の袖。

物も言わずに止んでしまえば、かけてさえ思い出そうか、手枕の袖を。

発音の読み:ものもいわ / でやみなましか / ば。かけてだ / に。おもいいでま / しやたまくらのそで。

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見るや君
さようち更て。
山端に
隈なくすめる
秋夜の月。

見るか君、さ夜更けて、山の端に隈なく澄んだ秋の夜の月を。

発音の読み:みるやきみ / さようちふけて。 / やまはに / くまなくすめる / あきよのつき。

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更ぬらん
と思ふものか
ら。ねられぬ
ど中々なれ
ば月はしも見す。

更けるだろうと思いながらも、寝られず、なかなかであれば月さえ見ない。

発音の読み:ふけぬらん / とおもうものか / ら。ねられぬ / どなかなかであ / ればつきはしもみず。

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葛城の
神もさこそは
思ひけめ。
くめぢに渡す
はしたなきまで。

葛城の神もさこそ思っただろう。久米路に渡す、はしたないほどに。

発音の読み:かつらぎの / かみもさこそは / おもいけめ。 / くめじにわたす / はしたなきまで。

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をこなひの
しるしもあらば。
葛城の
はしたなしどて
さてや止みなん。

行いの印しもあれば、葛城のはしたないとて、さてや止もうか。

発音の読み:おこないの / しるしもあらば。 / かつらぎの / はしたなしとて / さてややみなん。

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我うへは
千鳥もつけ
しおほどり
の。はねにも霜
はさやはをきける。

我が上は、千鳥も告げたおほどりの、羽にも霜はさやかに置いたことよ。

発音の読み:わがうえは / ちどりもつげし / おほどりの。 / はねにもしもは / さやはおきける。

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月も見
でねにきどいひ
し人の上
に置しもせ
しをおほどりのごと。

月も見ず寝たと言った人の上に、置いた霜を、おほどりのように(見る)。

発音の読み:つきもみで / ねにきといいし / ひとのうえ / におきしもせし / おおほどりのごと。

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神無月
よに降にた
る時雨
どや。けふのなが
めをおかず見るらん。

神無月、世に降り満ちた時雨とか、今日の眺めを置かず見るだろう。

発音の読み:かんなづき / よにふりにたる / しぐれとや。 / きょうのながめお / おかずみるらん。

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時雨かも。
なにゝぬれたる
たもとぞと。
定かねてぞ
我もながむる

時雨かも、何に濡れた袂かと、定かねて私も眺める。

発音の読み:しぐれかも。 / なににぬれたる / たもとぞと。 / さだかねてぞ / われもながむる

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紅葉は
ゝ夜はの時雨に
あらじかし。
昨日山べを
見たらましかば。

紅葉葉は、夜の時雨ではないだろう。昨日山辺を見ていたらよかったのに。

発音の読み:もみぢばは / よるのしぐれに / あらじかし。 / きのうやまべお / みたらましかば。

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そよやそよ
などて山べを
みざりけん。
けさは悔れど
なにのかひなし

そよやそよ、どうして山辺を見なかったのだろう。今朝は悔いても何の甲斐もない。

発音の読み:そよやそよ / などてやまべお / みざりけん。 / けさはくゆれど / なにのかいなし

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あらしとは
思ふ物から。
もみぢばの
散や殘れる
いざ尋ねみん。

嵐とは思う物ながら、紅葉葉の散り残っているか、いざ尋ねて見よう。

発音の読み:あらしとは / おもうものから。 / もみぢばの / ちりやのこれる / いざたずねみん。

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移ろはぬ
どきはの山も
紅葉を
ば。いざかしゆき
てのど〳〵とみむ。

移ろわない常盤の山も、紅葉をば、いざ彼方へ行ってのどかに見よう。

発音の読み:うつろわぬ / ときわのやまも / もみぢおば。 / いざかしゆきて / のどどとみん。

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山べには
車に乘て行
べきを。高
瀬の舟は
いかゝよるべき。

山辺には車に乗って行くべきなのに、高瀬の舟はどう寄るのだろう。

発音の読み:やまべには / くるまにのりて / ゆくべきお。 / たかせのふねは / いかがよるべき。

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紅葉ば
のみにくるまで
もちらざら
ば。高瀬の舟
のいかゝこがれん。

紅葉葉の身に来るまでも散らなければ、高瀬の舟をどう漕ごうか。

発音の読み:もみぢばの / みにくるまでも / ちらざらば。 / たかせのふねの / いかがこがれん。

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恨むらん
心はたゆる。限
なくたの
む君をぞ我
も疑ふ。

恨むだろう心は絶える。限りなく頼む君をこそ、私も疑う。

発音の読み:うらむらん / こころはたゆる。 / かぎりなく / たのむきみおぞ / われもうたがう。

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霜がれは
わびしかりけり。
秋風の
ふくには荻の
音づれもせき。

霜枯れは侘びしかったことよ。秋風の吹くには荻の音づれもせき(する)。

発音の読み:しもがれは / わびしかりけり。 / あきかぜの / ふくにはおぎの / おとづれもせき。

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つれ〳〵ど
けふかぞふれば。
どし月に
昨日ぞ物
はおもはざりける。

つれづれと今日を数えれば、年月に昨日は物思いをしなかったことよ。

発音の読み:つれづれと / きょうかぞえれば。 / としつきに / きのうぞものは / おもわざりける。

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思ふ事
なくてすぐまゝ
おどゝひを。
昨日どけふ
になすよしもがな。

思う事もなく過ぎるまま、一昨日を昨日と今日になす術がほしい。

発音の読み:おもうこと / なくてすぐまま / おとといお。 / きのうときょうに / なすよしもがな。

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なぐさむる
君もありどは
思へども。
猶夕ぐれは
物ぞ悲しき。

慰める君もいるとは思うけれど、なお夕暮れは物悲しい。

発音の読み:なぐさむる / きみもありとは / おもえども。 / なおゆうぐれは / ものぞかなしき。

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夕ぐれは
誰もさのみぞ
おもほゆる。
待詫ぶ君
ぞ人にまされる。

夕暮れは誰もそのように思われる。待ち詫びる君こそ人に勝っている。

発音の読み:ゆうぐれは / たれもさのみぞ / おもぼゆる。 / まちわぶきみぞ / ひとにまされる。

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おきながら
おかせる霜の
おしたこそ。
まされるものは
よになかりけれ。

起きながら置かせた霜の落ちたことこそ、勝れる物は世になかった。

発音の読み:おきながら / おかせるしもの / おちたこそ。 / まされるものは / よになかりけれ。

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我ひとり
おもふは思か
ひもなし。同
心に君も
あらなん。

私ひとり思うのは思いの甲斐もない。同じ心に君もあってほしい。

発音の読み:われひとり / おもうはおもい / かいもなし。 / おなじこころに / きみもあらなん。

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君は君
我は我とも
へだてねば。
心々にあら
ん物かは。

君は君、私は私とも隔てなければ、心々にあろう物だろうか。

発音の読み:きみはきみ / われはわれとも / へだてねば。 / こころごころに / あらんものかは。

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たえし比
たえぬどおもひ
し玉の緒
を。君により
又おしまるゝ哉。

絶えた頃、絶えないと思った玉の緒を、君によって又惜しまれることよ。

発音の読み:たえしころ / たえぬとおもい / したまのお / お。きみによりま / たおしまるるかな。

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玉の緒
はたえんものか
は。契りて
し長き心に
結びとめてき。

玉の緒は絶える物だろうか。契っておいた長い心に結び留めておいた。

発音の読み:たまのおは / たえんものかは。 / ちぎりてし / ながきこころに / むすびとめてき。

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神代よ
りふりはてにけ
る雪なれ
ど。けふはとにも
めづらしきかな。

神代より降り果てた雪だけれど、今日は殊に珍しいことよ。

発音の読み:かみよより / ふりはてにける / ゆきなれど。 / きょうはことにめ / ずらしきかな。

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初雪ど
いづれの冬も
みしまゝに。
めづらしげなき
みのみふりつゝ。

初雪といづれの冬も見たままに、珍しげない身のみ降り続く。

発音の読み:はつゆきと / いずれのふゆも / みしままに。 / めずらしげなき / みのみふりつつ。

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いとまなみ
君ききまさす
ば我ゆか
ん。ふみつくるら
んみちをしらばや。

いとまなみ、君がお聞きにならなければ私が行こう。踏み作るだろう道を知りたい。

発音の読み:いとまなみ / きみききまさず / ばわれゆか / ん。ふみつくるら / んみちおしらばや。

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我宿に
尋ねてきませ
ふみつくる。
道も敎へん
あひもみるべく。

我が宿に尋ねて来なさい、踏み作る道も教えよう、逢いも見られるように。

発音の読み:わがやどに / たずねてきませ / ふみつくる。 / みちもおしえん / あいもみるべく。

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さゆるよの
數かく鴨は
我なれや。
いく朝霜を
置てみつらん。

冴える夜の数を書く鴨は私であることよ。幾つの朝霜を置いて見たことか。

発音の読み:さゆるよの / かずかくかもは / われなれや。 / いくあさしもお / おきてみつらん。

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雪もふり
雨も降ぬる
この比を。
朝霜とのみ
おきゐてはみる。

雪も降り雨も降ったこの頃を、朝霜とのみ起きていては見る。

発音の読み:ゆきもふり / あめもふりぬる / このごろお。 / あさしもとのみ / おきいてはみる。

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うつゝにて
思へばいはん
かたもなし。
今宵のどを
夢になさばや。

現にて思えば言う方もない。今宵のことを夢になしたい。

発音の読み:うつつにて / おもえばいわん / かたもなし。 / こよいのことお / ゆめになさばや。

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志かばか
う契りし物
を。定なき。
さはよの常と
思ひなせどや。

然ればこう契った物を、定めない、さは世の常と思いなせどや(思わせるな)。

発音の読み:しかばかく / ちぎりしものお。 / さだめなき。 / さはよのつねと / おもいなせどや。

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うつゝどは
思はざらなん。
ねぬるよの
夢に見えつ
るうき事どもを。

現とは思うまい。寝ぬる夜の夢に見えた憂い事どもを。

発音の読み:うつつとは / おもわざらなん。 / ねぬるよの / ゆめにみえつる / うきことどもお。

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あな戀し
いまも見てし
か。山賊
の垣ほにおふ
る大和撫子

ああ恋しい、今も見たいものだ。山賊の垣穂に生える大和撫子よ。

発音の読み:あなこいし / いまもみてしか。 / やまぞくの / かきほにおうる / やまとなでしこ

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戀しくば
きてもみよかし。
千早振
神の諫る
道ならなくに。

恋しくば来ても見よかし。千早ぶる神の諫める道ではないのに。

発音の読み:こいしくば / きてみよかし。ち / はやぶるか / みのいさむるみ / ちならなくに。

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逢ふ路
は神のいさめ
にあらねど
も。法の庭に
をればたゝぬぞ。

逢う道は神の諫めではないけれど、法の庭にいれば立たないのだ。

発音の読み:おうみちは / かみのいさめに / あらねども。 / のりのにわにお / ればたたぬぞ。

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雪降れ
ば木々の木
のはも春
ならで。をしな
べ梅の花ぞ咲ける。

雪が降れば、木々の木の葉も春でなく、をしなべて梅の花が咲いた。

発音の読み:ゆきふれば / きぎのこのはも / はるならで。 / おしなべうめの / はなぞさきける。

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冬のよは
こひしきとに目
もあはで。
衣かたしき明
ぞしにける。

冬の夜は恋しいことに目も合わず、衣を片敷き明かしをしてしまった。

発音の読み:ふゆのよは / こいしきことに / めもあわで。 / ころもかたしき / あかぞしにける。

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冬のよは
めさへ氷にど
ざられて。明
しがたきを明
しけるかな。

冬の夜は目さえ氷に閉ざされて、明かし難いのを明かしたことよ。

発音の読み:ふゆのよは / めさえこおりに / とざされて。 / あかしがたきお / あかしけるかな。

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呉竹の
よゝのふる事も
もはゆる
昔がたりは
我のみぞせん。

呉竹の世々の古事も思われる、昔語りは私ばかりがしよう。

発音の読み:くれたけの / よよのふることも / おもほゆる / むかしがたりは / われのみぞせん。

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呉竹の
うきふし志げ
き世中
に。あらじとぞお
もふ志ばしばかりも。

呉竹の憂き節しげい世の中に、いないだろうと思う、しばらくの間も。

発音の読み:くれたけの / うきふししげき / よのなかに。 / あらじとぞおも / うしばしばかりも。

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